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【06】タイムリミット ① ー休暇終了のお知らせですー
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数日後、ダニエルは再び村庁舎を訪れ、通信機器を借りた。
二度めなので、スムーズに対応は運んだ。
ダイヤルを回すと、すぐにセレーナがでる。
彼女からの電報には【至急折リ返セ】とあったから、電話を待っていたに違いない。
『ダニー、よかった。電報がちゃんと届いたのね』
「えぇ、連絡ありがとう。それより、何かあった?」
『え、えぇ。弟君とお母様からそれぞれ手紙が……あと、督促状もきてる』
「督促状?」
『借金の督促状だよ』
またかと、ダニエルは頭を抱えた。
ダニエルの生家は北西の下級貴族。
高祖父が戦争で手柄を立て、僅かな領地と爵位を与えられただけの、謂わば名ばかり貴族。
穀物の生えない山ばかりの領地で、獣を狩る木を売る織物を織るしか生計を立てられない貧しい暮らし。
それなのに高祖父は城の建造には金に糸目をつけず、資産を湯水の如く使ったとか。
それは祖父、父にも受け継がれ、彼等は持参金目当てに成金商家の娘を嫁にもらったが、あっという間に食い潰してしまった。
幼い頃から家計は火の車で、母は実家から度々支援を受けていたっけ。
食べる物に困る、冬が越せるかと不安になる。
持参した母の装飾品を売って、当座の金銭を稼ぐ。
貴族ながら、そんな事も度々あった。
肩書きと見栄だけは立派で中身のない生家にダニエルはほとほと嫌気がさしていたが、それでも情があり捨てられない。
『ポーラ君、お金に困ってるみたい。借金してるって、手紙に書かれていたよ』
高祖父から始まった浪費癖は、弟のポーラにもしっかり受け継がれている。
ダニエルは甘えたな長男様を思い出し、溜息をついた。
家督を継ぐからと、チヤホヤ育てられた五歳違いの弟。
ダニエルも彼をチヤホヤして育てた一人である。
その結果が今の現状に繋がっているが、いつまで尻拭いをすればいいだろう。
高給取りと持て囃される軍からの給金のほとんどをダニエルは実家へ仕送りしていたが、それでも足りず、このように度々金銭トラブルを起こすのだ。
「仕方ないわね」
とにかく、バカンスは終わりだ。
戻って、債務整理しなくちゃ。
明日の早朝の船に乗れば、夜には近くの都市に着く。
そこから蒸気機関車に乗り換え、二日で首都セーラスにたどり着く。
『お母様は、こっちに滞在してるそうよ。ね、大丈夫?』
言いにくそうに続けるセレーナに、ダニエルは気を遣わせて申し訳なく思った。
「ありがとう。うん、大丈夫よ。金の無心はいつもの事だから。明日、船に乗って帰るわ」
『……せっかくのバカンスなのに』
「少し早いけど、そろそろ戻ろうと思っていたところなの。だから丁度よかったわ」
嘘だ、本当はあと一週間は此方に滞在する予定だった。
でも強がって自分を発奮させなきゃ、やってられない。
『ねぇ……』
「ありがとう、セレーナ!じゃあ、三日後、そっちで会おう」
『……うん、気をつけてね』
何かを言いかけたセレーナの言葉を、先回りして塞ぐ。
ダニエルにだけ金銭的負担を強いる歪な親子兄弟関係、おかしな生家。
それを指摘されたくない。
わかっていても、気づかないふりをしていたいのだ。
二度めなので、スムーズに対応は運んだ。
ダイヤルを回すと、すぐにセレーナがでる。
彼女からの電報には【至急折リ返セ】とあったから、電話を待っていたに違いない。
『ダニー、よかった。電報がちゃんと届いたのね』
「えぇ、連絡ありがとう。それより、何かあった?」
『え、えぇ。弟君とお母様からそれぞれ手紙が……あと、督促状もきてる』
「督促状?」
『借金の督促状だよ』
またかと、ダニエルは頭を抱えた。
ダニエルの生家は北西の下級貴族。
高祖父が戦争で手柄を立て、僅かな領地と爵位を与えられただけの、謂わば名ばかり貴族。
穀物の生えない山ばかりの領地で、獣を狩る木を売る織物を織るしか生計を立てられない貧しい暮らし。
それなのに高祖父は城の建造には金に糸目をつけず、資産を湯水の如く使ったとか。
それは祖父、父にも受け継がれ、彼等は持参金目当てに成金商家の娘を嫁にもらったが、あっという間に食い潰してしまった。
幼い頃から家計は火の車で、母は実家から度々支援を受けていたっけ。
食べる物に困る、冬が越せるかと不安になる。
持参した母の装飾品を売って、当座の金銭を稼ぐ。
貴族ながら、そんな事も度々あった。
肩書きと見栄だけは立派で中身のない生家にダニエルはほとほと嫌気がさしていたが、それでも情があり捨てられない。
『ポーラ君、お金に困ってるみたい。借金してるって、手紙に書かれていたよ』
高祖父から始まった浪費癖は、弟のポーラにもしっかり受け継がれている。
ダニエルは甘えたな長男様を思い出し、溜息をついた。
家督を継ぐからと、チヤホヤ育てられた五歳違いの弟。
ダニエルも彼をチヤホヤして育てた一人である。
その結果が今の現状に繋がっているが、いつまで尻拭いをすればいいだろう。
高給取りと持て囃される軍からの給金のほとんどをダニエルは実家へ仕送りしていたが、それでも足りず、このように度々金銭トラブルを起こすのだ。
「仕方ないわね」
とにかく、バカンスは終わりだ。
戻って、債務整理しなくちゃ。
明日の早朝の船に乗れば、夜には近くの都市に着く。
そこから蒸気機関車に乗り換え、二日で首都セーラスにたどり着く。
『お母様は、こっちに滞在してるそうよ。ね、大丈夫?』
言いにくそうに続けるセレーナに、ダニエルは気を遣わせて申し訳なく思った。
「ありがとう。うん、大丈夫よ。金の無心はいつもの事だから。明日、船に乗って帰るわ」
『……せっかくのバカンスなのに』
「少し早いけど、そろそろ戻ろうと思っていたところなの。だから丁度よかったわ」
嘘だ、本当はあと一週間は此方に滞在する予定だった。
でも強がって自分を発奮させなきゃ、やってられない。
『ねぇ……』
「ありがとう、セレーナ!じゃあ、三日後、そっちで会おう」
『……うん、気をつけてね』
何かを言いかけたセレーナの言葉を、先回りして塞ぐ。
ダニエルにだけ金銭的負担を強いる歪な親子兄弟関係、おかしな生家。
それを指摘されたくない。
わかっていても、気づかないふりをしていたいのだ。
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