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1章 お呼びでない。こりゃまた、失礼しました〜!

6 絶対絶命

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 狭い牢屋前の通路を歩いていくその背中をじっと見つめる。

 看守のおじさんは右手に槍を持っていて、肩当てや胸当て、更に膝当てなどを身に付けたいわゆる軽装備でいて、そのどこまでも真っ直ぐな立ち姿からは長年この牢屋を見守り続けた誇りのようなものが感じられた。

 俺は息をのんで看守のおじさんの後ろを一歩一歩ゆっくりと歩いていく。

 牢屋2つ分、歩いた所で看守のおじさんは再び踵を返してUターンした。

 俺は覚悟を決めておじさんと壁の隙間に身体をねじ込んでなんとか出口の方へと抜け出ることには成功したが、看守のおじさんとかなり強めに身体がぶつかってしまい、2人共その場に尻もちをついた。

「いたたたた……あれ⁈ お前どうやって……」

 やけくそで、藁にもすがる気持ちで再び演じてみせる。

「お……おじさんが王様に合わせるって言って連れ出したんじゃないかっ!」

「そうか……って、何でだっ! お前バカかっ⁈ 脱獄……脱獄ー!」

 さすがに2度目は勘違いをしてくれず、騒ぎ立てられた。おじさんは首からさげた緊急事態を知らせる笛を震える手で掴かもうとしたが上手く掴めずに、3度目でやっと笛を掴むことに成功した。おじさんは笛をそのまま口元へと運び咥えようと試みる。

 俺は右手を伸ばしておじさんから笛を奪おうと試みる。

 しかし、タイミング的におじさんの方が若干早い。

 おじさんはついに笛を咥えて、肺の中にある酸素を一気に吐きーーーー

 スッーーーーーーーーーーーー

「吸うんかいっ!」

 出してた右手でおじさんの胸にツッコミ。
 
 これほど綺麗に決まったツッコミは俺の人生では初ではなかろうか。

 などと思っていると。

 ピィーーーーーーーーーーーー

 笛の音が辺りに響き渡り、そして。

「脱獄だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 看守のおじさんの怒号が響き渡る。

 そのあまりの迫力に腰を抜かしそうになったが、何とか持ちこたえまともに動かない足を必死に動かして出口に向かって走り出す。

 後方では看守のおじさんが笛を吹いて、怒号をあげ、騒ぎ立てている。

 初めてのに困惑する。

 何だ、これからどうすればいい? どこに逃げればいい? どこに逃げれば見つからない? 最善の策は? また【力】を上げてみるか? ダメだ。俺は戦いに来たんじゃない。それにもしこのまま戦えば俺はこの国と、一国と戦う事になる。大罪人は嫌だ。それにせっかくの異世界なんだ、もっと楽しみたい。くそう、ダメだ。考えがまとまらない。

 気付くと後方にはさっきの看守のおじさんが追って来ていて必死に何かを叫んでいる。

 やっべ、おじさん足が超速い! 

 こんな事なら【速さ】の値を調整しとくんだった。バカな自分を悔やみながら必死にひたすら走る。
 
 前方からは騒ぎに気付いて駆けつけた別のおじさん2人がいて。俺はおじさん2人を華麗に躱して通路の先の角を曲がる。角の先は行き止まりで、左側に部屋が3つ並んでいた。1つ目の部屋を走りすぎ2つ目の部屋に入った。

 部屋の中は薄暗く分厚く埃をかぶった椅子やテーブルが置いてあった。そのあまりにも寂しい光景をみるかぎり、どうやら物置か全く使われていない部屋のようだ。

「あっ……」

 気付く、

 窓がない。

 いや、正確に言えば窓はあるが窓があるのは約2メートルぐらいの高さで、あくまでも光を取り込むために作られたものなので人が通れるようなものじゃない。

 終わった。詰んだ。

「こらっ! 出てこい! ここ開けろ!」

 隣の部屋からは勢いよくドアを叩く音がガンガン響いている。どうやら鍵がたまたま掛かっていて俺が中から鍵を閉めたんだと勘違いしたらしい。

「おい、鍵持って来てくれ!」

「分かった」

 1人がドアの鍵を取りに行った。

「観念しろ!  もう逃げ場はないぞ! 早く出てこい!」

 なおもドアは激しい音を立てている。

 良かった。

 ほっと胸をなでおろす。少しだけど時間を稼げる。

 必死に考える。どうすれば、どうすれば……。

「おい! 一応そっちの部屋見てくれ!」

「ああ!」

 足音が近づいてくる。

 意識が、遠のいていく……。













 
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