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ー弐ー
10.父の想い
しおりを挟む想像以上に美しく育ち還って来た娘に黎季は眉間に深い皺を刻んで重たい息を吐いた。
遠い昔、華乃たちの母を妻にと乞うた時に彼女が言っていた。
この感情は罪だと、そしてその罪はいずれ産まれてくるであろう子どもたちへと受け継がれ、とてつもない重荷を背負わせることになるだろうと。
そしてその予言めいた言葉を辿るかのように彼女がはじめて産んだ子は忌み子と世間から疎まれる双子で、しかも長男である紫月は元服する前に彼女の後を追い、その妹である華乃は自ら茨の道を歩く覚悟を決めた。
彼女がその命と引き換えに産み落としたまだ幼い末の子に嘘を吐くことを強いてまで華乃は険しい道を進み続けて、そして彼女と自分の想いの結末を背負って還らぬ人となった。
愛しい人と可愛い子どもたちを亡くして黎季はこれが望んではいけないものを望み、天の月を射落としたことへの罰だと思った。
だからせめて手元に残った最後の宝である末子だけは奪われることのないようにと生きてきたのだ。
けれどそれで終わりではなかったのだ。
その凄絶な最期とはかけ離れた穏やかな表情で眠りについたはずの娘が、還って来た。
またひとつ、彼女が残した言葉が当たった。
――――――運命が連れ去った愛し子はいずれ己が手で運命をねじ伏せるだろう――――
紫月であればいいと思った。
強く優しいあの子ならしかたないと受け入れてくれると思った。
女子の華乃が、泣き虫で優しい娘が、これ以上傷つくことはないと思った。
けれど、それはおそらく華乃だろうとも思っていた。
この国を守る龍神に仕えた巫女姫が産み落とした赤子。
この国を治める者に恐ろしいほどの執着を持って愛されている者。
紫月のはずがないのだ。
彼のお方に仕える前にその命を燃やしつくした息子のはずがないのだ。
「志乃……」
俺はどうすればいい……?
「それでもお前を選んだことを後悔していないなんて、俺は最低な父親だな」
「それでいいんですよ。父上」
「華乃……!」
「私が還ってきたのは私の為です。
だから、こんな私を受け入れてくださっているだけで私は十分に幸せ者です」
またお前は、そう言ってこの罪を薄めるのか。
罪深いこの想いをただ純粋な愛だといって、幸せなものだと笑うのか。
「というかそんなことよりも早く雪雅様のお屋敷に上がる許可をください」
「うそ!華乃ちゃん!?嘘!?空気読んで!?
今、そんな雰囲気じゃなかったよね!?すごく重い空気だったよね!?」
「チッ」
「今度は舌うちーーー!?」
「いいから許可寄こしやがってください」
「……はぁ、雪雅様じゃなく私付きの女中としてはいりなさい」
「父上……!!」
その言葉に瞳を輝かせる娘に黎季は諦めたように微笑んだ。
「華乃、おかえり」
「ただいまもどりました。父上」
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