上 下
4 / 135
エピソード・オブ・タケル

しおりを挟む
 神の使いが読み上げた次の転生先を聞いて、俺は放心していた。

「…………」 

 もうリアクションもとれねえよ、とりたくねえよ。
 
 めんどくせえよ。

「くくく……ほらみろ! やっぱりな! 勇者しか能がねぇんだってあいつ!」

 などという事は言われ慣れていた、もう気にしてない。

「しかし本当に君って凄いよね……やっぱり名前が良くないんじゃない? 勇ましく猛る! なんて、まるっきり勇者志願者だよ」

 神は呆れ顔で俺を見つめる。

「まあ、決まっちゃったものはしょうが――」

「――無い訳あるかぁぁぁ!」

 納得できるわけがない。

「何で100回も勇者やんなきゃいけねえの!? 名前が悪いって何!? 名前決めたのお前! つーか、お前神様なら何とかしろ! 俺を救え!」

 神に対してかなり失礼な物言いである。

「た……タメ口凄いね!?」

 こんなにうろたえる神は初めて見た、そして俺も俺でうろたえていた。

 神の使いも、転生待ちの奴等も突然の出来事に呆気にとられていた。

 誰一人動けず、誰一人喋れずに、しんーーーーと、静まり返る転生の間。

 慌てふためき俺はどうにか間を取り持とうと試みる。

「すっ……すみません! 100回目の転生先も勇者になっちゃって、何か変なテンションになっちゃって! もうどうでもいいって言うか何て言うか……お前の引きが悪いから! この馬鹿! 馬神ばかみ!」

「ばっ――馬鹿!? 子供から馬鹿だなんて初めて言われたよ! 君みたいな子供は初めてだよ! 君いったい、なんなの!?」

「あっ……いや、ごめんなさいです。そんな子供みたいな見た目してんのに、親だなんて信じられなくて……そして何でそこまで美少年なんだよ訳わかんねえよ! 俺もイケメンにしろい!」

「――知らないよっ! 見た目は関係ないだろっ!? 確かに僕は子供っぽく見えるかも知れないけれど、君達を作り出した《父親》なんだぞ!? 父親に逆らうのか!?」

「うるせえよっ! 反抗期だ馬鹿やろう! 父親ならそれぐらい察しろい! 難しい年頃なんだぞい!」

「ぐぬぬぬ……。さっさと行ってこい! しばらく帰ってくるな!」

「どうせ数年は帰ってこれねえよ!」

 言って、俺は完全に顔の引きつった神の使いに例の小部屋へと連行された。

 神は悔し涙を流し、別の神の使いにしがみつきながら罵声を上げていた。

 転生の間での騒動はそのままに、俺は小部屋の中へと入った。そこは小さな魔法陣が床に書かれただけの簡素な部屋だ。

 魔法陣を前にして神の使いが震える声で語り出した。

「お……おお、お前、消滅せずに済んで良かったな……。たの……頼むからもう二度とあんな事は止めてくれ」

 神の使いの言葉を適当に聞き流し俺は、逆らえない運命をなんとか無理やり受け入れようとしていた。

 100回目の転生。職業――勇者。

 夢も希望も無いとは、こういうことだ。

 どんだけ好きなゲームだって100回もクリアしねえだろ……。

 俺は煮え切らない想いを胸に魔法陣の中へと入って行った。

 俺の視界は一瞬で白一色に変わり、意識も途絶えた。

 こうして俺の100回目の退屈な勇者人生がまたも始まるのだった。



しおりを挟む

処理中です...