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純潔
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ディエゴとカイル。
二人はよく似ていた。
姿形や表情、細かい性格に剣筋まで。
この二人が対峙するのはある意味では運命である。
ディエゴがカイルに向ける視線はとにかく鋭く、冷たい。
メリッサに向ける、火傷しそうな情熱など一欠けらもない。
純粋な殺意のみをディエゴはカイルに向ける。
その中に途方もない嫉妬心があることに、その場で気づく者はいなかった。
先に動いたのはどちらか分からない。
メリッサに対する恨み言を叫ぶディエゴが突然カイルに襲い掛かったのか、それともカイルが隙をつこうと奇襲をかけたのか。
カイルに突き飛ばされたメリッサには二人が同時に動いたように見えた。
ディエゴは驚くほど素早い身のこなしで上段から剣を振り下ろし、それをカイルが受け止める。
刃と刃がぶつかり削られる嫌な音が神殿に響き、火花が散った。
カイルはディエゴの圧倒的なまでの力強さに驚きながらも、歯を食いしばり、上から圧してくるディエゴを睨みつける。
ディエゴもまた、獣が威嚇するようにカイルを睨み、早くその腸を掻き出して啜ってやりたいと望むかのように不気味に呻く。
体格の変わらない二人だが、上から圧してくるディエゴの方が有利であり、また悔しいながら純粋な力でもってしてもディエゴの方がカイルを圧倒していた。
互いを睨み合い、憎しみをぶつけ合う二人。
随分と長い睨み合いだと思われたが、傍から見ていたメリッサには一瞬の出来事だった。
カイルに突き飛ばされたメリッサは床に倒れ、そして呆然と二人の男が殺意と憎悪を燃え上がらせて火花を散らすのを見るしかなかった。
だが、二人の実力差を知るメリッサは時間が経てば経つほどカイルが不利になるのが分かった。
メリッサも多少の武術の心得と剣術を使うことができたが、今の自分がただの足手まといだということを理解している。
メリッサにはどうすることもできなかった。
カイルを足止めにして、この場を逃げたとしてもディエゴやその仲間にすぐに捕まってしまう。
あれだけの執着を抱いているのだ。
ディエゴは地の果てまでメリッサを追いかけ、逃がさないだろう。
そして、メリッサの予想通りにカイルはじりじりとディエゴに追い詰められていく。
あのディエゴを相手につい数年前まではまともな剣術も鍛錬も知らなかったカイルが所々斬られながらも今だ致命傷を負っていないのは奇跡であり、やはりカイルはディエゴと同じぐらいの実力を秘めていることが分かる。
カイルがディエゴと同じ教育を受けていれば結果は変わったかもしれない。
しかし、今はそれを言っても仕方がなく、ディエゴはついにカイルの剣を持つ手を斬りつけ、落とした彼の剣を横に薙ぎ払った。
カイルはもうその時点で自分の敗北を悟り、首にディエゴの剣先を突きつけられながらも、背後にいるメリッサに逃げるよう叫んだ。
カイルが命がけでメリッサを守ろうとする姿を見たディエゴは無表情でその腹を蹴りつける。
殺す勢いで蹴りつけられたカイルは、その場に堪らず倒れ、そしてそこから容赦なくディエゴはカイルの腹や胸、顔面を蹴りつけて行く。
骨が砕け、内臓が破裂してもディエゴは執拗にカイルを痛め続けた。
それをメリッサが黙って見るはずもなく。
「動かないで!」
メリッサはディエゴが薙ぎ払ったカイルの剣を両手に持ち、その背中に向けていた。
「……」
「……カイルから離れて」
腕力に乏しいメリッサはカイルやディエゴが持つような長剣に自分が向かないことを知っている。
そもそも騎士ぐらいしか長剣を使わない。
斬るよりも馬上で敵兵を鎧ごと叩き落とすのに使われているのだから。
メリッサの細腕ではディエゴを突き刺すことも、斬ることもできない。
ただ、一瞬の脅しとしてディエゴの動きを止めるだけだ。
このままカイルが嬲り殺されるのを黙って見るぐらいなら、メリッサは死を選ぶ。
そして自害をするならばせめて一筋ぐらいディエゴに傷を負わせたいと思った。
「…………」
背後から剣先を向けられたディエゴは気絶したカイルへの暴行を止めると、しばらく何も言わずに立ち尽くした。
だらりと下を向くディエゴの剣を意識しながら、メリッサはふるふると腕が震えるのを耐えた。
そして、重い沈黙に支配された神殿に突然狂ったような哄笑が響く。
肩を震わせ、眼帯を押えて、心底可笑しいとばかりにディエゴが笑っていた。
背中に突きつけられた剣など気にする素振りも見せず、可笑しくて可笑しくて仕方がないというように腹を抱えて笑う。
そして、振り向いて背後に立つメリッサを見下す。
戸惑いながらも、真っ直ぐな眼差しでディエゴを見上げる花嫁姿のメリッサ。
重たいだろう剣を両手で握りしめ、健気にディエゴを睨むメリッサが可笑しかった。
「俺に剣を向けるのか? この、俺に?」
なんて素晴らしい冗談だろうと、ディエゴは軽くメリッサの構えた剣を薙ぎ払う。
腕の力が限界に達していたメリッサはあっさりと剣を落とした。
メリッサに剣は似合わない。
生まれた時からずっと大事に守られて来たのだ。
ディエゴがずっとメリッサを守って来たのだ。
「ずっと、お前を守って来た俺に剣を向けるのか、メリッサ」
歪んだ笑みを浮かべるディエゴに、青褪めながらメリッサは睨むことをやめない。
ディエゴの威圧感に膝を震わせながらも、メリッサは最後まで目を逸らさなかった。
「……お兄様のような卑怯者に守られていたことが、私の一生の恥よ」
次の瞬間、メリッサは頬に受けた衝撃でその場に倒れた。
鋭く痛々しい皮膚を叩く音が神殿に響く。
床に倒れたメリッサは唖然と、痛みよりも燃えるように熱い片頬を抑える。
ディエゴがメリッサの頬を引っ叩いたのだと気づくのに時間がかかった。
ディエゴに手を上げられたのはこれが初めてだった。
あまりの衝撃で唇は切れ、舌も噛んでしまい、口の中に血の味が広がった。
メリッサを叩いたディエゴは獣のように呻き、尋常ではない汗をかきながら、メリッサを睨みつける。
メリッサを叩いた手を握りしめ、苦痛に耐えるように歯を食いしばり、眉をしかめていた。
額の青筋や首まで真っ赤にしたディエゴの形相はまさに悪鬼の如き禍々しさだ。
怒りに震えながらディエゴは頬を赤く腫らし、唇を真っ赤にしたメリッサに怒鳴る。
「恥だと……? 俺がお前をどれだけ大事にして来たと思う!? お前が生まれた時から俺はずっとお前を守って来た、愛していたんだ!」
髪を掻きむしりながら怒鳴るディエゴを呆然とメリッサは見つめ、そして気づけば床に倒れたメリッサの上にディエゴが馬乗りになっていた。
「何故だ? 何故分かってくれない? 俺があれだけお前に尽くしていた年月を、何故お前は分かってくれないんだ!? お前はどれだけ俺を裏切り、侮辱するつもりだ? なぁ、メリッサ!」
メリッサに馬乗りになったまま、ディエゴは今度はその反対の頬を引っ叩いた。
衝撃を逃すことも出来ず、鋭い痛みがメリッサを襲う。
暴力というものを、メリッサは初めて受けた。
このまま痛めつけられて殺されるのだろうかと怖れる気持ちと、ディエゴに屈服するぐらいならこのまま殺された方がマシだという気持ちがあった。
頬を赤く腫らし、生理的な涙を耐えながらメリッサは強情なまでに自身を見下すディエゴを睨むのをやめない。
それがよりディエゴを苛立たせることを知りながら。
苛立ち、荒れ狂う心と裏腹にディエゴは自身の下にあるメリッサの柔らかな肢体に興奮していた。
「裏切者には死を与えなければならない。それがこの国の正義だ。そうだろう? メリッサ」
吐息がメリッサの顔にかかるほどディエゴは近づく。
狂気に満ちた左目がメリッサを射抜き、そのままディエゴは片手でメリッサの両頬を掴む。
腫れた頬に無骨で力強いディエゴの手は容赦がなく、メリッサに鋭い痛みを与えた。
「……だが、お前を楽には殺さない」
抗議しようと口を開こうとしたとき、メリッサの口はディエゴによって塞がれた。
二人はよく似ていた。
姿形や表情、細かい性格に剣筋まで。
この二人が対峙するのはある意味では運命である。
ディエゴがカイルに向ける視線はとにかく鋭く、冷たい。
メリッサに向ける、火傷しそうな情熱など一欠けらもない。
純粋な殺意のみをディエゴはカイルに向ける。
その中に途方もない嫉妬心があることに、その場で気づく者はいなかった。
先に動いたのはどちらか分からない。
メリッサに対する恨み言を叫ぶディエゴが突然カイルに襲い掛かったのか、それともカイルが隙をつこうと奇襲をかけたのか。
カイルに突き飛ばされたメリッサには二人が同時に動いたように見えた。
ディエゴは驚くほど素早い身のこなしで上段から剣を振り下ろし、それをカイルが受け止める。
刃と刃がぶつかり削られる嫌な音が神殿に響き、火花が散った。
カイルはディエゴの圧倒的なまでの力強さに驚きながらも、歯を食いしばり、上から圧してくるディエゴを睨みつける。
ディエゴもまた、獣が威嚇するようにカイルを睨み、早くその腸を掻き出して啜ってやりたいと望むかのように不気味に呻く。
体格の変わらない二人だが、上から圧してくるディエゴの方が有利であり、また悔しいながら純粋な力でもってしてもディエゴの方がカイルを圧倒していた。
互いを睨み合い、憎しみをぶつけ合う二人。
随分と長い睨み合いだと思われたが、傍から見ていたメリッサには一瞬の出来事だった。
カイルに突き飛ばされたメリッサは床に倒れ、そして呆然と二人の男が殺意と憎悪を燃え上がらせて火花を散らすのを見るしかなかった。
だが、二人の実力差を知るメリッサは時間が経てば経つほどカイルが不利になるのが分かった。
メリッサも多少の武術の心得と剣術を使うことができたが、今の自分がただの足手まといだということを理解している。
メリッサにはどうすることもできなかった。
カイルを足止めにして、この場を逃げたとしてもディエゴやその仲間にすぐに捕まってしまう。
あれだけの執着を抱いているのだ。
ディエゴは地の果てまでメリッサを追いかけ、逃がさないだろう。
そして、メリッサの予想通りにカイルはじりじりとディエゴに追い詰められていく。
あのディエゴを相手につい数年前まではまともな剣術も鍛錬も知らなかったカイルが所々斬られながらも今だ致命傷を負っていないのは奇跡であり、やはりカイルはディエゴと同じぐらいの実力を秘めていることが分かる。
カイルがディエゴと同じ教育を受けていれば結果は変わったかもしれない。
しかし、今はそれを言っても仕方がなく、ディエゴはついにカイルの剣を持つ手を斬りつけ、落とした彼の剣を横に薙ぎ払った。
カイルはもうその時点で自分の敗北を悟り、首にディエゴの剣先を突きつけられながらも、背後にいるメリッサに逃げるよう叫んだ。
カイルが命がけでメリッサを守ろうとする姿を見たディエゴは無表情でその腹を蹴りつける。
殺す勢いで蹴りつけられたカイルは、その場に堪らず倒れ、そしてそこから容赦なくディエゴはカイルの腹や胸、顔面を蹴りつけて行く。
骨が砕け、内臓が破裂してもディエゴは執拗にカイルを痛め続けた。
それをメリッサが黙って見るはずもなく。
「動かないで!」
メリッサはディエゴが薙ぎ払ったカイルの剣を両手に持ち、その背中に向けていた。
「……」
「……カイルから離れて」
腕力に乏しいメリッサはカイルやディエゴが持つような長剣に自分が向かないことを知っている。
そもそも騎士ぐらいしか長剣を使わない。
斬るよりも馬上で敵兵を鎧ごと叩き落とすのに使われているのだから。
メリッサの細腕ではディエゴを突き刺すことも、斬ることもできない。
ただ、一瞬の脅しとしてディエゴの動きを止めるだけだ。
このままカイルが嬲り殺されるのを黙って見るぐらいなら、メリッサは死を選ぶ。
そして自害をするならばせめて一筋ぐらいディエゴに傷を負わせたいと思った。
「…………」
背後から剣先を向けられたディエゴは気絶したカイルへの暴行を止めると、しばらく何も言わずに立ち尽くした。
だらりと下を向くディエゴの剣を意識しながら、メリッサはふるふると腕が震えるのを耐えた。
そして、重い沈黙に支配された神殿に突然狂ったような哄笑が響く。
肩を震わせ、眼帯を押えて、心底可笑しいとばかりにディエゴが笑っていた。
背中に突きつけられた剣など気にする素振りも見せず、可笑しくて可笑しくて仕方がないというように腹を抱えて笑う。
そして、振り向いて背後に立つメリッサを見下す。
戸惑いながらも、真っ直ぐな眼差しでディエゴを見上げる花嫁姿のメリッサ。
重たいだろう剣を両手で握りしめ、健気にディエゴを睨むメリッサが可笑しかった。
「俺に剣を向けるのか? この、俺に?」
なんて素晴らしい冗談だろうと、ディエゴは軽くメリッサの構えた剣を薙ぎ払う。
腕の力が限界に達していたメリッサはあっさりと剣を落とした。
メリッサに剣は似合わない。
生まれた時からずっと大事に守られて来たのだ。
ディエゴがずっとメリッサを守って来たのだ。
「ずっと、お前を守って来た俺に剣を向けるのか、メリッサ」
歪んだ笑みを浮かべるディエゴに、青褪めながらメリッサは睨むことをやめない。
ディエゴの威圧感に膝を震わせながらも、メリッサは最後まで目を逸らさなかった。
「……お兄様のような卑怯者に守られていたことが、私の一生の恥よ」
次の瞬間、メリッサは頬に受けた衝撃でその場に倒れた。
鋭く痛々しい皮膚を叩く音が神殿に響く。
床に倒れたメリッサは唖然と、痛みよりも燃えるように熱い片頬を抑える。
ディエゴがメリッサの頬を引っ叩いたのだと気づくのに時間がかかった。
ディエゴに手を上げられたのはこれが初めてだった。
あまりの衝撃で唇は切れ、舌も噛んでしまい、口の中に血の味が広がった。
メリッサを叩いたディエゴは獣のように呻き、尋常ではない汗をかきながら、メリッサを睨みつける。
メリッサを叩いた手を握りしめ、苦痛に耐えるように歯を食いしばり、眉をしかめていた。
額の青筋や首まで真っ赤にしたディエゴの形相はまさに悪鬼の如き禍々しさだ。
怒りに震えながらディエゴは頬を赤く腫らし、唇を真っ赤にしたメリッサに怒鳴る。
「恥だと……? 俺がお前をどれだけ大事にして来たと思う!? お前が生まれた時から俺はずっとお前を守って来た、愛していたんだ!」
髪を掻きむしりながら怒鳴るディエゴを呆然とメリッサは見つめ、そして気づけば床に倒れたメリッサの上にディエゴが馬乗りになっていた。
「何故だ? 何故分かってくれない? 俺があれだけお前に尽くしていた年月を、何故お前は分かってくれないんだ!? お前はどれだけ俺を裏切り、侮辱するつもりだ? なぁ、メリッサ!」
メリッサに馬乗りになったまま、ディエゴは今度はその反対の頬を引っ叩いた。
衝撃を逃すことも出来ず、鋭い痛みがメリッサを襲う。
暴力というものを、メリッサは初めて受けた。
このまま痛めつけられて殺されるのだろうかと怖れる気持ちと、ディエゴに屈服するぐらいならこのまま殺された方がマシだという気持ちがあった。
頬を赤く腫らし、生理的な涙を耐えながらメリッサは強情なまでに自身を見下すディエゴを睨むのをやめない。
それがよりディエゴを苛立たせることを知りながら。
苛立ち、荒れ狂う心と裏腹にディエゴは自身の下にあるメリッサの柔らかな肢体に興奮していた。
「裏切者には死を与えなければならない。それがこの国の正義だ。そうだろう? メリッサ」
吐息がメリッサの顔にかかるほどディエゴは近づく。
狂気に満ちた左目がメリッサを射抜き、そのままディエゴは片手でメリッサの両頬を掴む。
腫れた頬に無骨で力強いディエゴの手は容赦がなく、メリッサに鋭い痛みを与えた。
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