繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

文字の大きさ
26 / 135
エピソード・オブ・少年

しおりを挟む
 村長と別れて数分後。

「もういいかな? もう村長の近辺整理とやらは終わったかな? 村長の修行も終わったかな? 俺の方もあれから立て続けにスライム4匹蹴り飛ばしたし、修行は完了した筈だ。あと……どれくらい待てばいいのかな? まだかな? まだかな?」

 急に一人になった事で耐えられない程の孤独感に苛まれていた。

 絶妙なタイミングでボケが来る事もないし、振りが飛んでくる事もない。

 なので、ツッコミ発動の条件が整わない。


 つまりーーーー暇なのである。


 小気味の良い会話、ネタなくしてこの物語は、大冒険は成立しないのだ。

 何という緊急事態。村長とほんの数分別れただけでここまでの事態に陥るとは……。

 これが噂に名高い《ヴィレッジヘッドマンシック》というやつなのだろうか?

 恐ろしい。大魔王よりも恐ろしい。

 この最悪の状況を打破する為に、今こそあの《無条件ツッコミ》の奥義を極めなければならないようだ。

 世界に星の数ほど存在するツッコミ担当キャラが、マジ泣きして喉から何やかんや出る程に欲しがる究極奥義、それが《無条件ツッコミ》である。

 ツッコミを発動する為にボケや振りを必要としない、変幻自在の自由自在な奥義。

 つまり、やりたい放題。完全無双状態なのだ。

 だが、その究極奥義習得にはかなりの鍛錬が必要であり、皆一様に悲惨な運命を辿り朽ち果てていく。

「いや、紅葉かよっ!」

 辺りの紅葉は葉を揺らし、一枚一枚地に落ちていく。

「って、太陽! お前眩しいなっ!」

 秋空の太陽は優しい笑みで世界を暖かく照らしている。

「お……俺、一人かよっ!」

 のどかな静寂が辺りを包んでいる。今日は絶好の冒険日和である。

「つ……次の……次の町、まだかよっ!」

《タケルにトータル896の精神的ダメージ!》

「うべらっ!」

 俺を襲う不快感に、ついその場で片膝をついてしまった。

 特に痛みなどはないのだが、胸の中に大量に形成された羞恥心や脱力感や自己嫌悪といった負のエネルギーが俺から生きる希望や活力といったエネルギーを奪い去る。

 さすがに半端じゃないな。全く笑いが起きる気配さえ無いこの状況での一人ツッコミは地獄としか言いようがない。そりゃ、みんな途中で諦めるよ。

 本格的に精神がやられそうだ。

 というか、精神的ダメージ食らい過ぎだろう。あんだけ食らって死んでないのが不思議なくらいだ。

 いったい最大値いくらあるんだよ。

 俺は散々迷ったがさっきの精神的ダメージ量を見て色々と不安だったので、パウロさんから頂いた薬草を念のため使用しておく事にした。

《タケルのHPが30回復した!》

 ドーグさんの毒消し草のように奇跡が起こって全回復とはいかなくても、少しくらいは精神的ダメージが回復してくれていればいいのだが。

「はあ……」

 俺は未だうずく胸を優しくさすりながら立ち上がり、ため息を漏らす。

 突如、

「タケルーーーーだったか?」

「ーーーーえっ⁉︎」

 思いがけない呼び掛けに飛び上がりそうになるほど驚いて、瞬時に声の主を確認する。

 目元が見えなくなるほど深く被った大きな黒いウィザードハット、口元を覆い隠すような白く長いひげ、痩躯を包む黒のローブが風でひらりと揺れた。

「…………」

 誰だ?

 なぜ俺の名前を知っている?

 様々な可能性を探ってみたが、ガネーシャ村などで会った記憶は全くない。

「お前は……先程からいったい何をやっているんだ?」

 更に問いかけられて、ようやく本当の声の主を認識する。

 ウィザードハットの陰から現れた人物。

「あ……デューク」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...