鉄女である私を怒り狂わせた、あの男のスリーステップ

清水花

文字の大きさ
7 / 24
ワンステップ

お茶友

しおりを挟む
「ご挨拶が遅くなり大変申し訳ありません。私の名前はアーリィ・アレストフ。こちらのオリバー・マカロフ公爵令息と三ヶ月後に結婚する予定のものです。皆様、どうぞよろしくお願い致します」

 出来るだけ自然に、爽やかに。

 うん。自分ではけっこう上手く自己紹介出来たと思う。

 私は満足気にオリバーの方へと視線を送る。

 私の視線の先、彼は眉間の辺りに手を当て何か考え込んでいる様子だった。

「どうしたの? オリバー。頭痛?」

「えっ? ああ、い、いや、何でもないよ」

 明らかに何かある様子のオリバー。考えてみたら昨日からずっと変だ。

 そんなオリバーから視線をきって他の御令嬢達の様子を伺うと、なぜか皆驚いたような表情で私を見つめていた。

 やがて、

「ああ、あなたが。そうだったの。まあ、そうじゃないかとは思ったんだけどあまりに想像と違っていたから、ね。そう、あなただったんだ」

 マシュー嬢は私を品定めするようにしながらそう口にする。

 他のお二人も私の全身を余す事なく眺めるので、私としては非常に居心地が悪い思いだ。

 このまま三人の御令嬢達の視線に晒されていると、私の身体のあちらこちらに穴が空いてしまいそうなので、御令嬢達の注意を逸らすために私は夢中で口を開いた。

「そ、それでその……皆さんはオリバーとはいったいどういったご関係なのでしょうか?」

 一番に頭に浮かんだ言葉を何も考えずそのまま口に出してしまった。

 こういう自分の浅はかなところが心底嫌になる。

 今、ここでこうしてお茶会をしているぐらいなのだからオリバーと御令嬢達は明らかに面識のある間柄なのだ。

 親友とは言わないまでも、友人ぐらいの関係性ではあるはず。

 先日と今日、オリバーと彼女達のやり取りを見てもそれは明白なのだ。

 だから、そんな事は初めから聞くまでもない事なのだ。

「え……それは……えっと……」

「あー、私達はー……」

「ふっふふ、私達の関係性? それ、聞く?」

「あ、あ、あっと! 僕達は……僕達は……そう! お茶友だよ! お茶友!」

「お茶友?」

 初めて聞くお茶友という言葉が私の脳内を彷徨う。

 お茶を飲む、友人。で、お茶友なのだろうか?

 であるならば、とどのつまりオリバーと御令嬢達は友人という事になるのではないだろうか。

 私の読みは当たっていた訳だ。

「では、定期的に皆さんで集まってはこうしてお茶を楽しんでいるのね?」

「そ、そうなんだよ! 本当に最近始めたばかりなんだけれどね。今回で二回目……かな。アーリィにはまだ伝えてなかったね。ごめん」

「別に謝る事ではないでしょう? オリバーは友達が多くて羨ましいわ」

「そう……かな?」

「そうよ、絶対」

 私とオリバーが会話をしていると、オリバーの右隣に座るガイアン嬢が口を開いた。

「アーリィ嬢、あなたずいぶん変わっているのね。それに不思議な魅力を持っている」

「不思議な魅力?」

 私には身に覚えのないものだ。それよりも私に魅力なんてものを見出したガイアン嬢に驚きだ。

「あ、それ私も思った」

 オルテン嬢は小さく手を上げてガイアン嬢に賛同した。
 
「想像とは違ったけど……何ていうのかな? 可愛らしいんじゃなく、どちらかと言えば綺麗なんだけれど、それもどうもしっくりとこない……あ、ごめんなさい。そういう意味じゃないの。うん、上手く言えないけれど、とにかく変わった魅力を感じるわ」

「そう、ですか」

 変わった魅力。

 お父様が私を鉄女と呼ぶ理由と同じなのでしょうか。

 女らしくなく、男のようである。

 ひどく中性的で、可愛らしくなく、綺麗でもない。それが変わった魅力ということなのだろう。

 そう、私は決して美人ではない。お父様がいうように鉄の仮面を被った鉄女なのだ。

 全ての物事に興味が薄く、淡白で、あっさりとしている。

 感情の起伏の乏しい鉄女。それが私だ。

 だから、私の言動は必然的に女性らしくなくなり、どちらかと言えば男性らしい言動になってしまう。

 その事は自負している。

 逆にオリバーは中性的な顔の作りでいて、女性らしさがある。

 男性らしい私と、女性らしさを持ったオリバー。そんなちぐはぐな二人が私達なのだ。

「オリバー様は本当にアーリィ嬢のことを好いてらっしゃるのかしら?」

 ガイアン嬢はオリバーの首元に後ろから手を回し、肩にあごを乗せて笑った。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

お母様!その方はわたくしの婚約者です

バオバブの実
恋愛
マーガレット・フリーマン侯爵夫人は齢42歳にして初めて恋をした。それはなんと一人娘ダリアの婚約者ロベルト・グリーンウッド侯爵令息 その事で平和だったフリーマン侯爵家はたいへんな騒ぎとなるが…

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...