《ハーレム》か《富と名声》か。あの日、超一流の英雄王志願者パーティーを抜けた俺の判断は間違っていなかったと信じたい。

清水花

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1章 別れ。エルフの里にて

6 ターニャ

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 家の中へと入った俺達は、そのまま部屋の中央付近に設置されたテーブルへと案内された。

 アイラとチキは向かい合わせに座って、俺はチキの隣に座った。

 板を合わせて作っただけのシンプルな作りのテーブルと座面に四本の足を取り付けただけのこれまたシンプルな作りの四人掛けのテーブルセットだ。

 かなりの年代ものなのか全体的に黒くくすんでいて、身体を動かすとその度に椅子がギィギィ音を立てる。

 テーブルセットの他にはベッドと小さな本棚があるくらいで、なんだか生活に最低限必要な物だけを置いてあるといった様子で若干の寂しささえ感じてしまった。

 あるいは、もの凄く綺麗好きとか。

 俺達がテーブルに着くと少し遅れて、獣人族の女の子は空いていた俺の正面の席に座って、そして。

「にゃはははは。寂しい部屋だろう? ターニャは一人暮らしだからまあ、これくらいあれば大丈夫なんだにゃ。不便な事も多いけどにゃ、にゃはははは」

 一人暮らしなのか、でも何でこんな里から離れた寂しい場所で暮らしてるんだろう。

「ああ、いやいや。そんな事を言う為に呼んだんじゃないにゃ。とは言っても、特に話したい事もないんだけどにゃ。ただーーうん。嬉しくてにゃ、家に呼んで何か、何でもいいから話しがしたかったのにゃ。にゃはははは」

 獣人族の女の子は活発な笑顔で笑う。

「ああ! そうだ、まずは自己紹介だにゃ。ターニャの名前は、ターニャだにゃ。よろしくにゃ、にゃはははは」

 ターニャと名乗った獣人族の女の子に続いて俺達も、今更ながら自己紹介をする。

「俺がカミュで、隣の小さいのがチキ、そしてそっちがアイラだ」

 俺の紹介に合わせて二人はぺこりと頭を下げた。

「そんなに覚えられるかにゃ~」

 苦笑いを浮かべてターニャさんは言う。

「俺達は仲間を英雄王にするためずっと旅していたんだけれど、それが色々あってダメになっちゃってさ、それでさっきあそこで今後どうするか話してたってわけ」

「にゃるほどにゃ、それで泣いてたのかにゃ」

 ターニャさんは、これでようやく納得できたと言わんばかりに腕を組んでうんうんと頷いた。

「ターニャさんはーーーー」

「ターニャでいいにゃ。にゃはははは」

 さん付けだなんてガラじゃないにゃ、とでも言いたげに右手をひらひらさせて笑った。

 本当によく笑う人だな。

「じゃあ、その、ターニャは何でこんなに里から離れた場所で暮らしてるの?」

「ああ、それはだにゃ……」

 俺の質問に対してまたしてもターニャの表情が曇る。

「ターニャは……実は……」

 ターニャは重苦しく、慎重に言葉を紡いでいく。

「さっき、ターニャは獣人族だって言ったけどにゃ……実は違うんだにゃ……」

 獣人族じゃない? どういう事だ? じゃあ、普通に俺達と同じ人間って事か?

 俺はターニャの言葉の意味を理解出来なかったが、アイラが代わりに口を開いた。

「しかしターニャ。貴方のその耳は獣人族の特徴と酷似しています。それに牙や言葉も……」

「にゃはははは……本当……ターニャは何なんだろうにゃ……」

「…………」

 うつむき身体を震わせるターニャの言葉の真意を俺達は誰一人として掴めず、言葉を失っていた。やがて、

「ーーーーうん。ターニャは獣人族であって獣人族じゃないのにゃ……ターニャは、ターニャはーーーー」

「ハーフエルフ……なのですね?」

 ターニャの言葉を遮るようにアイラが口を開いた。アイラが口にした言葉を聞いたターニャは肩を大きくビクつかせ、髪から飛び出た猫耳が前のめりに倒れており、閉じた瞳からは大粒の涙が溢れ出ている。

 突然泣き出したターニャにただただうろたえる事しか出来ない俺だったが、アイラはターニャの頭を優しく撫でながら『大丈夫、大丈夫。貴方は何も悪くない』と囁き続けた。

 窓の外にはいつの間にか夜があって、名前も知らない虫の鳴き声が響いていた。





 



 


 
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