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エピソード・オブ・少年
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「ーーーーだからもう、勝負はしない」
俺に背を向け数歩歩いてから、少年パティは青空を仰いで言う。
そんな辛い過去があったのか。
若干9才という年齢で果敢にも勝負の舞台に立ったのにも関わらず、相手側の卑劣な行為によって《勝てば助けられる》という唯一の希望を無惨にも奪い取られた。自身の正義感、弱さ、未熟さ、甘さ、至らなさ、それら全てを現実のもとに突きつけられ踏みにじられ、世の理不尽さを知った。
幼くして世の汚さ、勝負の厳しさ、敗北を知ってしまった。
そんな出来事は少年パティの心の奥底に暗い影を落とし、しっかりとした闇を抱える原因になっている。
勝負に負ければ、辛い目にあう。
弱ければ、何も守れない。
自分は敗北者であって、勝者にはなれない。
また負け犬になるくらいなら、もう勝負はしない。
そんな事を思っているんだろう。
「さっ! 早く稽古に付き合ってよ! 格好いい必殺技編み出すんだからさっ!」
パティは口角を大きくあげて無邪気な笑顔で言う。
この笑顔まで戻って来るのに、いったいどれくらいの時間がかかったのか……パティの苦しみ続けた日々を思うと胸が痛んだ。
「……ああ、始めようか!」
俺は数歩歩いて、パティの正面に立って、
「「よろしくお願いします」」
剣術のお稽古開始である。
結局。その日は道場の稽古はお休みだったので、そのまま夕方まで広場でパティの稽古に付き合ってあげた。
たくさん待たせてしまったからな、たくさん付き合ってあげないと。
夕日も落ち始めた頃、パティに家に招待され散々迷ったあげくお邪魔することにした。
広場を後にして、目の前に流れる人混みの流れを華麗に縫って歩きパティの家へとたどり着いた。
「ただいま!」
元気よく扉を開けて帰宅を伝えると、すぐに出迎えの声と一緒に何ともかぐわしい料理の匂いが漂った。
「ああ、お帰り。遅かったね」
声の主はパティの母親だった。黒く長い髪を後ろで一つに縛っていて、年季の入った深緑のエプロンを腰に巻いて、母親似なんだなと思わされるくらい少年パティと似ていて、優しさと厳しさを同量混ぜた雰囲気の母親だった。
「ん? そちらは?」
「今日知り合ったばかりの旅の勇者様だよ! 昼間に出会って、剣術の稽古をしてもらってたんだ」
「ーーまあ。そうですか。うちの子が無理言って付き合わせたんじゃないですか? お忙しいところ申し訳ありません」
パティのお母さんは腰に巻いたエプロンで手を拭いながら扉の前まで駆け寄って来た。
「いえいえ! どちらかと言えば、僕が暇だったので最初に声を掛けたくらいですから気にしないで下さい」
「……そうですか? それならいいんですけど。アンタちゃんとお礼言ったんだろうね⁉︎」
「言ったよ! 確か」
「確かってなんだい! 確かって! アンタがそう言う時は大抵、言ってないからね! ちゃんとお礼言いなさい、ほらっ」
「今日はありがとうございました。勇者様」
ぺこり、と。少年パティはお辞儀した。その様子をしっかりと見届けてから、
「よしっ! 後は。勇者様、私からもお礼を言わせて下さい。息子に付き合って頂いて本当にありがとうございました。もしよろしければ、食事を召し上がっていってください。お口に合えばいいんですけど……」
「うんっ! 一緒に食べようよ! お母さん料理は上手だから」
「……は?」
「……もです……」
「ーーよろしい。さあ勇者様ぜひぜひ!」
パティが手を引いて家の中へ案内してくれるのだが、
「いえ……しかし。急に押しかけて食事までご馳走になるわけには……」
と、
ぐぎゅゅゅゅゅゅうぅぅぅぅ……。
腹の虫が大きく鳴いた。
「ははは! ほらっ! 身体は正直だよ!」
「さあさあ! そこに座ってください!」
俺はパティの家へと入りテーブルに着いた。
ふと目に入った窓の外にはベネツィの夜があって、部屋では美味しそうな料理が香った。
俺に背を向け数歩歩いてから、少年パティは青空を仰いで言う。
そんな辛い過去があったのか。
若干9才という年齢で果敢にも勝負の舞台に立ったのにも関わらず、相手側の卑劣な行為によって《勝てば助けられる》という唯一の希望を無惨にも奪い取られた。自身の正義感、弱さ、未熟さ、甘さ、至らなさ、それら全てを現実のもとに突きつけられ踏みにじられ、世の理不尽さを知った。
幼くして世の汚さ、勝負の厳しさ、敗北を知ってしまった。
そんな出来事は少年パティの心の奥底に暗い影を落とし、しっかりとした闇を抱える原因になっている。
勝負に負ければ、辛い目にあう。
弱ければ、何も守れない。
自分は敗北者であって、勝者にはなれない。
また負け犬になるくらいなら、もう勝負はしない。
そんな事を思っているんだろう。
「さっ! 早く稽古に付き合ってよ! 格好いい必殺技編み出すんだからさっ!」
パティは口角を大きくあげて無邪気な笑顔で言う。
この笑顔まで戻って来るのに、いったいどれくらいの時間がかかったのか……パティの苦しみ続けた日々を思うと胸が痛んだ。
「……ああ、始めようか!」
俺は数歩歩いて、パティの正面に立って、
「「よろしくお願いします」」
剣術のお稽古開始である。
結局。その日は道場の稽古はお休みだったので、そのまま夕方まで広場でパティの稽古に付き合ってあげた。
たくさん待たせてしまったからな、たくさん付き合ってあげないと。
夕日も落ち始めた頃、パティに家に招待され散々迷ったあげくお邪魔することにした。
広場を後にして、目の前に流れる人混みの流れを華麗に縫って歩きパティの家へとたどり着いた。
「ただいま!」
元気よく扉を開けて帰宅を伝えると、すぐに出迎えの声と一緒に何ともかぐわしい料理の匂いが漂った。
「ああ、お帰り。遅かったね」
声の主はパティの母親だった。黒く長い髪を後ろで一つに縛っていて、年季の入った深緑のエプロンを腰に巻いて、母親似なんだなと思わされるくらい少年パティと似ていて、優しさと厳しさを同量混ぜた雰囲気の母親だった。
「ん? そちらは?」
「今日知り合ったばかりの旅の勇者様だよ! 昼間に出会って、剣術の稽古をしてもらってたんだ」
「ーーまあ。そうですか。うちの子が無理言って付き合わせたんじゃないですか? お忙しいところ申し訳ありません」
パティのお母さんは腰に巻いたエプロンで手を拭いながら扉の前まで駆け寄って来た。
「いえいえ! どちらかと言えば、僕が暇だったので最初に声を掛けたくらいですから気にしないで下さい」
「……そうですか? それならいいんですけど。アンタちゃんとお礼言ったんだろうね⁉︎」
「言ったよ! 確か」
「確かってなんだい! 確かって! アンタがそう言う時は大抵、言ってないからね! ちゃんとお礼言いなさい、ほらっ」
「今日はありがとうございました。勇者様」
ぺこり、と。少年パティはお辞儀した。その様子をしっかりと見届けてから、
「よしっ! 後は。勇者様、私からもお礼を言わせて下さい。息子に付き合って頂いて本当にありがとうございました。もしよろしければ、食事を召し上がっていってください。お口に合えばいいんですけど……」
「うんっ! 一緒に食べようよ! お母さん料理は上手だから」
「……は?」
「……もです……」
「ーーよろしい。さあ勇者様ぜひぜひ!」
パティが手を引いて家の中へ案内してくれるのだが、
「いえ……しかし。急に押しかけて食事までご馳走になるわけには……」
と、
ぐぎゅゅゅゅゅゅうぅぅぅぅ……。
腹の虫が大きく鳴いた。
「ははは! ほらっ! 身体は正直だよ!」
「さあさあ! そこに座ってください!」
俺はパティの家へと入りテーブルに着いた。
ふと目に入った窓の外にはベネツィの夜があって、部屋では美味しそうな料理が香った。
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