短編集

のどか

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幸福な夢

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 夢を見た。
 主に殺される、とても幸福な夢。
 夢の中はどこまでも私に都合よくできていて、日ごとに募っていくこの想いを主に告げて殺される。
 突き付けられた銃口。
 躊躇いなく引かれた引き金。
 それでも私を見つめる双眸は僅かな動揺が走っていて、少しは必要とされていたのかななんて。
 オマケに痛みなんて感じなかった癖に撃たれたあとも感覚が残っているから、ポタリと頬に落ちてきたあたたかな雫の存在まで感じられて、かすれそうな声で私の名前を呼ぶ主の声まで聞こえちゃうんだから、本当に夢ってものは都合がいい。
 でも、この夢を幸福だと思えても好きにはなれそうにない。
 私にとってとても幸福な夢だったけど、だけど、夢の中の私は主を裏切ったから。
 主が何よりも厭い、恐れ、嫌悪している言葉を口にした。
 たった5文字。でもそれは私にとって絶対に言ってはならない言葉。
 きっとこの心を伝えるにはその言葉を使うのが一番なのだろう。
 もしかしたら、その言葉しか伝える術がないのかもしれない。
 でも、それなら、私は伝えられないままでいい。
 私は主の駒であり続ける。

「おい、何を泣いてやがる」
「ある、じ……?」
「寝るなら部屋で寝やがれ」

 呆れた主の声にパチリと目を瞬いてあたりを見渡す。
 確かにここは私の部屋じゃない。
 でも、主が此処にいるなんて珍しい。
 庭になんて何の用があったんだろう?
 そんな疑問が顔に出ていたのだろう主はきゅうと眉間に皺を刻んで舌打ちを零すと背を向けた。

「……仕事だ。さっさとしやがれ」
「うん?」

 今日の分は終わったはずなんだけど、また追加が出たのかな。
 寝起きのポヤポヤした頭でとりあえず頷いて体を起こす。
 パサリと寝転んでいたベンチから何かが落ちた音がして初めて気づいた。
 主のジャケットが私にかけられていたことに。
 遠ざかっていく背中を信じられない思い出凝視して拾い上げたジャケットを抱きしめる。

「……」

 あぁもう!どうしてこの人は……!!
 たまらなくなる。溢れそうになる。
 だけど、その言葉だけは絶対に言えないから。

「主!!」

あなたを呼ぶ声にこの想いをのせることだけはどうか許してください。











*「5文字の呪い」「さよなら、おやすみ、ありがとう」とリンクしています。


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