6 / 42
FILE1『倶楽部』
6・高田と山岡
しおりを挟む
第一印象では、高田は読書好きの真面目な女子、山岡はふわふわした格好が好きなおとなしい女子、というイメージを受ける。
クラスの雰囲気としては、男子はうるさそうなガキ大将が一人いて、その周辺を賑やかな男子が囲んでおり、おとなしめの男子たちは教室の隅で穏やかに話している。
女子はグループがいくつか出来ており、固まって話をしている感じだ。こちらもやはりかしましそうなグループが数組、おとなしそうなグループが数組となっている。その中で高田という生徒は一人で読書をしているので、多少浮いてしまってはいた。
けれど、ぼくは高田のことを一目置いている。誰かと一緒にいないと不安になってしまうのに、ぴんと背筋を伸ばして周りの喧騒を気にせずに黙々と読書をしているのだ。周囲からの自分の評価や噂話など、恐らく彼女は気にしないタイプなのだと推測する。
山岡は、女子数名に囲まれて何やら慰められていた。恐らく修学旅行費が無くなったことに対しての慰めだと思うが、涙を流しているのが見えた。
そういう様子を見ると、嘘をついている様子には思えない。正直、もしかしたら山岡の狂言かもしれないと一瞬思ったのだが、あの涙が演技だとしたら相当だ。ということで、ぼくの中で狂言の可能性は消滅している。
こういう事件がクラス内で起こってしまうと、得てして雰囲気がギクシャクしてしまう。前の学校でも似たような事件はあったが、そのときもお互いに疑心暗鬼になってしまっていた。
転校早々そういう雰囲気になってしまったら、さすがに気が滅入ってしまいそうだ。ぼくは高田をぼんやりと眺めながらそう思った。
授業が終わり、何の進展もないまま放課後になった。ぼくは少し気になって、クラスメイトが帰った後、教室の隅々まで探してみた。さすがに個人の机の中は見なかったけれど、教卓の机の中は調べてみた。先生が入れたことを忘れてしまっているかもしれないからだ。まだ校内に生徒が少し残っているようだったが、ぼくは構わず教卓を覗き込む。書類や教材道具などがあったが、お金を入れる封筒は見つからなかった。
「何やってるの?」
背後から訝しげな声をかけられて、ぼくはビクリと肩を竦ませた。誰もいないと思っていたからだ。恐る恐る振り返ると、眼鏡をかけた少女がぼくを軽蔑したような目で見下ろしていた。高田だった。
「あ、ええと」
「勝手に先生の机を覗くなんて、最低。どれだけ非常識な男なの? それとも、都会っ子はみんなそうなのかしら」
例えて言うなら、キンとした氷のような鋭い声の持ち主だ。ぼくは立ち上がると、高田を見下ろした。背は女子にしては高い方だろうか。眼鏡の奥から、ぼくのことを凍てつく氷のような目で見上げていた。
ぼくは高田と向き合うと、肩を竦めた。
「山岡っていう女子の修学旅行費が無くなったと言っていたから、気になったところを探していたんだ。でも勝手に先生の机を探したら駄目だよな」
高田はじろりとぼくを睨み付ける。気が強いようだ。
「あの子もきちんと管理しておかないからよ。すぐ先生に渡さないから、こういう事態になったときに大きな問題になるのよ。とばっちりを受ける私たちの身にもなってほしいわね」
かなりきつい言い方だ。頷ける部分もあるけれど、許せる心というのも必要ではないだろうか。おっちょこちょいなぼくは、失敗は誰にでもあるという前提に基づいて行動しているため、このように自分にも他人にも厳しそうな人を見ると、ストレスが溜まってしまうのではないかと心配してしまう。
6.続く
クラスの雰囲気としては、男子はうるさそうなガキ大将が一人いて、その周辺を賑やかな男子が囲んでおり、おとなしめの男子たちは教室の隅で穏やかに話している。
女子はグループがいくつか出来ており、固まって話をしている感じだ。こちらもやはりかしましそうなグループが数組、おとなしそうなグループが数組となっている。その中で高田という生徒は一人で読書をしているので、多少浮いてしまってはいた。
けれど、ぼくは高田のことを一目置いている。誰かと一緒にいないと不安になってしまうのに、ぴんと背筋を伸ばして周りの喧騒を気にせずに黙々と読書をしているのだ。周囲からの自分の評価や噂話など、恐らく彼女は気にしないタイプなのだと推測する。
山岡は、女子数名に囲まれて何やら慰められていた。恐らく修学旅行費が無くなったことに対しての慰めだと思うが、涙を流しているのが見えた。
そういう様子を見ると、嘘をついている様子には思えない。正直、もしかしたら山岡の狂言かもしれないと一瞬思ったのだが、あの涙が演技だとしたら相当だ。ということで、ぼくの中で狂言の可能性は消滅している。
こういう事件がクラス内で起こってしまうと、得てして雰囲気がギクシャクしてしまう。前の学校でも似たような事件はあったが、そのときもお互いに疑心暗鬼になってしまっていた。
転校早々そういう雰囲気になってしまったら、さすがに気が滅入ってしまいそうだ。ぼくは高田をぼんやりと眺めながらそう思った。
授業が終わり、何の進展もないまま放課後になった。ぼくは少し気になって、クラスメイトが帰った後、教室の隅々まで探してみた。さすがに個人の机の中は見なかったけれど、教卓の机の中は調べてみた。先生が入れたことを忘れてしまっているかもしれないからだ。まだ校内に生徒が少し残っているようだったが、ぼくは構わず教卓を覗き込む。書類や教材道具などがあったが、お金を入れる封筒は見つからなかった。
「何やってるの?」
背後から訝しげな声をかけられて、ぼくはビクリと肩を竦ませた。誰もいないと思っていたからだ。恐る恐る振り返ると、眼鏡をかけた少女がぼくを軽蔑したような目で見下ろしていた。高田だった。
「あ、ええと」
「勝手に先生の机を覗くなんて、最低。どれだけ非常識な男なの? それとも、都会っ子はみんなそうなのかしら」
例えて言うなら、キンとした氷のような鋭い声の持ち主だ。ぼくは立ち上がると、高田を見下ろした。背は女子にしては高い方だろうか。眼鏡の奥から、ぼくのことを凍てつく氷のような目で見上げていた。
ぼくは高田と向き合うと、肩を竦めた。
「山岡っていう女子の修学旅行費が無くなったと言っていたから、気になったところを探していたんだ。でも勝手に先生の机を探したら駄目だよな」
高田はじろりとぼくを睨み付ける。気が強いようだ。
「あの子もきちんと管理しておかないからよ。すぐ先生に渡さないから、こういう事態になったときに大きな問題になるのよ。とばっちりを受ける私たちの身にもなってほしいわね」
かなりきつい言い方だ。頷ける部分もあるけれど、許せる心というのも必要ではないだろうか。おっちょこちょいなぼくは、失敗は誰にでもあるという前提に基づいて行動しているため、このように自分にも他人にも厳しそうな人を見ると、ストレスが溜まってしまうのではないかと心配してしまう。
6.続く
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる