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エピソード・オブ・少年
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「はっ! やあ! ふっ!」
次から次に繰り出される少年パティの剣筋を叩き、払い、躱していく。ふむ、筋は良い。一人で頑張ってきた事が剣筋にありありと現れている、しかしまだ荒っぽく拙い部分が見て取れる、剣術の試合で優勝は出来るだろうが相手がモンスターとなるとまた話は別だ。モンスターの中には胸を貫かれながらも反撃してくるタフネスさを持つモンスターも多くいる。そんなタフネスさは人間には無いものだ。
俺は少年の枝を受けたり、受け流したり一方的に攻められる状況だったがここで反撃を試みる。
「ほいっ!」
右手の枝で少年の右足を狙う。
「うわっ! あぶねっ!」
少年は右足を咄嗟に折り曲げそれを回避する。
当てるつもりだったんだが……。
もう一度試してみるも、またも避けられてしまった。
ならばこれならどうだ?
「やあ!」
俺は少年の突きを避けて左脇に挟む、そこから少年の頭めがけて右腕の枝を振り下ろした。攻撃を受けながらも反撃してくるモンスター、多くの戦士がやられる状況だ。
さあ、どうする? 少年よ
「ーーーー抜けないっ!」
俺に掴まれた枝をなんとか引き抜こうと試みるが、がっちりと掴んでいるので抜く事はできない。
少年は視線を上へと向けて俺の右手を確認した。
「ーーーーくっ」
少年の表情に焦りの色が浮かぶ。
結果、俺の右手は空を虚しく切った。少年は自分の枝が抜けないと判断するやいなや、枝をそのまま放置してすぐさま回避行動をとった。
完璧なまでに大正解の行動だった。
しかも武器を無くした少年は素手による攻撃体勢に入っている。
なんだこの少年……よほど剣術道場の教えがいいのか戦闘の心得を分かっている。
この少年ひょっとすると……。
「よく避けられたな! さっきのでやられる剣士は結構多くいるんだぜ?」
「だって、当たったら痛い!」
「……まあ、痛いだろうね」
ああ、なるほど。
痛いのが嫌だから精一杯避けたのか……。
しかし戦場でのかすり傷は命に関わる問題になりかねない。人間としての正しい戦い方は《無傷で勝つ》が基本だ。
そこで俺はこの少年にどんどん興味が湧いてきてしまった。
悪い癖だな。
「よしっ! 次行くぞ! 次!」
「ちょっと待って!」
制止を求める少年パティ。一体どうしたのだろう?
「どうかしたのかね? 休憩かい?」
「必殺技! 必殺技教えてよ!」
唐突に言い放った少年の素敵な言葉に、俺の胸の奥で未だ燃え続ける炎がゆらりとうねり、その熱を増した。
「ーーーーひっ、必殺技かねっ⁉︎」
「そう! 相手を一撃でやっつけるすごいカッコイイ必殺技! 勇者様ならたくさんあるでしょ⁉︎」
「なっ、何を言い出したかと思えばひっ、必殺技とは……またまた君はなんて刺激的な事を言うのかね、まったくっ!」
「ねぇねぇ! 教えてよ! 必殺技っ!」
「まいったなぁ……こういうのは本来あまり人には見せないものなんだけど、君がそこまで見たいというなら仕方がないな……ちょっとだけだよ? 本当にちょっとだけ……」
「うんっ! うんっ! 早く、早く!」
俺はどれを使おうか散々と迷ったあげく、前回の旅で使った技を使う事にした。
俺は肩よりやや高めに位置した右手を一瞬胸に引き寄せ、自重により膝を折り、身体の落下を両の踵から足先へと繋げて踏み込んだ。
「剣技、天照ーーーー大日霊!」
横薙ぎに振るわれた枝が鈍色の光の筋を引くわけも無く、刀身ーー枝身が神々しい光を放つ事もなく、不細工な風切り音を鳴らしながら空を切った。
「ふふふ……」
我ながら酷い出来だ。
前回の大魔王戦の時とは違い、今回はまだ自身のレベルも低いし、武器が枝だしで必殺技というよりもただの素振りのような形となった。
「わあ……すごい……一瞬、見えなかったよ!」
パティ少年は苦笑いで俺の放った必殺技の感想をくれた。そして妙にハイテンションで必死に子供らしくふるまってくれているのがとても辛かった。
今夜は泣いちゃうかも。
「…………」
無言のまま必殺技終了時のポーズから、ゆっくりと元の構えに戻る。
何だか呼吸するのも憚られるくらいに気まずかったので、なるべく全ての動作の音が出ないように静かに、静かに元の構えへと戻っていった。
この辺一帯が重苦しい空気に支配され始めた頃、少年パティが口を開いた。
「あの、えっと……あれ。何だっけ……あの……ほらっ! あれだよね!」
めっちゃ気まずそうに他の話題をさがしてるぅぅぅ!
子供に無理な気使いをさせてるぅぅぅ!
何だよこれ。どうすんだよこの空気。耐えられねぇ……走って逃げるか⁉︎ 逃げれば解決できる問題なのか⁉︎ それとも村長を召喚するか⁉︎ というか俺は召喚士なのか⁉︎ いや違う。俺が召喚士ならそもそもこんな冒険は始まっていない。もう誰でもいいから助けてくれ!
「あっ! でもさ! 必殺技って、誰がどうやって作るものなの?」
最高の救い船が着岸なされた。
次から次に繰り出される少年パティの剣筋を叩き、払い、躱していく。ふむ、筋は良い。一人で頑張ってきた事が剣筋にありありと現れている、しかしまだ荒っぽく拙い部分が見て取れる、剣術の試合で優勝は出来るだろうが相手がモンスターとなるとまた話は別だ。モンスターの中には胸を貫かれながらも反撃してくるタフネスさを持つモンスターも多くいる。そんなタフネスさは人間には無いものだ。
俺は少年の枝を受けたり、受け流したり一方的に攻められる状況だったがここで反撃を試みる。
「ほいっ!」
右手の枝で少年の右足を狙う。
「うわっ! あぶねっ!」
少年は右足を咄嗟に折り曲げそれを回避する。
当てるつもりだったんだが……。
もう一度試してみるも、またも避けられてしまった。
ならばこれならどうだ?
「やあ!」
俺は少年の突きを避けて左脇に挟む、そこから少年の頭めがけて右腕の枝を振り下ろした。攻撃を受けながらも反撃してくるモンスター、多くの戦士がやられる状況だ。
さあ、どうする? 少年よ
「ーーーー抜けないっ!」
俺に掴まれた枝をなんとか引き抜こうと試みるが、がっちりと掴んでいるので抜く事はできない。
少年は視線を上へと向けて俺の右手を確認した。
「ーーーーくっ」
少年の表情に焦りの色が浮かぶ。
結果、俺の右手は空を虚しく切った。少年は自分の枝が抜けないと判断するやいなや、枝をそのまま放置してすぐさま回避行動をとった。
完璧なまでに大正解の行動だった。
しかも武器を無くした少年は素手による攻撃体勢に入っている。
なんだこの少年……よほど剣術道場の教えがいいのか戦闘の心得を分かっている。
この少年ひょっとすると……。
「よく避けられたな! さっきのでやられる剣士は結構多くいるんだぜ?」
「だって、当たったら痛い!」
「……まあ、痛いだろうね」
ああ、なるほど。
痛いのが嫌だから精一杯避けたのか……。
しかし戦場でのかすり傷は命に関わる問題になりかねない。人間としての正しい戦い方は《無傷で勝つ》が基本だ。
そこで俺はこの少年にどんどん興味が湧いてきてしまった。
悪い癖だな。
「よしっ! 次行くぞ! 次!」
「ちょっと待って!」
制止を求める少年パティ。一体どうしたのだろう?
「どうかしたのかね? 休憩かい?」
「必殺技! 必殺技教えてよ!」
唐突に言い放った少年の素敵な言葉に、俺の胸の奥で未だ燃え続ける炎がゆらりとうねり、その熱を増した。
「ーーーーひっ、必殺技かねっ⁉︎」
「そう! 相手を一撃でやっつけるすごいカッコイイ必殺技! 勇者様ならたくさんあるでしょ⁉︎」
「なっ、何を言い出したかと思えばひっ、必殺技とは……またまた君はなんて刺激的な事を言うのかね、まったくっ!」
「ねぇねぇ! 教えてよ! 必殺技っ!」
「まいったなぁ……こういうのは本来あまり人には見せないものなんだけど、君がそこまで見たいというなら仕方がないな……ちょっとだけだよ? 本当にちょっとだけ……」
「うんっ! うんっ! 早く、早く!」
俺はどれを使おうか散々と迷ったあげく、前回の旅で使った技を使う事にした。
俺は肩よりやや高めに位置した右手を一瞬胸に引き寄せ、自重により膝を折り、身体の落下を両の踵から足先へと繋げて踏み込んだ。
「剣技、天照ーーーー大日霊!」
横薙ぎに振るわれた枝が鈍色の光の筋を引くわけも無く、刀身ーー枝身が神々しい光を放つ事もなく、不細工な風切り音を鳴らしながら空を切った。
「ふふふ……」
我ながら酷い出来だ。
前回の大魔王戦の時とは違い、今回はまだ自身のレベルも低いし、武器が枝だしで必殺技というよりもただの素振りのような形となった。
「わあ……すごい……一瞬、見えなかったよ!」
パティ少年は苦笑いで俺の放った必殺技の感想をくれた。そして妙にハイテンションで必死に子供らしくふるまってくれているのがとても辛かった。
今夜は泣いちゃうかも。
「…………」
無言のまま必殺技終了時のポーズから、ゆっくりと元の構えに戻る。
何だか呼吸するのも憚られるくらいに気まずかったので、なるべく全ての動作の音が出ないように静かに、静かに元の構えへと戻っていった。
この辺一帯が重苦しい空気に支配され始めた頃、少年パティが口を開いた。
「あの、えっと……あれ。何だっけ……あの……ほらっ! あれだよね!」
めっちゃ気まずそうに他の話題をさがしてるぅぅぅ!
子供に無理な気使いをさせてるぅぅぅ!
何だよこれ。どうすんだよこの空気。耐えられねぇ……走って逃げるか⁉︎ 逃げれば解決できる問題なのか⁉︎ それとも村長を召喚するか⁉︎ というか俺は召喚士なのか⁉︎ いや違う。俺が召喚士ならそもそもこんな冒険は始まっていない。もう誰でもいいから助けてくれ!
「あっ! でもさ! 必殺技って、誰がどうやって作るものなの?」
最高の救い船が着岸なされた。
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