君と地獄におちたい《番外編》

埴輪

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慰問

順従な人妻の淫らな献身

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 か細く、切ない声がロゼの唇から零れそうになる。

「んっっ…………!」

 官能的すぎる甘い嬌声は残念ながらロゼの最期の意地でくぐもった吐息へと代わっていた。
 全身を震わせ、冷たい机に頬をくっつけながらロゼは必死に片手袋を噛み締めて甲高い絶頂の嬌声を抑え込んだのだ。
 だが、いくら声を我慢してもロゼが果てたという事実に変わりはない。
 密室とは言い難い中で、ロゼはついにエアハルトの手技によって太ももを震わせながら達してしまった。
 ロゼの顔も項も、見える肌全てが茹でられたように赤く色づいている。
 瞬きするたびに睫毛に水滴がつき、それはやがて生理的な涙としてまろやかな頬を伝っていく。
 唾液で濡れた手袋を快感の余韻で放心したまま唇に寄せ、どこか呆然と宙を彷徨う濡れた瞳の色っぽさにエアハルトは大きく唾を呑み込み、唇を無意識に舐めた。
 久方ぶりの絶頂。
 ここが屋敷の夫婦の寝室ならばまったく問題はなかっただろう。
 だが、ロゼは今、軍部の夫の執務室で達してしまったのだ。
 それも立ったまま、指だけで。
 いつもよりもずっと早く、そして敏感に感じてしまったことにロゼは恥ずかしくて仕方がなかった。
 散々嫌がり、拒絶しながらもロゼの身体は正直すぎたのだ。
 そして想像以上にエアハルトに性的に触れられることに喜んでいる自分に気づいた。

「ロゼ……」

 勝手に一人で達してしまったロゼをエアハルトはいやらしく、そして愛し気に眺める。
 エアハルトのペニスはもうはち切れそうほどに膨れ上がり、硬い軍服をそのまま破いてしまうのではないかと思えるほど盛り上がっていた。
 痛いほどに興奮する欲望を強靭な精神で抑え込みながら、エアハルトは太ももを痙攣させ、今だ口から指を放さずに放心しているロゼの手をゆっくりと捉えた。
 繋がったままの左手はとにかく熱く、ロゼは無意識に達した瞬間に自身の親指を重ねられたエアハルトの親指に絡めた。
 甘えるようなロゼの無意識の仕草に反射的にエアハルトは強くロゼの手を握りしめ、二人はまるで共に果てたような錯覚を同時に抱いたほどだ。
 ロゼに快楽を与えた片手は残念ながらスカートのせいで愛液に濡れることはなかった。
 代わりにその手はロゼがずっと噛んでいた右手を掴み、その唾液で濡れた手袋に包まれた指先をエアハルトは口に含んだ。
 冷たい机の上で今だ熱い吐息を吐き出しているロゼは力が抜けたまま、背中に覆いかぶさるエアハルトの熱と重みに密かな安堵を抱いた。
 そもそもの元凶はエアハルトだというのに、どこまで行ってもロゼはエアハルトに甘く、全てを捧げていたのだ。
 振り向こうとすればエアハルトの頬に鼻先が当たるぐらい、二人の距離は近い。
 そのためロゼは涙で曇った視界でもはっきりとエアハルトの艶っぽく熱っぽい笑みが見えた。
 そしてエアハルトの下半身のあまりにも凶暴な様子を敏感な尻でしっかりと感じることができたのだ。

「そんなに、善かったのか?」

 背中はエアハルトの重みで熱いはずなのに、冷たい氷が背骨の上を滑り落ちるような感覚を覚えた。
 エアハルトの薄い唇が歪み、そして何かしゃべるごとにその唇に挟まれたロゼの指に湿っぽい吐息がかかる。

「ぁ……」

 手袋越しのそのじれったい熱にロゼは鼻にかかったような甘い吐息を零した。
 弛緩した身体はじれじれとこれから訪れるだろうエアハルトの欲望を心待ちにしている。
 最早取り繕うこともできない。
 エアハルトに強請られた時点で、ロゼの心は陥落していたのだから。
 心以上に正直な肉体が今更エアハルトを拒むはずがない。
 夫の手で開発された肉体は瑞々しい色気を放ち、エアハルトに食べられることを心待ちにしているのだ。
 意志の弱い自身を恥じながらも、ロゼは諦めと期待という相反する二つの感情に揺さぶられ、エアハルトがその白い歯でロゼの手袋の先を噛み締め、引っ張って脱がして行くのをじっと見つめていた。
 野性味溢れるその姿に胸が高鳴って仕方がない自分に呆れる。

ちゅぽっ

 ロゼの汗の味がする指先にエアハルトは喜々として吸い付く。
 厚い舌でロゼの繊細な指先を丹念に情熱的に舐めて、しゃぶる様は飢えた狼にも似た恐ろしさがある。
 だが、ロゼにはどうしてもその姿がミルクを求める子犬のように見えるのだ。

ちゅっちゅっ、じゅる

 吸い付き、そしてはむはむと甘噛みするエアハルトは眉間に皺を寄せている。
 エアハルトをよく知らない者達からすれば不機嫌な仏頂面にしか見えないが、付き合いの長い者ならばそこから更に良からぬ悪巧みを楽しんでいるような不穏なオーラを察しただろう。
 唯一、常人とは視点の違うロゼだけはぽぅっと見惚れるように甘い溜息を零した。

(なんて、可愛らしいのかしら……)

 きゅるきゅると胸をときめかせる妻の様子にエアハルトは見えないように口角を上げた。






 尻に当たる硬いものの大きさに、エアハルトが今相当窮屈で痛い思いをしているのではないかとロゼは考えてしまった。
 一生懸命に、ちろちろと舌でロゼの指を舐めるエアハルトの視線はただただ熱く、融けてしまいそうなほどに色っぽい。

(かわいい……)

 年下の妻がそんなことをぽわんっと、快楽と夫への過剰な愛情で蕩けて煮詰まった頭の中で考えていることをもちろんエアハルトは知らない。
 ただ、誘うような色でじっと見つめて来るのをエアハルトはしっかりと把握していた。
 そうなると狡猾な一面があるエアハルトは素晴らしくいやらしい笑みを浮かべて止めとばかりにロゼの掌に自身の頬を当てる。
 ロゼの唇が震えて何か紡ぎ出す前に、エアハルトは甘く囁くだけでいい。
 耳朶にそっと舌を這わせて、エアハルトはたっぷりの情念と欲望を滴らせて囁く。

「……ロゼ、お前が欲しい」
「旦那様……」
「……こんなに美味そうな匂いをさせている、お前が悪いんだぞ?」

 そういって項に鼻を寄せるエアハルトにロゼの心臓はずっと高鳴り続けている。
 エアハルトの汗の匂いもまたロゼの心臓を狂わせているのだ。
 擦れた低い声がどこか拗ねたように甘く鳴くのが堪らない。
 ロゼは自覚していた。
 エアハルトに甘えられ、求められることに自分が強い快感と精神的な満足感を抱いていることを。
 エアハルトに必要とされていることを確認できる行為に強い安寧を抱いていることを自覚していた。

「もう、限界だ……」

 肩に顎を乗せて覗き込むようにこちらを見つめるエアハルトはその強い眼光のせいで忘れがちだが、なかなかの美形だ。
 縋り付くような眼差しに熱っぽく荒い呼吸、そしていじらしく擦りつけて来る下半身の硬さにロゼはきゅんきゅんと胸を締め付けられる。
 そして同時に大好きな夫にこんな風に限界まで我慢させているということに深い罪悪感を抱いてしまう。
 はしたなく一人だけでエアハルトの手で果てたことに対する後ろめたさもある。

 着実にエアハルトの罠に嵌っていることに、ロゼは気づいていない。

 牙など当に抜かれた駄犬のような風情で甘え、いつその隠している牙を剥き出しにしようかと虎視眈々と機会を伺っている飢えた獣の厭らしい舌なめずりを。
 無駄に頭が回り、ロゼを前にするとプライドや意地というものを悉く捨ててしまうエアハルトのある意味では計算つくされたあざとい仕草はロゼにのみ効果抜群だった。
 エアハルトが少し情けない表情でロゼに強請るだけでいい。
 元から順従なロゼは可愛らしい顔を更に可愛らしくうっとりさせながらエアハルトの大抵の無茶を受け入れるのだ。

「褒美が欲しいんだ…… ロゼ」
「…………」

 エアハルトが切なげに鼻を寄せると、ロゼはそっと振り向いた。
 そして、ほんの少しの躊躇いの後、無言でエアハルトの鼻の先にちゅっと口づける。
 そのどこか子供っぽいキスがこの先の途轍もなく淫らで厭らしい行為への始まりの合図だ。

 そんなロゼの可愛らしすぎる応えにエアハルトは欲望に滾った目を妖しく細めた。



* *


 ロゼはせっかく侍女達が選びに選び抜いたドレスに皺をつけたり、汚したりなどはしたくなかった。
 ドレスもそうだが、涙のせいで化粧が崩れてしまった顔や、きっとこの後乱れてしまう髪型をどうしようかともぼんやり考えたが、すぐに今更もう手遅れだと項垂れた。
 内心で朝から張り切って着飾ってくれた屋敷の忠実な侍女達に謝りながら。

(こんな、意志の弱い主でごめんなさい……)

 ロゼは少し勘違いをしている。
 意志が弱いのではなく、ロゼがただ単純に夫のエアハルトに弱いのだということを。
 そしてその弱味に卑劣なまでに躊躇いもなく付け入ったエアハルトの狡猾さはある意味では賞賛に値する。
 自尊心など欲望の前ではただただ邪魔なだけだと思っているエアハルトは先ほどまでの情けなく甘えたな駄犬の皮を脱ぎ捨ててさっそく本性を露にしようとした。
 エアハルトの卑劣なおねだりに陥落したロゼをすぐさま貪ろうと、その逞しい腕が性急に動き出す。
 その手をロゼはなんとか押し留めた。
 人々に絶賛されたドレス。
 そのスカート部、恥ずかしくも濡れてしまった秘所の辺りはもう既に皺になりかけているが、なんとか誤魔化せる範囲内だ。
 だが、いくら光沢のあるサテン生地が皺になりにくくとも、エアハルトの力強い手で荒々しく捲られたり握りしめられたりしたら不自然な跡が残ってしまうだろう。
 また、色合い的にも万が一エアハルトの白濁がかかれば、もう誤魔化しはできない。
 ロゼの今日の装いはまるでエアハルトの不埒な欲望を予想していたかのように、少しばかり普段のドレスと違い下半身だけ露出させるのが難しい造りをしていた。
 これがスリッドの深い意匠であればエアハルトは喜々として割れ目のところから欲望に塗れた手を差し込んだことだろう。
 人魚の尾を模したスカート部分は美しいロゼの腰から下のなだらかな曲線を強調していたが、普段の大輪の花のように広がるドレスと違い手を差し入れにくいという難点があった。
 若く、尻の肉付きもまだまだ成熟には遠いロゼには聊か大人びすぎる今回のドレスをあえて最終的に選んだ侍女長はもしかしたらエアハルトのこの不埒な計画を半ば無意識に、あるいは本能で察していたのかもしれない。
 そんな地味な抵抗も、結局あっさりとエアハルトに陥落したロゼの甘さの前では無力でしかなかったが。

 ドレスに皺をつけたくないと言うロゼにエアハルトが難しい顔を一瞬見せた。
 着衣のまま何度か性交したが、そのときのロゼのドレスやワンピース、寝間着が無事に済んだことはない。
 破れたり、解れたりはしていないが、皺や乾いた粘膜のせいで繊維が妙な状態になっていることが多いのだ。
 エアハルトは今日のロゼの脱がすにも着せるにも侍女の手が必要なドレスを汚さずにいられる自信がなかった。
 裸にひん剥いて早々に仮眠室に連れて行こうかという考えがすぐに浮かんだが、エアハルトがそれを実行する前にロゼの方が先に行動してしまったのだ。
 エアハルトの欲望を受け止め、そしてその望みのままに褒美を差し出すことを了承したロゼは実に大胆で、躊躇いがなく行動も素早い。
 そして自覚があるのかないのか、エアハルトが息を呑むほど男の征服欲や支配欲、肉欲を煽ってくる。
 恥じらいながらも、ただ夫であるエアハルトのために乱れ、花開くロゼは世の男が望む妄想に近い理想の妻であった。

 そう。
 男を誘ったことも、誘う必要もなかった公爵家の高貴な令嬢であるはずのロゼ。
 人妻となった彼女は実に大胆に、夫の前でスカートを自分の手で捲り上げたのだ。

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