蒼の記憶

のどか

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ー弐ー

09.明日への作戦会議

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促されるままに母の着物に着替えて華乃は柚稀たちの話に加わりに行った。
が、しかし。

「どうしてこうなるんですか?」

雪雅の胡坐あぐらの上に抱き込まれている状態で華乃は振り向きながら凍えるような視線をその人に浴びせた。

「いやあ、お前が志乃殿にそっくりだからつい」
「ついって……。私は母上みたいに美人じゃありませんよ。
 というか母上とは関係ないでしょう」
「まぁいいじゃないか。
 おじさんと楽しい夜を過ごそう?」

艶やかな声を耳元に吹き込まれ華乃は小さく息を吐いた。
そして無言で腕を上げ、肘を振り下ろす。

「ぐっ!!無言で鳩尾みぞおちとは酷くないか!?」

患部に手を当てて涙目になる雪雅を見る華乃と柚稀の目は冷たい。
ついでに言うなら黎季は心底呆れた視線を雪雅に向けている。
絶対に主に向ける視線じゃない。

たわむれはそのくらいにしてください。
 今の華乃は年頃の女子ですぞ」
「はいはい。でも華乃ちゃんはおじさんの隣ね」
「イヤです」
「姉上……」

そんなバッサリ切って捨てなくても……。
大殿――いい年したオッサン――の顔が……。

「そんなことよりも私がいなくなった後の話を聞かせてください」
「あー……。そうですね、父上」
「うん、そうだな。雪雅様」
「俺?俺が言うの!?柚稀のほうが……」
「どうでもいいので早く教えてください」
「はい」

しゅんとした雪雅にかまうことなく華乃は話を促す。
そして語られる内容に顔を歪めた。
覚悟していたはずだった。
自分がいなくなることで出てくる様々な弊害だって理解した上で選んだことだった。
そしてあの時の出来得る限りの手を打ったつもりだった。
あの時の選択が間違いだったなんて思わない、思いたくない。
だけど――――。

「華乃、お前がそんな顔をする必要はない」
「ですが、」
「悪いのは私だ。
 ずっと目を逸らしてきた代償だ。
 それにお前のおかげで雅冬まさふゆ雅冬(まさふゆ)は生きている。立派にこの国を治めている」
「雪雅様……」

いいんだよ、ありがとう、と笑う雪雅に華乃は胸が苦しくなる。
多くのものを犠牲にして、多くの想いを踏みつけて、その結果がこれか。

「それでも、あなたから大切なものを奪ってしまいました。
 雅冬様にも、必要のない罪を背負わせてしまった。
 私が至らないばかりに、申訳ありません」

泣きそうな顔で頭を下げる華乃に雪雅はなんとも言えない顔をした。

華乃はよくやってくれた。
落ち度があるとすれば自分たちだ。
まさかあの夜、妻と雅臣むすこがあのような凶行に出るとは思わなかった。
……本当は分かっていて見過ごしたのかもしれない。
ただ、信じていたかっただけなのかもしれない。
実の息子を、雅冬を本気で葬ろうとするはずがないと。
そのせいで気づくのが遅れ、大切なものを二つも失った。
目に見えないものならばもっと多く失っているのだろう。

憂い顔の雪雅と頭を下げ続ける華乃を見て黎季はふうと息を吐いた。

「華乃、驕るなよ。
 お前ごときにすべてを上手くおさめる力があると思うのか」
「父上、」
「そんなものがあるのならば、この父はもっと楽に生きておるわ」
「……はい」

不器用な父の慰めに華乃は泣きそうな顔で頷いた。

「大切なのはこれからどうするか、ですもんね」

沈んだ気持ちを切り替えるように顔を上げる。
これから、という言葉に柚稀は難しい顔をして困ったようにつぶやいた。

「そうですねぇ、姉上が紫月兄上のままならうちの遠縁の娘としてお女中にでも推薦できたんですけど……」
「ちょっと待って。まさか、バラしたの!?」

ギョッと声を上げた華乃に無言を貫き、罰が悪そうに視線を泳がせたり、あからさまに顔をそむける三人。
その反応に鋭い視線を向け低い声で唸る。

「雪雅様、父上、柚稀」
「……申し訳ありません姉上」
「お前があんなことになっておじさんたちも取り乱しちゃったんだよぅ」
「そうだぞ、華乃。父は可愛い我が子をだな、」
「つまり、揃って呼んでしまったと?」

絶対零度の視線と声で問い掛けられて男三人は情けない顔で頷いた。
大きな溜息が漏れる。
そういう人たちだと分かってはいた。そんなところが好きだったりもする。
だけど、今回ばかりは紫月の名前で貫き通してほしかった。
それが自分の誓いであり誇りでもあったから。
どんなに、酷い死に方をしていても。
それでも幸せだったと思える生だったから。
華乃じゃなくて紫月として終わった時間だったから。
ガックリと項垂れている3人に華乃はふぅと息を吐いて困ったような笑みを浮かべた。

「もういいですよ。あの時は無茶した私が悪かったんです」
「そうだぞ。華乃お前は」
「父上。お説教は後で聞きます。雪雅様のお話も。
 だから、」
「よし!じゃあ華乃はおじさんのお世話をしなさい」
「どうしてそうなるんですか!?」
「大殿……?」
「だってさー城に潜入できないじゃん?
 おじさんのとこには信頼できる必要最低限の人間しかいないし、雅冬も時々くるし様子を探るには一番だと思うんだよねぇ」
「そう、ですね」
「華乃ちゃん!?
 ダメ!ダメだよ!父上は認めません!!」
「そうですよ、姉上。大殿のところに行くくらいなら私専属の女中として城にはいる方が安全です」
「……お前たちさっきから俺に失礼すぎじゃない?」
「「「もとからなので大丈夫です」」」
「………おじさん、いい加減泣きそうなんだけど」

声を揃えた親子に雪雅がガックリと肩を落とす。
あり得ないくらいに当たり前に受け入れられて華乃は無意識に張っていた肩の力を抜いた。
父上も雪雅様も柚稀も思うことはたくさんあるだろうに。
そう思いながらも華乃は三人の優しさに甘えて、笑いが溢れる輪の中で零れてしまいそうな涙を誤魔化すように笑った。

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