最弱で駆ける道

じゃあの

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第一章 『始まりの洞窟』

第五冊 『剣と魔法』

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「うん、ヨウ、適性皆無だね」
「なん……だと……!?」

 とは、|魔法適正調査盤(マッチョ)に血が浸透し、四方の内どれも光らなかったのを見たカルムの発言だ。確かに、地は浸透した。だが、三角形がどれも光らない。今となっては輝きさえも消え去り、詠唱をする前の状態に戻っている。

 そしてカルムの言葉。つまりこれは───

「俺、魔法使えない!?」
「そういう訳でもない。この適正は中級以上の魔法を扱う際に必要になるだけで、魔法、と広く考えるのなら、初級魔法は陽でも使えるはずだよ」
「あ、そうですか」

 一瞬、最悪の事態を想定したが、そういう訳でもないらしい。
 だが結局、陽はこの四つの適性の中、何一つ使えないわけで。初級は使えると言っても、名前からしてあまり役に立ちそうにない。きっと、日常生活レベルの魔法なのだろう。

 ───ふと思い出したが、陽はこの魔法適正調査盤マッチョの三角形の色が表す適正や、この世界の魔法のことに関して何も知らない。ある程度の異世界魔法知識で片づけているが、実際には魔法について何も知らない状態だ。

 なぜ、適性がないのに初級魔法が使えるのか。など、しっかり聞いておくべきだろう。陽は指の血を服で拭うと、少し痛みを感じながら口を開いた。

「そういえばさ、俺まだこの世界の魔法について何も知らないんだけど……もしよければ教えてくれない?」
「魔法適正が無いというのに、結構あっさり切り捨てるんだね……まあいいけど。魔法についてか……というか、それすら忘れているのかい? この世界の一般常識だよ?」
「いや、まあ記憶喪失だし……」
「いやでも、えぇ? ……どういう説明をしたらよいのやら……」

 顎に手を当てながら悩むカルム。
 何をそんなに悩むというのだろうか。普通に、この世界の魔法について教えてほしいだけだ。適性やら、属性やら、大概の話を理解することは出来るだろう。しかし、なぜ、こんなにもためらって────

「……よし、分かった。陽の言っている意味がよく分からないけど、一応頑張ってみよう」
「? お、おう」







 ─────その話を聞いた後で陽が最初の自分の発言を思い出せば、カルムが困惑するのも無理はない、と言う感想を抱くだろう。
 聞いた内容を、なるべくわかりやすく、噛み砕き、要約し、この世界の魔法について何も知らない人に説明するのなら、こうだ。

 この世界にとって魔法とは、あって当然のものである。というのも、この世界の魔法は地球の創作物で言われているような、科学では解明できないメルヘンや、不可能を可能にする力ではない。
 言わば、世界を構成する上で必要不可欠な要素なのだ。

 魔法とは存在して当たり前のもの。誰かが作っただとか、何時から存在していたかとかではなく、世界が誕生した時点で既にあったもの。
 例えるのなら、地球において、『火』というものがある。

 これは、光と熱の現象。物質が燃焼することで発生するものだが、では、なぜ燃焼すると火が発生するのかと、段々科学的に敷き詰めていくと限界がやってくる。魔法とはそういうものあり、考えること自体間違っている。

 詠唱すれば、出るものであり、世界にとっては一般常識。人間の体、才能という概念、運動、と言う概念、などの様に、あって当然のもの。はっきりしないようだが、それほどまでに一般的なものなのだ。
 陽がカルムに聞いたのは、言わば『筋肉とはなに?』、『人間とは何?』と聞くようなものである。

 回答は返ってくるだろうが、何故そんなこと聞くの? と疑問に思われるだろう。学ぶまでもなく、人間として生きる上で当然のものなのだから、それについて問いを投げるのは間違っている、というより、普通あり得ないことなのだ。
 
 この世界の初級魔法が、それに当たる。中級以上は、言わば、世界にとっての常識である初級魔法を、改造したようなものなのだ。
 つまり、初級魔法とは、地球で言う運動である。普通に生活の出来る人間ならば、運動は出来る。魔法とは、それと同じ次元のものなのだ。

 中級魔法は、サッカーや野球など、専門分野に分かれていく。これらは経験や才能がなければできない物であり、そこに|分類(カテゴライズ)されるものだ。
 上級は更に上、プロの技などを身に着けるようなもの。固有魔法オリジナルマジックともなければ、自分だけの技、他人が真似できないような技術と成る。

 さらに、それ等の魔法を使う上で大切な要素、魔力がある。
 魔力は人間の一番大切な要素、人間が骨、筋肉などで構成されているように、魔力はそのうちの一つだ。詳しくは分からなかったが、空中にも魔力は漂っており、酸素と二酸化炭素と同じ様な原理で人の体を行き来しているらしい。

 魔力量は、人によって例えるのならば、自頭などと同じだ。最初からどれぐらい、と言うのは決められているが、伸ばそうと思えば、上限があるとはいえ伸ばせる。ただ、学力と違う点は、魔力は伸ばす上限が存在しているという事。努力すればするほど伸びる、という事には成らない。

 そして魔法適正調査盤マッチョの色に関しては、赤が熱や炎。青が生命や流れ、水。緑が木、自然、風。茶が地、創造。などを表している。ちなみに、珍しい属性として知られる闇、光、時空などの属性は、それぞれその四代元素から派生しているのだという。

 闇は地、光は炎、時空は木などと言った感じである。他にもあるが。
 それぞれ、その四代元素に適性のある者からさらに適性のある者へ別れるらしい。炎に適性があれば、その中でも少ないものが光の適性を持つことになる。この四代元素から派生した適性を、安直に『第二適性』、と呼ぶらしい。又、さらにその派生形として速度なんて物もあるらしいのだが……これは本当に珍しく、固有魔法オリジナルマジックにも匹敵するらしいので、説明はされなかった。

 そうやってどんどん適性の門は狭まっていく。ちなみにカルムは四代元素すべてに適性を持っており、その中でも炎の第二適性、光。土の第二適性、重力、そして回復魔法に適性を持っている(もっとも、回復魔法は特殊らしく、どの属性の派生形でもないらしいが)。謙虚なふりしてとんでもない才能だ。贅沢は言わないから一つぐらい分けてほしい。
 ちなみに、魔法の適性と言うのは、体質の様な物である。初級しか使えないようでも強引に中級を発動できるかもしれないが、元から中級魔法を使えるような体をしていないため、負担が大きいのだという。

 そして、適性以外にも、魔法には欠かせない要素がある。適性を除き、『種類』、『級』、である。

 まず、種類。
 これは、大きく分けて四種類である。攻撃魔法、回復魔法、変化魔法、召喚魔法だ。攻撃魔法とはその名の通り、『対象にダメージを与えることを目的とした魔法』。回復魔法は同じく文字通り、『対象物を復元、回復させることを目的とした魔法』。変化魔法は、どちらかと言えば、錬金術や変身、変形等に精通する。『対象を何か別のものへ変化させる魔法』。召喚魔法は『生物、物質を遠くから手元へ手繰り寄せる魔法』だ。

 次に、級。
 主に、『初級』、『中級』、『上級』、『超級』、『王級』、『神級』、『幻級げんきゅう』である。魔法の難しさと威力、必要魔力量、呪文の長さなどから総合され、振り分けられた階級だ。一般人が到達できる限界が超級、そこから先は、途端に難しくなる。人類最高の才能を持つ者が努力し到達できるのが王級。神級は人外の領域。幻級とは、神話や神々などが使ったとされる魔法である。

 そんな訳で、全く魔法の才能がない陽は転生者なら目指すべきであろう幻級なんて夢のまた夢で、精々中級魔法を一つ覚えられれば御の字。そして初級に存在しているのは攻撃、回復魔法の二種類だけ。転生者どころか一般人の成り損ないのような状態である。

「えぇ……?」
「あはは……ま、まあ、初級魔法も使い方次第さ」

 カルムの励ましが妙に胸に突き刺さる。
 異世界に来て特典もなく、ようやく訪れた魔法のチャンス。攻撃系ではないしても何かしらあるのでは、と期待した分、その落胆は大きい。

「使い方次第って……一応聞くけど、カルムが最後に初級魔法を戦闘で使ったタイミングは?」
「……さて、そろそろ料理が出来たころじゃないかな」
「ちょいまち」

 魔法適正調査盤マッチョを脇に抱え元あった場所に戻そうとするカルムに対し、陽はそのローブを掴むことで止めようとする。その態度では初級魔法が本当に使えないと言われているような……いや、言われているのだ。なんとしても撤回してもらわねば。しかし、魔法使いの癖に妙に力が強く(偏見)、カルムは陽の手を離し魔法適正調査盤マッチョを仕舞いに行ってしまった。

「……ごめんヨウ君!」
「あっ、しま」
「あ、あはは……」
「……私は地に適性がある……」

 残ったのは微妙な顔の陽と、頬を掻きながらなんとなく申し訳なさそうな表情のティア、何故か自慢げに自分の適性を言うフィリアだった。
 そんな反応を見て、陽はますます落ち込んでしまった。

「……適正皆無って……皆無って……」

 使い方があるとは言うが、それは微々たるものだろう。恐らく初級魔法は『生活魔法』や『基礎魔法』に該当する様な、貧弱な魔法だ。これは予測ではあるが、ライター程の炎を出す、シャワーほどの水を出す、その程度だろう。

 『状況を利用』、『新たな使い道』を開発すれば活躍できるかもしれないが、陽にはそんな臨機応変な発想はない。どこぞの女神を連れて行った転生者とは違うのだ。

「────」
「だ、大丈夫? ヨウ君」

 ふと、哀感漂うように、ティアはあわあわとしながら話しかけてくる。
 そちらへ視線を向ければ、映るのは綺麗なティアの顔、正座しながら皿を持っているフィリア、そして置いてあるティアの皿だ。
 それを見て、陽は一言。

「……料理、作るのやめようかなぁ」
「剣術練習しようか!」

 希望は存在していた────のだろうか?

~~~~~~~~~~~~~~~~~

『運動は食べ終わってから』と言うカルムの言葉により、陽が作っていた煮込み料理を四人で間食した後、陽とティアは二人から少し離れたところで向かい合っていた。
 というのも、カルムとフィリアが寝床の準備をしている間に剣術の適性を調べる、ということだ。

 魔法の適性がなく、落ち込み料理をする気力の無かった陽を奮い立たせるためにティアが提案したことである。もっとも、確かに剣術は憧れる所ではあるが、魔法には及ばない。というのも、剣術は確かに異世界ならではの所もある。だが、ただ単純に『剣』に憧れたというのならば、別に剣道でもいいのだ。

 断っておくと、陽は別に剣道を貶しているわけではない。逆である。異世界に来てまで剣術をやる意味は、あまりないな、と思って居るのだ。
 斬撃を飛ばす、魔力による強化によってあり得ないものを切る、奇想天外なものを抜けば、異世界で剣術と言えばこのあたりである。

「では、剣術指導を始めます」
「あっ、はい。よろしくお願いします」

 今までの中で一番真剣なティアの表情に、思わず陽はたじろいでしまう。しかし、命の奪い合いに関することだ。真剣に成るのも仕方がないだろう。陽だって、その点に関しては真面目になると覚悟を決めたのだから。

 現在陽は手に木刀を持っている。やはりどの世界でも基礎は木刀のようだ。いきなり真剣を持て、なんて言われても度台無理な話だが。
 対してティアの持っているのは真剣だ。濡れたように輝いている、と言ったらいいのだろうか。ティアの持つ剣は長くすらりと伸びていて、刀身が淡い光を発しているようだ。
 それに対して聞くと、「これも神製道具アーティファクトだよ」と教えてくれた。どうやら壊れない特性を持った剣らしい。

「さて、まず、この世界の剣術について説明しておこう」
「わかった」

 そうして、剣術についての説明が始まった。

 まずは剣の歴史。剣は魔法に対していつ生まれたのか、どういうものなのか、と言うのがはっきりしているらしい。

 この世界の剣術というのは、大きく分けて二つの段階に分けられる。というのも、『魔力を使わず己の体だけで剣を振るう』のと、『魔力を使って通常では有り得ない動き、技術、速度で剣を振るう』のに分けられるのだ。これは流派関係なく、『剣術』の中では常識らしい。

 主と成る流派二つある。大きさ、で言えば他の流派もあるらしいが、全てはこの二つから派生したものだという。

 一つは、『力を持って技を斬る』剣聖流。
 魔力を力や速度の方へ回し、『先制、一撃を持ってすべてを沈める』を信念とする流派だ。小細工などを一切使わず、純粋に本人の剣の腕、力で勝負する。要するに『力を上げて物理で切れ』という事だ。それゆえ、基本的に誰でも習得しやすいシンプルな流派だという。主に冒険者、荒くれ者、とにかく血の気が強い者が多い。

 もう一つは、『技を持って力を斬る』反攻流。
 魔力を技、つまりは防御などの方向へ回し、『カウンターや二撃目を持ってすべてを切り伏せる』を信念に持つ流派だ。
 こちらは基本的に先行を取らない。二撃目こそ自らの先制と考え、それにすべてを注ぎ込むのだ。頭を使い、幾分か力が足りなくても戦える。護身術などに近いかもしれない。主に貴族、商人などの護衛が使う様だ。

 見た通り、二つは対立しているのである。これに関しては、二つが誕生した話について語る必要がある。

 剣聖流とは、その開祖が『剣聖』と呼ばれ、その称号を大切にしたがため名付けられた。
 反攻流とは、その開祖が反撃を得意とし、絶対に自分からは攻撃しなかった点から名付けられた。

 この開祖二人は幼馴染で、小さい頃から競い合っていたらしい。攻撃的な剣聖流開祖と冷静な反攻流開祖は生涯お互いの道を歩み続け、最終的に開発したのがこの二つの流派。
 最終的に二人はこの流派を持って対決したのだが、最終的に決着はつかなかったという。

 一撃目で切り伏せようとした剣聖流開祖に対し、反攻流開祖はカウンターで切り伏せようとした。しかし、その攻撃を回避し再度剣を振るう剣聖流開祖、反攻流開祖はその上から反撃を叩きこみ……と言う争いを何十時間もし続け、等々二人の開祖は疲労で死んでしまったという。

 戦歴は『0勝0敗1000引き分け』。

 その勝負のすさまじさに感動した互いの流派の弟子が世界に広め、剣術、というものが流行り出したらしい。それまでは世界に代表的な武器が存在していなかったらしいのだが、これによって一気に剣は人気になった。
 そういう伝説的実話が存在しており、この二つは二大流派と呼ばれているそうだ。

「と言う訳で、話し以上だよ。他にも色々流派はあるんだけど……まあ、私はカルムみたいに説明がうまいわけではないから、もし君がこの二つに適性がなかった場合だけ、説明するね」
「お、おう。分かった」

 それは安易に、『君なら適性があるよ! がんばっ』的な信頼だろうか。それか、『これなら流石に適性あるよね……?』、という、この剣術が当たり前に考えられている故の言葉だろうか。
 そうなった場合、また先ほどの状態を繰り返すわけだが。

「……そういえば、適性を調べる、っていったて、どうやって調べるんだ? 魔法みたいに神制道具アーティファクトでもあるのか?」

 疑問を表情に浮かべ、陽はティアに問いかける。
 というのも、剣の適性────才能を調べるのに、その方法が思い当たらないのだ。魔法の場合は魔法適正調査盤マッチョという神制道具アーティファクトが存在する。しかし、剣術は魔力が絡んでいるというだけで、別に特殊なものではない。

 地球などでは、少なくともそんな便利道具などなかった。もしかしたら有段者なら道具などを使わなくても、その人間の筋肉や性格などで向いている流派を調べられるのかもしれないが……陽に剣道の経験はない。よって、そんな方法も知らない。
 
 それに対し、ティアは「知らないんだ……まあ、剣術に関わったことがないんだったらしょうがないね」と呟いた。

「んーとね、調べる方法はあるんだ。その人の適性は、その人が剣を振るう姿を見ればわかる。だから、これからヨウ君にはその木刀を振るってもらうよ」
「あぁー、なるほど……」

 木刀を振るう姿を見て適性を判断する。
 そんなものなのだろう。地球においてそんな話は聞いたことないが……しかし、それ以外に何かあるのか、と言われれば、ない。確かに、これならば筋が通っているような気もする。

「じゃあ、まずは───」

 ────陽は指示に従い、剣を振っていった。
 上から下に切り落とし、横に薙ぎ払い、袈裟懸けに振り下ろし、逆袈裟懸け、突き、はたまた投げる、なんてこともあった。剣の腹を思いっきり叩く、逆手に持つ、脇に剣を抱える、口で剣を噛む、etc……これなどは魔力が絡んでいるからこそだろう。魔法なんてあるのだから、これらの特殊な方法もそれらが使われているのだろう。

 陽の浅い知識で考えるのならば、足を肩幅に開くだとか雑巾を絞る様に握るだとか。そういう話を聞いたことがあるが、これまた異世界の剣術という事だろう。どちらが正しいのではなく、どういう風に剣術が発展したかの差だ。

 そうして摩訶不思議な振り方などを繰り返すこと十数分。ティアの「やめっ」という声で陽は剣を降ろした。

「つ、つかれたぁ~」
「そう? これぐらい普通だと思うけど? ヨウ君って運動あまり得意じゃないんだね」
「ほっとけ」

 腕がしびれて棒のようだ。全身汗をかいているし、怠い。陽は地球では運動していなかったのだろう。それが突然木刀を持たされ十数分も変なことをさせられればこうも成る。しかし、異世界の人間は強いらしい。ティアの発言にも、普段ならば『運動してないからだろ』と悪態を突くところだが、これぐらいは当然、と言う顔をしている。

 この程度、異世界の人間にとっては普通なのだ。適性を調べるだけでこれだけ疲労するのだから、訓練など恐ろしいとしか言えない。
 陽は肩で息をしながら、呼吸を整える。

「はぁ、はぁ……しっかし、これで俺の適性は分かったんだよな?」
「……粗方、ね。あっ、安心して? 少なくとも一つはあったから」
「二つ以上あるかは微妙ってことか……?」

 歯切れの悪そうなティアに対し、陽は不安げな呟きを漏らす。
 まあなんにせよ、一つはあるらしい。それが剣を口で咥えるとか投げるとか変な方法でないことを祈るばかりだ。もっとスタンダードなのがいい。

「ま、まあそれはスルー、ってことで」
「まあいいけど。適性がないのは自分のせいなんだし」
「そ、そう落ち込まないで! だいじょうぶ、だいじょうぶだから! 剣聖流には適性あったから。他のが驚くほど向いてなかったけど、剣聖流はあるから!」
「あ、剣聖流だけなんだ。なんかショック」

 驚くほどあっさり明かされた陽の適性。
 どうやら先ほど語られた二大適性のうち、『力を持って技を斬る』、剣聖流に適性があるらしい。確かにスタンダードで嬉しいのだが、そこまでメジャーだとなんかありがたみが薄れるというか……

「じゃあ、俺はその剣聖流にしか適正が無くて、他には適性がないってことなんだな?」
「……うん。なんかごめんなさい」

 なんとなく、ティアが申し訳なさそうな表情をして謝ってくる────なんとなく、予想できた。きっとこの子は、魔法の適性がない陽に対し、せめて剣の方で希望を持たせてあげたかったのだろう。無情な部分もあるが、優しい子でもあるらしい。

「いやいや、謝る必要はないよ。さっきも言ったけど、悪いのは俺の方なんだし。それよりもさ、早く剣聖流について、もっと教えてくれよ」

 励ましにしては技量不足で、誤魔化しにしては大げさすぎる。
 ティアは、まるで『気にしないで?』と言っている様な陽の言葉にクスリと笑った。その笑みが可愛くて、陽は素直に嬉しい気持ちになる。自分の気持ちに嘘はつかないタイプだ。大体。

「あはは……ヨウ君優しいんだね。ありがとう」
「いやいや、優しくなんかないよ。それより、ほら」
「あっ、そっか。ごめんね。じゃあもう一度、詳しく説明するよ?」

 なんて、恥ずかしい会話が繰り返され、再度ティアの説明が開始した。
 というよりも、先ほどの剣聖流についてのおさらいと、もう少し深いところまで語った程度だ。

 剣聖流は『力で技を斬る』流派。ゴリ押し、先手必勝などを得意としている。荒くれ者や冒険者、血の毛の多い者が多用する、世界二大流派の一つ。
 その他に説明されたのは、基本的な構えや魔力使用方法。剣聖流は魔力を『力・速度』に変換しているらしい。

 これこそ、『魔力を使って通常では有り得ない動き、技術、速度で剣を振るう』に該当するのだ。剣聖流は魔力によって超次元的動きを行い、その速度と強化された力で目標を切り捨てる。達人や長レベルになると山を一刀両断できるらしい。開祖ともなれば国を一太刀で滅ぼせるという。

 さすがに冗談だろう、と笑い飛ばしたいところではあるが、ここは異世界。何が起きても不思議ではない。その時の陽は乾いた笑みを浮かべていたのだが、それを見たティアが『開祖が一太刀で国を滅ぼした』話を詳しく語ってきた。

 何となく聞くことにしたのだが、どうやらそのままの意味らしい。

「魔力が込められた飛ぶ斬撃─────飛閃ひせんが国を真っ二つに貫通し、国は滅んでしまいましたとさ。戦争だったみたいだから、仕方ないかもね」
「へ、へぇ」

 なんとも現実味のある話に、陽は思わず顔を引き攣らせる。先ほどティアの飛閃を見た身としては、本当だとしか思えなかった。地球では月を素手で割る人もいるぐらいだし。だが『国』と言う身近なもので表されると迫力や恐怖が段違いだった。

 その後、説明は終わりカルムとフィリアの元へ帰ると、もう寝る準備が完了していた。準備、とはいっても、何時でも火がつけられる準備のされた薪を囲んで、それぞれ布を被って寝るだけなのだが。寝袋、などと思いはしたが、この時代にそんなものがある訳もなく。

 その後見張りの順番を決め、陽は三番目となった。といっても、その決め方は地球伝統の『じゃんけん』などはないので単なる話し合いである。水浴もしっかり行い、一番目のカルムを除く三人は眠りに入った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ────と、僅か前。陽はの脳裏にある考えが過った。

 (……あれ? 剣聖流しか適正がない、という事は役立たずなんじゃ……?)

 自分で思って悲しくなったのは秘密である。
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