王宮仕えのロゼ

埴輪

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イヴァン・グコフの場合

15. 悪寒に痺れる

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 侍女見習いは元々それなりの良家の娘達がなるものだ。
 貧しい貴族の娘が花嫁修業として、または婚姻相手を探す目的も含めて地方から王宮に務めに来る者も多い。
 王族や高位の貴族、そして国の政の中枢である王宮に仕えるのならばそれなりの身分が保証されないかぎり見習いになることはできない。
 もちろん侍女や侍女見習い達の身分は様々であり、一に家柄、二に縁故、三に能力の順で重きが置かれる。
 この能力の有無というのが家柄も特別な縁故も持たない平民が王宮に務めることができる唯一の機会である。
 年に何度か季節の変わり目に王宮では様々な役所の求人を出す。
 それは貴族位や財力を持たない平民や貧しい民への救済処置でもあるが、合格は非常に厳しい。
 どう見てもただの平民では突破することの出来ない無理難題の試験が用意され、城下町から、或いは都より遠く離れた辺境から給金と身分が保証された職を求める民達が毎年多く訪れる。
 口さがない試験無しで王宮に務めている者達からは「成り上がり組」と彼ら彼女らは呼ばれる。

 そして、ロゼもまた田舎から王宮の職を求めてやって来た。
 地味で真面目な印象を与える彼女は、その年の侍女見習いの試験に一発で合格したのである。
 元は良家の使用人の娘として可愛がられていたというロゼは様々な教養と知識を幼い頃に主夫婦から手ほどきされたらしく、当時の試験を担当をしていた侍女長が驚くほどの優雅さと上品さ、そして教養と聡明さがあった。
 彼女ならば確実に王宮の侍女として、もしかしたらいつかは王族付きの侍女になれるのではないかと侍女長は大層ロゼに期待し、特に目をかけるようになった。
 話を聞けば、一族で仕えていた田舎の良家は血筋が途絶え、彼女の両親も老いて亡くなってしまったらしい。
 一人職を求めて長い旅をして王都に来たというロゼは見るからに大人しそうな純朴な娘であり、更に仕えていた良家の伝手でとある貴族の身分証明書も持っていたため、誰も彼女の出自や過去を疑う者はいなかった。

 こうしてロゼはその年唯一の成り上がり組の侍女見習いとして王宮に務めることになる。
 元々が良家の出が多い他の同僚達とは少し距離を置かれたが、無視や苛めがあるわけでもない。
 元々の優秀さを買われたロゼはこの頃は他の同僚達の終わらない仕事を無言で手伝ったり、嫌味にならない程度の助言をしたりして徐々にその立場を強めていった。
 「大人しそうで話下手で、真面目だけが取り柄の田舎から出てきた侍女見習い」は「大人しそうで話下手で、真面目で優秀なお人よしの侍女見習い」という認識に変わった。
 もしもロゼが少しでも同僚達を馬鹿にしたり、得意気に助言などをすれば反感を買ったであろうが、彼女は実に人の心の機微を読むのが上手く、同僚達に悟られない程度の処世術で己と他人の仕事を率先してこなしていた。
 誰もが面倒がるような退屈な仕事や疲れる仕事でも、ロゼは傍から見ても機嫌良さそうに楽しそうにやっている。
 同僚達の仕事を手伝うのは善意ではなく、ただ単純にロゼが仕事をしたいだけなのではないかと思うほどだ。
 ロゼへの認識に仕事中毒、仕事が趣味の変わった娘というのがその内加わるのも時間の問題である。

 そして、侍女長や他の侍女見習い達からの評判もここの所上々のロゼは地方から来た王宮の使用人達専用の部屋を借りている。
 見習いの侍女達は実家が王都にある者も多く、そこから通う者や長期の休暇で実家に帰る者もいる。
 元から資産のある娘ならば見習いの事は所詮教養を高め、箔をつけるための花嫁修業の場であり、将来の伴侶を物色する場でしかない。
 規則が厳しい、女学院感覚の者も多い。
 
 そんな王宮の敷地で部屋を借りているロゼ達にも利点はある。
 完全な王宮務めになれば一々王宮を出て城下に行くにも実家に帰るにも複数の手間がかかる書類や上司の許可を得なければならない。
 その点、敷地内とはいえ、正式な王宮に住んでいるわけではないロゼ達はそれほどの手間を取らずとも規則と時間の範囲内であれば自由に外出ができる。
 外泊許可も正式な侍女に比べれば実にスムーズに行われるのだ。

 ロゼが外泊許可を願い出るのは初めてであり、彼女を教育している年配の侍女は規則として理由を聞いた。

「亡くなった両親の墓を管理してくれている知り合いに、お礼の贈り物をしたく…… 明日の休息日いっぱいを使って田舎にはない、王都の珍しい土産物を探そうと思いまして」
「まぁ、そうなの。それはとても素晴らしい心遣いね」
「ありがとうございます。何分、王都は今だ不慣れなものですから…… 土産に夢中で閉門の時刻に間に合わないかもしれないと思い、思い切って王都の宿屋で一泊したいと思ったのです」
「貴女は誰よりも真面目で仕事にも熱心で、少しばかり頑張りすぎではないかと思っていたの。ちょうどいいわ。息抜きも必要ですから、思い切り王都を楽しんでちょうだい」
「お心遣い頂き、ありがとうございます」

 ロゼは上司であり教育係でもある侍女に仕込まれた優雅な仕草で頭を下げた。
 スカートの裾を摘まむ仕草や足つきなど、実に惚れ惚れするほど様になっている。
 孫娘を見るような慈愛に満ちた眼差しで教育係の侍女はロゼにゆっくり身体を休むよう言ってその場を去った。
 その姿勢の良い後ろ姿が見えなくなるまでロゼは見送った。

 嘘をついたという罪悪感は無かった。
 元々ロゼは嘘で振り固められたような存在なのだ。






 イヴァンが何やら味を占めたらしく、あの夜の後すぐにまたロゼに接触して来た。
 ロゼが同僚の分もまとめて洗濯籠に大量のシーツを入れて廊下を歩いているときだ。
 曲がり角で待ち構えていたイヴァンを前にしても積み上がった洗濯物のせいで顔が見えず、反応が遅れてしまった。
 そのままイヴァンに軽々と籠を奪われ、柱の影に押さえつけられる。
 慌てて目を見開くロゼに構わず、イヴァンは適当に籠を床に置き、乱雑に靴でどかした。
 相変わらず腹の立つ嫌味な笑みを浮かべ、ロゼを悠然と見下ろすイヴァンはそのまま柱に押さえつけたロゼのスカートを捲り、腕を差し入れる。
 いくら柱の影に隠れているとはいえ、いつ誰が通るかも分からない昼間の廊下でのイヴァンの振る舞いに、ロゼは険しい表情でその不埒な動きをしようとする腕を抑えつける。
 約束が違うと、かつてない嫌悪感を滲ませるロゼの厳しい態度など気にもせず、イヴァンは柱に手をつけ、ロゼを間近で見下す。
 イヴァンも流石に目立つ場所でロゼを犯すつもりはない。
 ただ、少し揶揄いたかっただけなのだ。
 予想以上の冷たい反応はイヴァンの嗜虐心を呷るだけで、逆効果にしかならないが、わざわざ教えてやるつもりはない。
 イヴァンはわざと口づけするほど顔を近づけ、擽るようにスカートの中の太ももを撫でる。
 息をつめ、頬を赤くするロゼはその可憐ともいえる表情とは裏腹に、目に限りない殺意を込めてイヴァンを睨みつけていた。
 そろそろ本題を言わないと誰かに見つかってしまう。
 分かっていながら、ロゼの表情や仕草があまりにもイヴァン好みで、煽られる。
 本気でここで攫って今から倉庫にでも連れ込んで犯してしまおうかとも思ったが、さすがに仕事中にそれは無理な話だろう。
 
「お前、明日は休息日だよな」
「……それが?」

 あからさまにイヴァンには関係ないだろうと拒絶するロゼに、今すぐこの場で泣かしてやりたいのをイヴァンはどうにか耐えた。
 
「俺も明日は休息日だ。今晩から明日一日俺に付き合えよ」

 ロゼのショーツの上からわざとらしく筋を撫でる。

「また遠征に行くことになる。その前に、できるだけヤっときたいんだよなぁ」

 ロゼの耳たぶを齧りながら、イヴァンは楽し気に湿って来たロゼのショーツを弄り続ける。
 その感覚が堪らないのか、身体を震わせて声を耐えようとするロゼはイヴァンの遠征という言葉に驚喜しながらも、一体一日も使ってどれだけイヴァンが自身を犯すのかと考えただけでも怖ろしく、そしてそれに反して一層ショーツが濡れてしまう自分を恥じた。
 羞恥と屈辱に耐えるロゼの表情は酷く色っぽい。
 きちんと着ている侍女服の禁欲的な外見とは相反する官能的な色香にイヴァンはぞくぞくと背中に這い上がって来るものを感じた。
 本気でこのまま最後まで苛めてやりたい。

 それでも契約で成り立っているこの主従関係を壊す訳にはいかなかった。
 せっかく手に入れた玩具ロゼという名の性奴隷を手放す気は今の所ない。

「お返事は?」
「んっ…… は、ぃ」

 イヴァンがロゼの濡れたショーツ越しでも分かる突起した部分を爪で刺激すると、観念したようにロゼはか細い声で承諾した。
 急いで上司に外泊許可を貰わなければならないのと、イヴァンが聞いたことのないような名前の酒場に待ち合わせを指定してくるため、ロゼはため息を吐かないようにするのに苦労した。
 真面目で素朴と通っている侍女見習いの自分が酒場に一人で行くなど、王宮の誰かに見られたらどうするのだという怒りと焦りもあったが、それなりに短くない付き合いでイヴァンの悪辣さと意外にも契約に関しては守っている事実、それとどう足掻いて拒んでも逆らえない現状に仕方なく諦めた。
 そんなロゼの諦念の気持ちなどまったく気に掛ける様子のないイヴァンはもう既に今晩のことを考えていた。
 丸一日かけて、ロゼを監禁して犯す。
 鼻の良いイヴァンはもうすぐまた小さな小競り合いと牽制のための小規模の戦闘が起こることを予期し、出来る限り遠征の任務が来るまではロゼを犯しまくるつもりだ。
 戦争前にあえて禁欲をする者もいるが、イヴァンの場合は遠征だろうがなんだろうが性生活に変わりはない。
 どんな僻地にも女はいて、イヴァンが声をかければ簡単に釣れる。
 そもそもそんなことをしなくとも傭兵の女や看護役の女など、イヴァンに懇願して身体を差し出す女など腐るほどいるのだ。
 だからこそ、戦場に行く前にロゼを思い切り犯してしまいたいという欲望に突き動かされるイヴァンはある意味では異常なのだ。
 それを本人が自覚しているかはさて置き。

 このまま柱の影にいても、いつかは人が来る。
 ロゼに行先の酒場の場所も告げ、イヴァンも仕事に戻るため漸くロゼの身体を放した。 
 見せつけるように濡れた指先を目の前で舐め上げるイヴァンに、ロゼは視線を逸らした。
 
 床に置いてあるシーツの入った籠が目に入り、慌ててそれを持ち上げる。
 先ほどの色っぽい雰囲気を消し、どうにかいつも通りの侍女見習い姿を取り戻し、無表情でイヴァンに腰を下げる。
 簡易な礼だが、両手が塞がっている今は不作法にならない。
 それでも先ほどのイヴァンの悪戯な愛撫の熱が冷めないのか、その頬はまだ赤い。
 そのアンバランスな姿に、自身も我慢できなくなりそうな状態ですぐにでも立ち去ろうとしていたイヴァンは特に何も考えずに、この場を去ろうとしているロゼの腰を掴んだ。

「あっ」

 驚く暇もなく、ロゼはバランスを崩し、 間抜けな声を洩らしながら、床に落としてしまった籠、そして零れた大量のシーツを見ていた。
 シーツに夢中になっているロゼをイヴァンは再び柱の陰に連れ込み、押さえつける。
 イヴァンはまだ呆然と落としたシーツを見ているロゼの顎を掴み、無理やり視線を合わせた。
 そしてあまりにも突然のことで嫌悪も怒りもなく、きょとんとした幼げなロゼの表情を笑いながら、そのまま強引に口づけた。
 顎を掴んだまま、酷く乱暴に、そして情熱的にイヴァンはロゼの口の中全体を貪った。
 ほとんど衝動に近い自身の行動や欲求に逆らわず、イヴァンは逃がさないようにロゼの腰に片腕を回し、もう片方の手で顎を掴んだまま、より口づけが深くなるように角度を変えさせながらその唇や舌、唾液などを楽しんだ。
 
ちゅうっちゅうぢゅっ

 ロゼの甘い吐息とイヴァンの荒々しい吐息、そして唾液が啜られる音を誰かに聞かれるのではないかという恐怖と背徳感に、ロゼはこんな時でも正直な自分の身体を恨んだ。
 もじもじとスカートの下でイヴァンに熱を灯されたあそこの部分を太ももで擦り合わせることで誤魔化そうとする。
 それにイヴァンが気づかないはずもないのだが、興奮する身体とは裏腹に本気でもうロゼを解放しないといけないことを彼は理解していた。
 廊下に散らばってしまったシーツや大柄なイヴァンが女を襲っている姿は目立つだろう。
 仕方なく、イヴァンは一度ロゼの舌に自身の舌を根元まで絡ませて、吸い付いてから口を放した。
 息継ぎもなしに、突然濃厚な口づけをされたロゼは肩を震わせながら息を整える。
 先ほどとはまた違う、ロゼ本来の淫靡な姿に、イヴァンは何故か胸が満たされるような気がした。
 ロゼには、こうして感じて喘いでいる姿が一番似合うのだ。
 それがロゼの本質なのだから。

「夜まで、待てよ」

 ロゼの赤くなった耳元に囁きながら、イヴァンは舌なめずりしてロゼのスカート越しに尻を撫でた。


 
* *


 屈辱に歯を噛み締めながら、ロゼは急いでシーツを拾いあげて洗濯場に駆けて行った。
 例え王宮の使用人が通る廊下でも真面目なロゼが走るのは非常に珍しかったが、幸いにも見た者はいない。

 イヴァンはまるで兎が必死に捕食者から逃げるようなその必死な後ろ姿が愉快で仕方がなかった。
 そして、今晩から明日一日使ってたっぷりロゼを堪能し、腰が砕けるほど犯し潰す計画がよりイヴァンを上機嫌にした。
 だが、見習いであるロゼの休息日は基本一日だけだ。
 さすがに仕事や体調に影響が出れば、色々怪しまれる。
 仕方なくイヴァンはそれなりに高価な回復薬を同僚のヤンから貰う事にした。
 イヴァンは魔力があっても、ヤンのような繊細なことや知識のいることには使えない。
 元のセンスはあるので、催眠や暗示の呪いまじなはできるが。
 主にロゼとの逢瀬で人払いとして軽めの暗示の呪いを周囲にかけているが、もちろんロゼは知らない。
 何も知らず、いつ人が来るのかと焦り、怖がり、そしてイヴァンを恨みながら早く解放されようと自ら積極的に奉仕するロゼのいじらしい姿を眺めているのが楽しいからだ。

 そんな飢えた獣のような、そして捕えた獲物を少しずつ甚振るような嗜虐的なイヴァンの視線に、洗濯場に着いたロゼはぞくっと悪寒を感じた。

 今夜から明日にかけて、一体どう嬲られるのかと。
 ロゼはそれを考えるだけで途方もなく憂鬱な気持ちになり、仕事が終わった後の夕食のときもずっと食欲が無かった。
 いつもは根性で食べていたが、今回は本当に気持ちが落ち込み、スープと水だけで誤魔化した。
 イヴァンの悪戯によって燻る肉体の疼きが更にロゼの絶望感を倍増させるのだ。

 ロゼは嫌な予感しかしなかった。

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