繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

文字の大きさ
8 / 135
エピソード・オブ・タケル

しおりを挟む
 と、このまま流れに任せて外に出てしまうところだったが、すんでのところで思いとどまった。

「そういや残りHP確か2だったな」

 解毒したとはいえ猛毒の猛威がもたらした結果を思い出した。

 この辺のモンスターにやられる事はないと思うが念の為にステータスを確認してみる。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 勇猛いさみたける

 Lv 1
 HP 14/14
 MP 9/9
 力  14
 守り 9
 早さ 8
 魔力 3
 職業 100回目の勇者
 装備 旅人の服
 お金 0G
 状態 普通

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

「えっ……」

 HP 14……。

 状態異常どころかHPが全回復していた。

 ーーーーあなたが多くの血を吐くので。

 ーーーー特別な感じがしませんか?

 ドーグさんの言葉が脳裏をよぎる。

「はは…………」

 驚きと混乱が交錯する中、俺の口角は自然と上がっていく。

 優しい思いが込められた道具には奇跡が起こるのだと、俺は100回目の勇者人生にして初めて知ったのであった。

 常識では考えられない出来事。それが奇跡か。

 胸に込み上げるなんとも言えない気持ちが溢れ出してきて、俺は背にしていたドーグさんの村に深々と一礼して村の外へと出た。

 久しぶりに高鳴る気持ちのまま村から数歩歩いたところで視界の端に人影を発見し、そちらへちらりと視線を送る。

 男だった。

 もちろんドーグさんではない。

 年齢こそ同じくらいに見えるが、全くの別人。

 別の人。というよりもなんていうか、そう。種類が違う。あるいはタイプが。同じ人間なのに全くの別物だ。

 俺がなぜそう思うのかというと、恐らくはあの人物の顔つき、主に目つきだろう。

 ドーグさんは常にニコニコとしてほっこりした癒し系な感じの人だったが、あの男は全くの逆だ。

 目にかかるくらいまで伸びた黒髪、その奥から放たれる人の心までも見透かしてしまいそうなほど冷たい眼差し、感情が一切読み取れない表情、全身から漂う怪しげな雰囲気、見るからに上品な素材で作られたデザインの衣服、見ようによってはどこかの国の王子様にも見える。

 第一印象で感想を述べるならば、ちょっと苦手なタイプの人間。

 明らかに俺より格好いいところが特に大きな減点対象だ。

 男はそんな査定を行なっている俺の近くまで歩いてくるやいなや、俺の全身を上から下からじっくりと見て口を開く。

「ふむ、お前はここら辺に住む人間か?」

「え……ああ、はい……。そうです」

 突然の質問に対し、つい嘘をついてしまった。

「そうか……名は?」

「タ……タケルと言います」

 男は腕組みしながら目を閉じて更に言葉を発する。

「……そうかタケルか。覚えておこう。私の名はデューク。私は今、色々と世界を見て回っている最中なのだ」

「冒険者……ですか……」

 デュークと名乗った男は俺の言葉に少し引っかかったような素振りを見せて、

「……ふむ。冒険者か。それもいいかもしれないな」

 腕組みしながら冒険者という言葉の響きを堪能するように頷くデューク。

「…………」

「…………」

 気まずい沈黙が続く中、俺はどうにか会話を続けようと試みる。

「た……旅の……旅の目的とかってあるんですか⁉︎」

 言い終わったと同時に、さっき世界を見て回っていると言っていた事を思い出し、どきりとした。

「目的はなんでもいい……ただ見聞を広げたい。ふむ、そうだな。あと、趣味というほどのものではないが強者を探している」

「強者……ですか……」

 もしここで俺がふざけて『俺も結構強いですよ!』とか言ったら襲いかかってきそうな気がする。

「強いといえば、恐ろしく強いといえば……やっぱり大魔王とかになるんでしょうか」

 デュークは虚をつかれたように目を見開いて笑う。

「大魔王か……確かにそうだな。モンスター達の親玉。ふむ。大魔王を倒す旅というのも面白いのかもしれん」

「…………」

 ーーーー何っ⁉︎

 大魔王を倒す⁉︎

 男の放った一言に驚きが隠せない。だってそんな人物今まで見たことないぞ。

 まあ、冷静に考えれば魔王討伐を目指す強者はどこかにいるにはいるんだろうが……今まで俺が気が付かなかっただけで別の場所でモンスター達と戦い勝利し、また敗北する者は相当数いるんだろうが……。

 でも、こうして目の前に現れたことは今まで一度もなかったんだが……。

 そもそも転生直後の状態といい、ドーグさんといい、この男、デュークといい、なんだか始めての事ばかりだ。

 今のところ景色ぐらいしか判断できるものはないけれど、ざっと見る限りにおいてこの世界は今までと全く同じ世界なんだけれどな。やはりスタートが今までと違っているから多少の変化点があるのだろうか?

 なんだかんだと考えていると、デュークからとんでもない提案をされる事となった。


「タケル。どうだ貴様、私の仲間にしてやろうか?」

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...