《ハーレム》か《富と名声》か。あの日、超一流の英雄王志願者パーティーを抜けた俺の判断は間違っていなかったと信じたい。

清水花

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1章 別れ。エルフの里にて

7 ハーフエルフ

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 ターニャは重々しく口を開く。

「ハーフエルフはエルフ族とその他の種族が合わさった存在にゃ。他種族同士が交わる事は不吉の象徴であると遥かな昔から禁忌として忌み嫌われていてにゃ、過去に産まれたハーフエルフは例外無く迫害を受け、中には幼いながら自ら命を絶つ者も珍しくはなかったらしいのにゃ」

「…………」

「そんなハーフエルフのターニャは、エルフ族の父さんと獣人族の母さんとの間に産まれた子供でにゃ、産まれたばかりの頃は他大陸にある獣人族の里で暮らしていたんだがにゃ、ターニャ親子の事を良く思わない里の連中から激しい迫害を受けたのにゃ、そんなある夜のこと家に火をつけられターニャは父さんに抱えられて命からがら助かったけど母さんを助け出す事は出来なかったらしいにゃ。このままではターニャの命も危険だと感じた父さんは自分の産まれ故郷のエルフの里へと逃げ帰ったけどにゃ、ターニャ達親子を待っていたのは激しい迫害ではないものの、冷たく静かな視線だったにゃ。心の穢れがないエルフ達はハーフエルフを表面的に迫害したりはしないが、好んで接点を持とうとせずにターニャ親子の事を見て見ぬ振りを続けたにゃ」

 淡々と語られるターニャの過去に誰も口を開かずに、アイラはターニャを抱き寄せて頭を優しく撫でている。

「ターニャが十歳の誕生日を迎える頃、父さんは病によって命を落とし、それ以降ターニャは父さんが遺してくれた里から遠く離れたこの家で一人ぼっちで、六年間を過ごしてきたのにゃ。獣人族でもなく、エルフ族でもない。もちろんカミュ達、ヒューマン族でもにゃい。だからターニャは何者でもないのにゃ」

 何者でもない、なのにゃ。にゃはは、と力無く笑う。

 真正面から受け止めるには辛すぎる話しに、耳を塞ぎたかったが一番辛いのは誰であろうターニャ本人なのだから、ぐっと堪えてターニャの話しを聞き続けた。

 辛かっただろう。苦しかっただろう。そして、寂しかっただろう。

 この世に生を受けただけで、罪に問われて迫害を受けて、大好きな両親を、自身の居場所さえも奪われて、存在を認めて貰えず、この世に存在しないものとされてきた。

 守ってあげたい、庇ってあげたい、慰めてあげたい、俺の中ではそんな想いがどんどんと膨れ上がっていたが、俺みたいな奴がしてあげられる事も、掛けてあげられる言葉もありはしないのだ。何の不自由もなく暮らしてきた俺では……。

「ーーーーふぅ。まあ、そんなこんながあったからにゃ、さっきカミュがターニャの事をしてくれた時、とてつもなく嬉しかったんだにゃあ! ガラにもなくウルウルしちゃったにゃ。にゃはははは」

「あっ……」

《外の世界には色んな人がいるだな~勉強になったな、チキ》

 そうだ。確かにそんな事を言っていた。

「でも、それって俺にとっては当たり前に当然な事で……ターニャが獣人族でもエルフ族でもヒューマン族でも全く関係ない事で……俺の生まれ育った村では、隣の家の奴が当たり前に俺の家に入って来て、一緒に風呂入って、飯食って、そのまま寝ちゃって、時には俺が行く事もあって……つまり何が言いたいかっていうと、他大陸も隣の家も同じで、種族も色々あるけど結局は元々みんな人間だよ。だからターニャは全然、特別じゃないし、変でもない。ただの普通だよ」

 俺は自分の胸の中にあるモヤモヤを全て言葉に変えて吐き出した。

 しん、と静まり返った部屋の中で俺は慌てて確認をとる。

「えっと……意味、伝わった?」

「に……にゃ……にゃはは……ありがとう。ちゃんと伝わったにゃ、カミュの気持ち」

 更にぼろぼろと泣きだしたターニャの頭をアイラは変わらず優しく撫でていて、その潤んだ瞳で俺に『よく言った』といいたげにウインクした。

 ふと、右の袖をくいくい引っ張られている事に気付き視線を右下へと移すと、チキの瞳から大粒の涙が今にも溢れ落ちそうになっていた。

 この状況下での袖くいくいは『頭、頭、頭、早く頭撫でて!』の合図なので、早急にいつものごとくチキの頭をガシガシと撫でてやる。

 エルフの里の夜はどんどんと深まっており、辺りを闇が支配していった。

 本当に今日は泣いてばかりのとんでもない日だ。

 明日はたくさん笑いたいと、俺はそう思った。


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