【完結】女王陛下、クビだけはご勘弁を 〜「できちゃった。責任とって」って、ソイツはヤリチン王子。できるはずがありません!!〜

アムロナオ

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【44】噂 ー二人だけの秘密ー

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「本当よ!女王陛下周辺の上級侍女達が、はりきってるらしいわよ」

 上級侍女とは、貴族出身のご令嬢達しかなれない特別な侍女である。
 ダニエルのような田舎の貧乏男爵ではなく、伯爵以上の正真正銘お嬢様しか女王陛下に仕える事はできない。

 彼女達の仕事は毎日宮殿に出仕し、下級侍女から手渡されたストッキングを渡したり、下級侍女が淹れたお茶を渡したり。
 たまに女王陛下のお喋りにつきあったり。
 そんな楽な仕事……だが水面下では熾烈しれつなライバル争いを繰り広げているらしい。

 女王陛下の寵愛を得れば、生家に権力をもたらせる。
 王子の目に留まれば、愛妾になれる。
 うまくいけば、正妻となり公爵家の一員として名を連ねられる。

 そんな野心溢れたご令嬢達が数十人、集まっているのだ。
 何も起こらないわけがない。
 互いの足を引っ張り、あの手この手でライバル達を蹴落としながら、権力の頂を目指す。

 下級貴族かつ階級の低い軍人であるダニエルは、その上級侍女達ですら易々とお目にかかれるものではない。
 由緒正しい家柄にともなう権力とは、実に巨大なものである。
 だからこそ商家出身の母ミランダは、あんなにも男爵夫人に執着するのかもしれない。


「今夜は念入りにお風呂に入らなきゃ。偶然、廊下でアル王子とすれ違うかもしれないし」
「バカねぇ。あたしらみたいな下々の者、相手にするわけないじゃない」

「わからないわよ!現に数年前、掃除婦やメイドが数名、王子の愛妾として宮殿を去ったらしいし」
「いいなぁ。どこかの高級アパルトマンを与えられ、使用人に傅かれて優雅な生活をしているんだろうなぁ」

「でも、アル王子ってどんな御姿なんだろう。彫像のように美しいってこと以外、なにもわからないじゃない。どうやって、廊下ですれ違ったのがアル王子か判断するのよ」

 これは興味深い話題である。
 そこんとこ、どうなの!?ダニエルも気になった。

「噂では陛下と同じく紫の瞳に白金の髪らしいけれど」
「紫の目は特徴的よね」

「でも女王陛下の家系には多い瞳の色なんでしょう?公爵様でも紫の瞳を持った方は何名かおられるし…」

「確かに瞳の色だけじゃわからないけど!アル王子は関係を持った女性に必ず言う口癖があるんだって」
「えぇ、なに!?」


「それはね…………”二人だけの秘密だよ”」
「ふたりだけの、ひみつだよ?」

 情報通のメイドは得意げに頷く。

「そう!閨を共にした後、必ずいうんだって。こう、優しく額にキスして……”二人だけの秘密だよ”って!」
「えぇ~、なにそれ!素敵ね」

「アル王子に秘密だよ、何て言われたら!頷いちゃうわ」
「そうよねぇー」

 いや……それはヤリチンの使う手では。
 後腐れなく終わりたいから、秘密と言って口止めして去るのだ。


 ダニエルは内心呆れたが、ふいに記憶の中で何かが転がった。
 道端を転がる石ころのように、些細なもの。
 だが、何かがダニエルの中にひっかかる。


 だがそれも急須が沸く音にかき消された。
 ポットに保温用の布を被せ、温めた茶器が載ったトレーを手渡される。
 ミルクポットや砂糖までちゃんと用意されてあり、お喋りしつつも仕事は完璧だ。

 ダニエルは彼女達に礼を言い、使用人室を後にした。


 待合室に戻ると、クライン執務官は美しい笑みを絶やさず、迎え入れてくれた。
 彼の微笑の色っぽさにあてられドギマギしながら、ダニエルは部屋の隅のサイドテーブルにお盆を置いた。

 今お茶を淹れたほうがいいだろうか。
 それともこのままにして、部屋をでたほうがいいかな。

 悩んでいるダニエルに気づき、「すみませんが、お茶を淹れていただけませんか」とクライン執務官は言った。

 銀のティーポットに茶葉を淹れ、陶器の湯ポットから熱々のお湯を注ぐ。
 砂時計をセットして茶葉を蒸らす間、ダニエルは彼が誰の執務官なのか訊ねたくて口がムズムズした。

 何方どなた様を補佐しているんですか?って聞くのは失礼かな。
 前からダニエルの事を知っていたのかも、気になる。
 准尉だって、言ってないよね?
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