嫌われ者の君へ

コリン

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番外編〜春休み(最終)

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荒い息だけが聞こえた。

お風呂上がりだからかな。
首筋に流れる汗が、余計に身体を火照らせる。

暑い、暑い、暑い…

布の擦れる音と、二人の声と、息遣い。

東崎の手は私の身体を強く掴み、

私は必死に東崎の浴衣を握りしめていた。

「っ…はっ…さ、彩月…っん」

「っ…あっ…ふっ…んん…」

二人の唇が離れた時、
僅かに開いた口から大きな吐息が漏れた。

東崎は、私の身体を放すとそのまま私の隣に倒れこんだ。

二人して汗びっしょりで胸を上下に動かして、黙って天井を見ていた。





「嫌だ」

扉が閉じる音と共に東崎の私の名を呼ぶ声が重なった。

私は襖を閉めて、東崎の襟首を引っ張った。

もう、距離なんてない。

私はそのまま東崎に口づけをした。

東崎は一瞬驚いたようだが、そのまま私の腰を引くと
いつもと違う…ソフトなキスじゃなくて、

私が体験したことのないような、
身体がとろけてしまいそうな、
熱を持ったキスだった。

私は引かれる腰とは真逆にその力強さに圧倒されて
逃げ腰になっていた。

上半身が反り上がる、
でも、逃げることを東崎は許さなかった。

そのままキスが続いて、何分経っただろうか。

でも、ただ幸せという感情だけが私を取り巻いていた。





「…ふぅ~。彩月、大丈夫?」

身体を少しだけ起こして、私の方を向いて頬杖をつく東崎。

後ろからは月明かりが照らしていた。

「ちょっと…苦しいけど、大丈夫。」

私は微笑んで、東崎の頬に手を添えた。

東崎の顔は逆光でもわかるくらい、赤くなっていた。

嬉しそうに微笑んだ東崎は、私の手に、手を重ねた。

「ねぇ、彩月…俺、ちゃんと彼氏できてるかな」

「な…なんで、そんなこと…。ううん、不安にさせてごめん。ちゃんと、彼女やれなくてごめん。私、こういうの慣れてなくて、色恋沙汰なんて全くもっての存在だったし、だから、東崎とも、男の人とも、友達とも、何にもわからない。私は夏子みたいに愛嬌ある人じゃないし、良い彼女になろうって思っても…ううん、それどころじゃなくて東崎に嫉妬ばっかしてた」

「俺が好きなのは彩月。取り繕ってる、余裕ある彩月だけじゃないんだよ?もちろん最初はそんなところに惹かれた。でもね、付き合って見えてくる彩月のいろんなところ、全部含めて好きなんだよ。照れ隠しするところとか、素直じゃないところとか、バカっぽいところとか、涙もろいところ、優しいとこ、面白いところ、全部全部」

「でも、わたっ…」

東崎がすっと私の髪の毛を掬う。

そしてそのまま髪にキスをした。

「どうしてそんなに、綺麗なの」

私はそのまま目を閉じる。

東崎の手が伸びてきて、震える私の頬に触れた。

「ねぇ、彩月…」

小さく開いた目から、私は東崎の肩越しに見える月を見た。

「いいの?」

私は頬にキスをした。

大丈夫、絶対に後悔しないから。


ー完ー
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