10 / 42
FILE1『倶楽部』
10・勧誘
しおりを挟む「やあ、たくみ」
司が軽く手を上げてこちらにやってきた。相変わらずマイペースな空気を醸し出している。高田と話をしていたので、今まで遠慮していたのだろう。
「何だか、歩きづらそうにしていたけれど、大丈夫?」
保険医の先生に湿布を貼ってもらってけれど、やはり背中の痛みが取れなくて、背中をかばって歩いているのを司は見破ったのだろう。
「あいつとけんかして、背中を打った。でも大丈夫」
「ああ、佐久間と。あいつはクラスの大将だから、みんな怯えているんだ。それなのに、立ち向かえるなんて、たくみは勇気があるね」
「そんなんじゃないけどさ」
けんかをし合うことが勇気なんて言わないだろう、と思ったが、気配り上手の司はぼくに気を使って言ってくれた言葉だと気付いて、苦笑をしてしまった。
「お金って大切なものだろ。自分の親が一生懸命働いて、子供に使ってくれているものだからさ。だから、何度も持ってこさせるっていうのは、何か違うと思ったんだ」
「うん」
ぼくのどうでもいい主張を、司は親身になって頷きながら聞いてくれた。
「うちが貧乏だから、そう思うだけかもしれないけれど」
「いや、俺なんか、いつも親に反発してしまうから。たくみは偉いよ」
「犯人は、結局わからないままだし」
「そのことなんだけどさ、たくみ……」
新聞倶楽部の会報の後ろに、わざわざ画鋲で止めて隠しておくなど、かなり悪質ないたずらだと思うのだが、犯人はまだ見つかっていない。先生に聞いたが、まだ自首はしてきていないそうだ。高田が疑われてしまったり、この先また誰かが疑われてしまうのならば、ぼくは犯人をつきとめたいと思うのだが、『見つかったからもういい』と山岡が優等生的なコメントを話したため、この件は終息しそうだった。
「柏木、仙石が呼んでる」
ドアの近くで、クラスメイトが司に向かって叫んだ。昨日も来ていた女子生徒だ。今日も派手な格好をしており、ニヤニヤと司を手招きしていた。
「ああ、また来た。全く、俺を下僕だと思っているんだよ、あいつ」
ぶつぶつと文句を言いながら、司は仙石の元へと歩いて行った。
何やら話している二人をしばらく眺めていたが、やがて司がぼくを見て手招きをした。仙石も眼鏡をかけ直しながら、今度はニヤニヤとぼくを見ている。ぼくは立ち上がって廊下に出た。
「君が大谷くんか。初めまして、私は仙石 ハルカだ」
「はあ……大谷 たくみです。初めまして」
はっきりとした口調で話す仙石 ハルカは、髪をショートカットにしている。背はぼくよりも高いくらいだ。今まで同い年で、ぼくより背の高い子を見たことがなかったので、少し驚いた。
「君のことは司から聞いている。とても賢い子だそうだな」
「カシコイ? おれが?」
「うん」
司が頷いてぼくを見たが、ぼくは肩を竦めて呟いた。
「さっき馬鹿って言われたばかりなんだけど」
堅苦しい口調で、何だかこちらまで堅苦しくなってくる。ぼくは司をちらりと見た。
「すまない。倶楽部のとき、たくみのことを話してしまったんだ。川野先生が独身ということや、絵画コンクールのことをズバリと当てたって。それからハルカに、たくみのことを良く観察しておくように命令されていたんだ」
「観察?」
ぼくは訳がわからなくて、司を見ながら曖昧に首を傾げた。その様子を見た仙石は、ぼくの両手を掴んで身を乗り出した。
「さすがだ! 司から聞いたが、無くなった修学旅行費を見事見つけたそうだな。そこでスカウトをしに来た! 君は是非、我々のいる探偵倶楽部に入るべきだ!」
「……へ?」
大声で叫んだ仙石の声は、うちのクラス全体に響き渡った。
ひんやりとした視線を感じ取ったが、それは誰の視線なのか、ぼくは後ろを振り向かなくてもわかっていた。
FILE1.終わり
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる