最弱で駆ける道

じゃあの

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第一章 『始まりの洞窟』

第十八冊 『旅立ち』

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「……君……ヨ……く……ヨウ君」

 ────呼ぶ声が聞こえる。心地よく鼓膜を震わせる声だ。酷くヨウを気遣う様で、このまま目を覚まさずともいいのではないか、そんな感覚に陥る。
 頭には何か柔らかいモノが当たっていて、正直下手な枕なんかより全然良い。

 呼ぶ声に応じて、瞼を空けていく。一瞬で飛び込んでくる光に呻くがすぐにそれは治まり、目を完全に開ける。飛び込んでくるのは洞窟の天井、ヨウは頭を起こすと、重い瞼を擦った。幾分か眠気が解消される。
 ティアを治して、ヴァリアントレリオンが消えてからの記憶がない。どうやら気絶したのか、寝てしまった。状況確認のために周囲を見渡す。

「あ、起きた?」
「……ティア」 

 すぐ近くに居たのは、というより、ヨウに膝枕をしていてくれたのは、ティアだった。彼女はヨウが起きたことを嬉しそうに微笑む。

「なぜに、膝枕……?」
「んー、何となくかな。床に寝かせるのもアレかとおもって」

 ティアの優しさが胸に染みる。同時に、少し後悔だ。膝枕と言えば男が一度は憧れるイベント。さらに言えばティアは美少女、そんな相手の膝枕など起きている時に堪能したいが……正直言って、それを言い出す勇気は無かった。

「俺……気絶してたのか?」
「そうみたい。びっくりしたよ。私はいつのまにか寝てたみたいだし、辺りに血は飛び散ってるし、体は怠いし、ヨウ君は気絶してるし……いったい何があったの……?」

 ティアの顔が今度は曇る。当たり前だ、ティアの最後の記憶は二人が別々の道を歩き始めたところからのはずだ。ヨウだって、いきなり気絶して、起きてた地獄みたいな状況だったら、それは驚かざる負えないだろう。

「あぁ……それはな────」
 
 ヨウは説明をし始める。順序だてて説明する必要があるので、一つ一つ丁寧にだ。そして、龍神やオークのことを説明するとなるとヨウが異世界人だという事も説明しなければならない。
 最初は怖かった。異世界人がこの世界でどんな扱いを受けているか分からないし、どれぐらいいるのか、どんな立場なのか、何も分からないから。

 それでも今回言う気になったのは、偏にティアへの信頼だ。ティアなら、例えヨウがどんな存在でも受け入れてくれるだろう。何かに偏見や差別を持つ人間でないことはよく分かっているし、ティアには正直で居たい。

 ティアはヨウの言葉を真剣に受け止めていた。最初の方、度々言葉を止めて反応を伺ったりしたが、全て聞いてから何かを言うつもりなのだろう、そう悟り、ヨウは転生してからここに至るまでの経緯をすべて話す。

 転生して、森に居たこと。洞窟に行ったこと。そしてオークに遭遇して、助けられたこと。そして四人で過ごし、オークに遭遇して、吹き飛ばされた後に龍神の魔導書を見つけたこと。それを読んで、ヨウは龍神の力を受け継いだこと。その後助けに行ったけど、結局逃げてしまって、その先には死に掛けのフィリアが居たこと。その後色々あって、オークと殺し合ったこと。ティアを助けて後、いきなりティアの体から血が吹き出し、先代の残留思念が出てきたこと。龍神の最終試練を得て、けど殺してないから失敗しただろうという事。龍神の魔法を使ってティアを治したこと、ティアの不確定な呪いのこと──────

「長いし、難しいかもしれないけど、これが全てだ」
「……」

 ティアは最後まで無言で聞いていた。度々顔に感情を出すことがあったが、声は出さなかった。
 やがて彼女は考える様に目を瞑る。ヨウはそれをずっと待っていた。不安だ、どんな反応をするのか、少し臆病になってしまう。

 やがて、目を開き、浅く息をつくと、

「ヨウ君……その体が龍神の物になっても、貴方はヨウ君よね?」
「……ああ」

 質問の意図が一瞬分からなくなって、少し言葉に突っかかったが、すぐ理解した。根こそぎ体が変わったとしても、ヨウはヨウのままだ。

「俺は……ソラシロヨウのままだ。臆病で、才能が無くて、ダメダメで」
「うん、じゃあヨウ君だね」
「ひどいな!?」
「え!? ご、ごめん! そんなつもりじゃなかったの!」 

 さらりと告げられた罵倒に思わず声を荒げてしまう。そうだった、忘れていた、ティアは天然だったのだ。天然の傾向は他人の欠点や悪口多いことを、ヨウとしたことがすっかり忘れていた。
 彼女は空中に両手を漂わせて謝る。その様子が可笑しくて、ヨウは思わず笑ってしまった。同時にティアも笑う。

「アハハハ─────!」
「ははははは────!」

 思えばこうして笑うのも久しぶりだ。四人で笑い合っていたあの頃が懐かしいが、そうも言ってられない。目を背けはしないが不必要に振り返るのも失礼だ。
 ほとんど同時に笑い終えると、ティアは「ふう」吐息をついて、

「ヨウ君がヨウ君のままなんだったら、私は今まで通り接するだけだよ」

 そう言って、微笑んだ。ティアの様は凛としていて、一本の刃の様な美しさを感じさせる。それを聞いて、思わず笑みが零れた。相変わらず、強くなっても、ヨウはティアに敵わない。その事実を認識して、照れくさくて。それを誤魔化す様に首に手を伸ばした。

「ティア────ありがとうな」
「お互い様────ちょ、ちょっとまって!?」
「ん?」

 このまま綺麗に終わるのか、と思って居たが、ティアから、待ったがかかった。彼女は手を前に突き出して叫ぶと、顔を何故か朱色に染めながら、少し息を荒げた。なんだろうか、この、初々しい反応は。思い当たることなんて────あっ。

「今、私の事なんて呼んだ?」
「あー……あー……!」

 ぴしゃりといわれて、口ごもる。そして視線をそこら中に巡らせた。
 忘れていた、自然と呼び方を変えていて、指摘されたいま改めて変えていることに気づいた。同時に、少し恐怖心が出てくる。
 それは最初、ティアと呼んだ時拒絶されたことが原因だ。また拒絶されたらどうしようか、そんな予想が言葉を詰まらせる。ヨウは、よく言えば繊細で、悪く言えばめんどくさいのだ。図太くはない、そんな勇気はない。

「いや……えーっと」

 怯える事は無いはずなのに、ティアの方を見ることが出来ない─────と、ヨウは不意に首をティアの方向に向けさせられる。

「え? え?」
「違うの。別に呼んじゃいけないとかそういうのじゃなく、やっと呼んでくれたから」

 クスリ、と笑いながらティアはそう言った。思わず息を吞んでしまう。まさか、その言葉を掛けられるとは夢にも思ってみなかった。だって、この呼び方はカルムとフィリア、つまりは幼馴染専用みたいなもので、ヨウが気軽に呼んでいい名前では無いのだから。

「ありがとう。その名前で呼んでくれて」
「いやいや……お礼を言うのは俺の方だよ。じゃあ、これからはそう呼ばせてもらっていいのか?」
「あ、うん」

 了承は得た。思わず頬が緩みそうになって、ヨウは咳払いをすることでそれを誤魔化す。ティアはヨウの緊張など知らず、くすくすと笑っていた。
 ティアには敵わない、なんて言葉をもう一度思い、今度はそれを口にする。

「……ティアには敵わないな」
「ヨウ君を揶揄うのは」

 ティアは、今までで一番いい笑顔を見せた。思わず見惚れてしまう程見事な笑顔だ。天然だろうが、その笑みがヨウだけに向けられていることを嬉しく思った。

「私の、専売特許だから」






「それにしても、呪いかぁ……」

 とは、少し会話が落ち着いた後、ティアが唐突に呟いた言葉だ。
 呪い、ティアに掛かっている、ヴァリアントレリオン曰く『神人族アルスフォークの頂点死記神ナトスの呪い』。それによって後数百日でティアは死ぬという。

「結構簡単に言ってるけど、その、怖くないのか? 自分の余命が宣言されてるなんて。普通なら信じられないが、相手は『神』だ」

 妙に落ち着いた感じのティアに対し、ヨウは少し不安げな顔でそう答える。神を目の当たりにし、その力をこの目で見たからこそ、『神ならばティアを呪い殺せる』という自信があった。なのに、なぜそんなにも落ち着いていられるのか、少し考えられ無かったのだ。

 確かに、ティアは神の力を見ていない。だが、呪いを受けているのはティア自身の訳で。死刑宣告をされて、ヨウは正常でいられる自信が無い。
 
「んー……そうだね、確かに少し怖いけど、実感わかないし、この洞窟で何回も直接死ぬような目に遭ってるんだもん。今更『お前は死ぬ!』って言われたところで、あんまりって感じかな」

 ティアは少し笑いながら、『お前は死ぬ!』!の所でヨウにビシッ、と指を突きつけて言った。確かに、言われてみればそうだ。直接的に感じる命の恐怖と、間接的に感じる命の恐怖、それは又違った恐怖である。

「それに、ヨウ君は私に呪いがかかる所を見た訳でもないんでしょ? だとしたら、そこまで心配する物かなぁ……」
「─────いや、多分呪いは発動する」

 やはり実感が沸かないのか、そう言うティアに対し、ヨウは断言した。こればっかりは確信できる。ヴァリアントレリオンの力を目の前で見たからこそ、そして、その元となる龍神の力────ある種、神の力を継承したヨウだからこそ、言えることであった。
 
「そう? ……まぁ、ヨウ君がそこまで言うのならそうなんだろうけど。でも、解決策は『神を殺すこと』、何でしょ? 先代の龍神も『ナトス殺し』を目的としていたんだったら、それって嵌められているんじゃない?」
「確かにそうも考えたんだけど、それは逆なんじゃないかと思うんだ」
?」

 むしろ逆であると、ヨウは言った。確かに、ティアが死ぬ保証はない。ヴァリアントレリオンがヨウを利用するため、『信じ込ませた』可能性だってある。だが、そうではなく、逆。
 どちらかと言えば、ヴァリアントレリオンは、『ヨウが神を殺したくなる情報を与えた』のだと思うのだ。

 力を受け継いだ本人が、神殺しを望んでいない。その為、エサを用意した、と言う訳だ。一瞬ヴァリアントレリオンが呪いをかけたのでは、と思ったが、龍神の力は『呪う』と言った間接的な技ではなく、直接的な技が多い。可能性は限りなく低いだろう。

「だから、ヴァリアントレリオンは俺が神を殺す様、『ティアの呪い』というエサを与えた。『神殺し』と『ティアの呪いの回避』、どちらも実現させるのがヴァリアントレリオンの目的だろう」
「そっか……私、死ぬのかな、呪いで」
「……」

 ──────震えそうなティアに、『俺が助ける』と断言できない自分が憎かった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 その後、ヨウとティアは行動を開始する。とりあえずの目標は、この洞窟を脱出することだ。そもそも、この洞窟に何故三人が居たかすらわかっていない。何をするにしても、それこそ、神を殺すにしても、この洞窟から出ないことには何も始まらない。二人は生きていくのだ。カルムとフィリアの死を無駄にしない為にも。

 けれど、それよりもその前に─────

「よいしょ、っと」
「……」

 二人は今、墓を作ろうとしていた。当然、フィリアとカルムの墓だ。彼らには、それ相応の対応が無ければ気が済まない。それに、これはティアが強く望んだことでもあった。
 
 墓、と言っても簡易的なものだ。二人の遺体を焼き、それを一か所に埋める。もう既にフィリアの遺体は見つけていて、今はティアがそれを持っている。そして、無くなってしまったティアの剣の代わりに、フィリアの遺品を使うことになった。死者の魂を受け継ぐのだ。

 そして、今現在はカルムの遺体を探している。場所は分からないが、探していれば何れは見つかるだろう、という考えだった。
 やはり、というべきか、この洞窟は少し前まで、同じ場所を彷徨い続ける幻影が発動していた様である。

 それを二人が自覚した瞬間、パキリと何かが割れる感覚が確かにあったからだ。これでもう、途方もなく広いと思って居た洞窟を彷徨う必要はない。だが、カルムの死体の場所が分からないのは確かで、かなり迷ってしまった。

 そして、ようやく見つけた死体は─────なかった。

「……荷物だけ? 死体もなく、血も出ていない……」
「そんな事、聞いたことも……」

 死体もなく、血も無いのに、その場所には荷物だけが置いてあった。カルムの持ち物だ。大雑把に説明すれば、皇帝の杖インペリアルスタッフ、『異次元空間に物を収納する神製道具アーティファクト』、何時も被っていた帽子等々。

 しかし、荷物を除いて、一切の痕跡が無い。ティア曰くカルムは首をねじ切られて死んだらしいが、血は噴出していたし、死体もそこにあったとのこと。一瞬オークがどうにかしたのかも、と思ったが、帽子や荷物をわざわざカルムから外す理由がない。正に、『カルム自身だけが消えた』のである。

「ティア、死体だけを運ぶ、若しくは荷物以外を運ぶ魔物、なんていうのはいないよな?」
「聞いたことが無いよ。荷物を奪う魔物はいるけど、死体を運ぶ魔物は一度も。第一、血が一滴も残っていないのは可笑しいよ」

 確認を取るが、やはり有り得ない。新種の魔物の可能性も考えられるが、『血が一滴も残っていない』というのは、不思議以外の何物でもなかった。
 だとすれば、考えられるのは魔法だが、死者を復活させる様な魔法は聞いたことが無い。第一、そんな魔法、存在するわけにはいかないのだ。

 声明をよみがえらせる魔法など、有っていい訳が無い。それはどんな世界でもタブーとされている行為だし、そもそも実現不可能なはず────神?

 少し疑問に思ったが、それを抑え、ヨウはカルムの荷物を持ち上げる。

「残っているのはこれだけか……カルムの、遺物は。死体が消えたのを考えている暇はない」
「そうね……」

 ティアは自分の持つフィリアの剣を少し抜き、刀身を確認すれば、再び鞘に納める。

「ねぇ、ヨウ君。その皇帝の杖インペリアルスタッフ、私が持っていて良いかな? 武器は二人の魂だし、燃やすわけにはいかないから……せめて、二人は一緒に、意志だけは連れて行ってあげないと」
「……あぁ、お願いするよ」

 ヨウは皇帝の杖インペリアルスタッフを渡す。
 ティアは服のポケットから布を取り出すと、フィリアの剣を携えている方とは逆の腰に、皇帝の杖インペリアルスタッフを縛り付けた。端から見れば剣を二本持っている様だ。

 ヨウはカルムの持っていた『異空間に物を収納する神製道具アーティファクト』─────

「そういえば、これなんて名前なんだ?」
「えーっとね……万物収納異空間展開鞄リュックンだったはずだよ?」
「……」

 ─────を、拾った。現金でカルムには申し訳ないが、これは便利な道具である。異世界物の主人公が持つ転生得点チートによく似ていて、何でも仕舞えるというのは凄まじい性能だ。もちろん上限はあるのだろうが、持っていて損はない。これはティアにも許可を貰っており、曰く『カルムだって、私たちが死んだらそうするはずだから』と言っていた。

(というか、相変わらずすごいネーミングセンスだなおい。考えたの誰だよ。別にうまくねえし────あぁ、作ったの神なんだから、神が名前つけたのか)

「さてと……もう他に回収する物は無いよね? カルムの死体が気掛かりだけど……多分、此処には無いだろうし」
「だろうな、不自然な点が多すぎるが、考えてもしょうがない」

 ティアはその返事を聞くと頷き、持っていかない道具や荷物を一か所に纏める。そして持っている袋からフィリアの死体を出すと、集めた荷物の上に静かに置く。ちなみに、顔や切断部分などはある程度清潔にしている。最後なのだ、この時ぐらい、綺麗にするのが死者に対する礼儀だろう。
 ヨウは顔を背けてしまった。死体自体見慣れないのに、フィリアの死体など直視できる訳がない。本当は見届けなければいけないのだが、死体を見ようとすると体が拒絶反応を起こす。

「……ティア、頼む」
「うん、わかった」

 了承し、ティアは火球ファイアーボールを詠唱する。掌の上にゴウッ! と炎が噴き出し、球体の形を取って出現した。それを放れば、火球ファイアーボールは死体に落ちていく。瞬間、炎上。
 瞬く間に広がっていく炎は、フィリアの死体や荷物などを燃やしていく。チリチリという音が発生し、肉が焼ける匂いが立ちこみ始めた。

 二人は黙想する。
 これが普通なのだそうだ。旅をしていて死んだら、基本的にその死んだ場所で死体と荷物を焼く。完全に灰に成ったら地面に埋める。

「……」

また完全に焼けてはいないが、ティアが辞めた様なので、ヨウも辞める。こういう儀式に明確なルールがある訳ではないが、そこは知っている人を習うに限る。
 二人はじっと、フィリアの死体とカルムの荷物を見つめていた。ティアが考えているのはどういう事だろう、三人での思い出だろうか。

(……カルム)

 ─────何時も三人のまとめ役だった。何があっても皆を励まし、尊重し、カリスマ性だってあったかもしれない。苦労人気質で、何時も苦笑いを浮かべていたのも覚えている。戦闘時には作戦を考え、全員の無事を何よりも優先し、その為なら魔力だって湯水のように使っていた。そんな、リーダーだった。けど、死体は消えていて、もうどこにあるかも分からない。

(……フィリア)

 ────天然で、抜けてて、無口で無表情で、大食いだった少女。戦闘の時は誰よりも先に前に出て、皆を守る盾だった。無口ではあったけどヨウとは一番会話していて、ある意味一番仲が良かった、という言い方もできる。カルムの事が好きで、その時だけは純粋に『女の子』だった。その死体は、今目の前で焼かれている。

(……、……ティア)

 ────何時も一生懸命で、誰よりも仲間思い出、何時も笑っている少女。彼女だけは生き残った。けど、仲間を失って、今は苦しんでいる。三人の中で一番強かったけど、オークには敵わなかった。
 そんな少女だけは、今もヨウと一緒に居る。そして、死んで逝った仲間たちに向って祈っている。

 多分、カルムの消えた死体には『神』が関与している。ヨウは『運命』なんてもの信じていないが、ティアもヨウも神の火が似合ったばかりだ。立て続けに起こる不可思議、それを神の仕業と疑うのも無理は無いだろう。

 先代龍神の目的は、『ヨウが神を殺すこと』。
 ティアが呪いを回避する方法は『ヨウが神を殺すこと』。
 カルムの死体の秘密を知る為にするべきことは『ヨウが神を殺すこと』。
  
 総てに神が関与している。

「ふぅ……さて、そろそろ行こうか」
「……ティア」
「? ヨウ君、どうしたの?」

 ─────神の力は計り知れないだろう。先代龍神ヴァリアントレリオンはほんの一片とはいえ『時』を止めて見せたし、実際『龍神』の力はヨウが実体験している。
 そして、神人族アルスフォークの頂点、死記神ナトスは、他の龍神族ジルドニラごとヴァリアントレリオンを皆殺しにしたという。
 さらには、ヨウを転生させた神(名前は分からないが、神人族アルスフォークだろう)も、究極に近い力を持っているはずだ。

 未熟なヨウでは、敵いもしない領域の話。正に、『神』の領域。龍神の力を受け継いだとはいえ、戦闘において素人もいいところのヨウが、目的を果たす・・・・・・事が出来るのだろうか。
 いや、

「ティア……俺、決めたよ」
「決めたって……何を? 目的?」
「ああ、目的を決めた。これからはそれを目指して世界を廻る」
「うん、わかった。それで、具体的に何を目指すの?」

 ティアが純粋に聞いてくる。『目的』と聞いて自分の呪いの事も過ったはずなのにそれを口にしないのは、心配させない為か、打つ手がないと考えているのか、下手したら諦めているのか。
 ヨウはそれに対して不敵な笑みを浮かべると、宣言した。
 怖いなんていってられないから。ティアがヨウを助けてくれたのなら、救ってくれたのなら、まだ生きたいと願うのなら、望みを叶える為に行動する。オークを倒した事など、自分自身に決着を付けただけだ。

 ヨウは、今までの総てに、これから起こる出来事全てに宣言をする。

「────俺はこの力で、神を殺す」
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