繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・タケル

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 神の使いが読み上げた次の転生先を聞いて、俺は放心していた。

「…………」 

 もうリアクションもとれねえよ、とりたくねえよ。
 
 めんどくせえよ。

「くくく……ほらみろ! やっぱりな! 勇者しか能がねぇんだってあいつ!」

 などという事は言われ慣れていた、もう気にしてない。

「しかし本当に君って凄いよね……やっぱり名前が良くないんじゃない? 勇ましく猛る! なんて、まるっきり勇者志願者だよ」

 神は呆れ顔で俺を見つめる。

「まあ、決まっちゃったものはしょうが――」

「――無い訳あるかぁぁぁ!」

 納得できるわけがない。

「何で100回も勇者やんなきゃいけねえの!? 名前が悪いって何!? 名前決めたのお前! つーか、お前神様なら何とかしろ! 俺を救え!」

 神に対してかなり失礼な物言いである。

「た……タメ口凄いね!?」

 こんなにうろたえる神は初めて見た、そして俺も俺でうろたえていた。

 神の使いも、転生待ちの奴等も突然の出来事に呆気にとられていた。

 誰一人動けず、誰一人喋れずに、しんーーーーと、静まり返る転生の間。

 慌てふためき俺はどうにか間を取り持とうと試みる。

「すっ……すみません! 100回目の転生先も勇者になっちゃって、何か変なテンションになっちゃって! もうどうでもいいって言うか何て言うか……お前の引きが悪いから! この馬鹿! 馬神ばかみ!」

「ばっ――馬鹿!? 子供から馬鹿だなんて初めて言われたよ! 君みたいな子供は初めてだよ! 君いったい、なんなの!?」

「あっ……いや、ごめんなさいです。そんな子供みたいな見た目してんのに、親だなんて信じられなくて……そして何でそこまで美少年なんだよ訳わかんねえよ! 俺もイケメンにしろい!」

「――知らないよっ! 見た目は関係ないだろっ!? 確かに僕は子供っぽく見えるかも知れないけれど、君達を作り出した《父親》なんだぞ!? 父親に逆らうのか!?」

「うるせえよっ! 反抗期だ馬鹿やろう! 父親ならそれぐらい察しろい! 難しい年頃なんだぞい!」

「ぐぬぬぬ……。さっさと行ってこい! しばらく帰ってくるな!」

「どうせ数年は帰ってこれねえよ!」

 言って、俺は完全に顔の引きつった神の使いに例の小部屋へと連行された。

 神は悔し涙を流し、別の神の使いにしがみつきながら罵声を上げていた。

 転生の間での騒動はそのままに、俺は小部屋の中へと入った。そこは小さな魔法陣が床に書かれただけの簡素な部屋だ。

 魔法陣を前にして神の使いが震える声で語り出した。

「お……おお、お前、消滅せずに済んで良かったな……。たの……頼むからもう二度とあんな事は止めてくれ」

 神の使いの言葉を適当に聞き流し俺は、逆らえない運命をなんとか無理やり受け入れようとしていた。

 100回目の転生。職業――勇者。

 夢も希望も無いとは、こういうことだ。

 どんだけ好きなゲームだって100回もクリアしねえだろ……。

 俺は煮え切らない想いを胸に魔法陣の中へと入って行った。

 俺の視界は一瞬で白一色に変わり、意識も途絶えた。

 こうして俺の100回目の退屈な勇者人生がまたも始まるのだった。



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