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佐々木さんは基本がんばらない
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しおりを挟む佐々木は清水くんの言うはた迷惑なプチ同窓会に参加する気はなかった。
なかったのだが……
「佐々木? えっ、マジ、佐々木?」
閉店間際を狙おうと遅い時間に家を出たのがまずかったのか。
それよりも近くのコンビニで立ち読みしていたのが悪かったのか。
「俺、分かる? てか顔覚えてる? 仲の良かった清水、清水健司!」
背後からいかにもテンションが上がりまくっている男の声を聞いた瞬間、佐々木は反射的に「やばい、見つかってしまった」と思った。
実際その通りだ。
「……覚えてるよ。というか、二年前ぐらいに会ったよね?」
「あっ、そっか。馬場と高田の結婚式……てか、二次会?」
「そうだよ……」
「いやー、でも、あれだよな~ 佐々木、全然変わんないよなー 俺、一発で分かった。もう後ろ姿だけでそっこーささちゃんって分かった」
「……」
にかっと笑う清水くんはきっと褒めてるつもりなのだろう。
むしろ褒めて欲しいのか。
どうでもいいが「全然変わらない」と称された佐々木はあまり嬉しくなかった。
「それはこっちの台詞……って、」
半笑いを浮かべ、こそこそとその場を去ろうとした佐々木だったが、気づけば清水くんに片腕を取られていた。
「まだちょっと早いけど、店はこっから歩いてすぐそこだから」
「……はい?」
「もう、佐々木に断われたときはめっちゃ落ち込んだんだぜー? いやーすっかり騙されちった★」
「…………はぁ?」
こいつ何言ってんだ?と突然のことに佐々木の内心はパニック状態だ。
「同窓会だもんな、こういうサプライズ嫌いじゃねーよ。むしろガチでテンション上がって来たわっ、ほら、早く行こうぜっ! 他の奴らの老けた面とかめっちゃ見たい!」
「いや、だから…… やめて、手引っ張るの本当止めて」
「れっつらごー♪」
「……」
こいつ、実は危ない薬やってんじゃない?と、二年ぶりに会った元同級生に佐々木はすっかり呑まれてしまった。
そんな佐々木の心の内にまったく気づいてくれない清水くんは相変わらず煩く、空気が読めない。
「よかったよかった~」
身長が低く、妙に幼い顔立ちをした清水くんは佐々木を引っ張りながら、ポチポチとスマホを操作する。
ヒールのせいで佐々木と清水くんの身長はほぼ同じだ。
「あ、ごめんごめん。ゆっくり歩くわ」
早歩きの清水くんに引っ張られているせいでひょこひょこ歩きになっていた佐々木に申し訳なさそうに謝る清水くんは決して悪い奴ではない。
ただ人の話を聞かないのと、無駄に元気なのと、全体的になんかズレているのだ。
謝ってほしいのはそこではないと佐々木は言いたかった。
だが、一方の佐々木は基本だらしなく、全てが面倒くさい怠惰な女だ。
(もう疲れた……)
清水くんに捕まれていた手首を摩りながら、佐々木は歩く速さを合わせてくれているらしい清水くんに大人しく付いて行くことにした。
疲れたから、もういいやと思ったのだ。
佐々木は基本流されやすい。
流されやすいというよりも抵抗するのが下手なのだ。
「もしもしー?」
観念した佐々木に気づかず、清水くんは暢気に電話している。
「俺、俺。いや、俺だって!」
「……」
これがギャグではなく素なのだから恐ろしい。
「清水だって! ……ったく、相変わらず冷たい奴だなー」
清水くんの気安い口調は高校のときから変わらない。
電話の相手は佐々木も知っているような元同級生だろうか。
「だからお前も来いって。楽しいから絶対! メンバーもさ、結構集まったんだぜ?」
外はもう暗い。
首筋を夜の冷たい風が撫でる。
「さむ……」
ぼそっと呟く佐々木に清水くんは気づかず、電話に夢中だ。
「だから来いってー こうして集まれんのも滅多にないしさー」
そういえばあの後グループメールのやりとりを見ていなかった。
結局、どのくらい人が集まっているのか。
(……あいつは、来ないか)
ふと、浮かんだ奴の顔を慌てて打ち消す。
縁起が悪い。
佐々木にとって縁起が悪すぎる。
というか存在そのものが悪い。
「……」
そんな苦々しく顔を歪める佐々木に気づかず、清水くんの通話はまだ終わらない。
「なぁー、聞いてる?」
ここで忘れてはいけない。
清水くんは空気が読めないのだ。
「こうちゃんも来いよ」
ちなみに元同級生の『こうちゃん』は佐々木の元カレである。
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