10 / 13
幸福な夢
しおりを挟む夢を見た。
主に殺される、とても幸福な夢。
夢の中はどこまでも私に都合よくできていて、日ごとに募っていくこの想いを主に告げて殺される。
突き付けられた銃口。
躊躇いなく引かれた引き金。
それでも私を見つめる双眸は僅かな動揺が走っていて、少しは必要とされていたのかななんて。
オマケに痛みなんて感じなかった癖に撃たれたあとも感覚が残っているから、ポタリと頬に落ちてきたあたたかな雫の存在まで感じられて、かすれそうな声で私の名前を呼ぶ主の声まで聞こえちゃうんだから、本当に夢ってものは都合がいい。
でも、この夢を幸福だと思えても好きにはなれそうにない。
私にとってとても幸福な夢だったけど、だけど、夢の中の私は主を裏切ったから。
主が何よりも厭い、恐れ、嫌悪している言葉を口にした。
たった5文字。でもそれは私にとって絶対に言ってはならない言葉。
きっとこの心を伝えるにはその言葉を使うのが一番なのだろう。
もしかしたら、その言葉しか伝える術がないのかもしれない。
でも、それなら、私は伝えられないままでいい。
私は主の駒であり続ける。
「おい、何を泣いてやがる」
「ある、じ……?」
「寝るなら部屋で寝やがれ」
呆れた主の声にパチリと目を瞬いてあたりを見渡す。
確かにここは私の部屋じゃない。
でも、主が此処にいるなんて珍しい。
庭になんて何の用があったんだろう?
そんな疑問が顔に出ていたのだろう主はきゅうと眉間に皺を刻んで舌打ちを零すと背を向けた。
「……仕事だ。さっさとしやがれ」
「うん?」
今日の分は終わったはずなんだけど、また追加が出たのかな。
寝起きのポヤポヤした頭でとりあえず頷いて体を起こす。
パサリと寝転んでいたベンチから何かが落ちた音がして初めて気づいた。
主のジャケットが私にかけられていたことに。
遠ざかっていく背中を信じられない思い出凝視して拾い上げたジャケットを抱きしめる。
「……」
あぁもう!どうしてこの人は……!!
たまらなくなる。溢れそうになる。
だけど、その言葉だけは絶対に言えないから。
「主!!」
あなたを呼ぶ声にこの想いをのせることだけはどうか許してください。
*「5文字の呪い」「さよなら、おやすみ、ありがとう」とリンクしています。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
森本イチカ
恋愛
妹じゃなくて、女として見て欲しい。
14歳年下の凛子は幼馴染の優にずっと片想いしていた。
やっと社会人になり、社長である優と少しでも近づけたと思っていた矢先、優がお見合いをしている事を知る凛子。
女としてみて欲しくて迫るが拒まれてーー
★短編ですが長編に変更可能です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる