繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

文字の大きさ
40 / 135
エピソード・オブ・少年

15

しおりを挟む
「ーーーーだからもう、勝負はしない」

 俺に背を向け数歩歩いてから、少年パティは青空を仰いで言う。
 
 そんな辛い過去があったのか。

 若干9才という年齢で果敢にも勝負の舞台に立ったのにも関わらず、相手側の卑劣な行為によって《勝てば助けられる》という唯一の希望を無惨にも奪い取られた。自身の正義感、弱さ、未熟さ、甘さ、至らなさ、それら全てを現実のもとに突きつけられ踏みにじられ、世の理不尽さを知った。

 幼くして世の汚さ、勝負の厳しさ、敗北を知ってしまった。

 そんな出来事は少年パティの心の奥底に暗い影を落とし、しっかりとした闇を抱える原因になっている。

 勝負に負ければ、辛い目にあう。

 弱ければ、何も守れない。

 自分は敗北者であって、勝者にはなれない。

 また負け犬になるくらいなら、もう勝負はしない。

 そんな事を思っているんだろう。

「さっ! 早く稽古に付き合ってよ! 格好いい必殺技編み出すんだからさっ!」

 パティは口角を大きくあげて無邪気な笑顔で言う。

 この笑顔まで戻って来るのに、いったいどれくらいの時間がかかったのか……パティの苦しみ続けた日々を思うと胸が痛んだ。

「……ああ、始めようか!」

 俺は数歩歩いて、パティの正面に立って、

「「よろしくお願いします」」

 剣術のお稽古開始である。


 結局。その日は道場の稽古はお休みだったので、そのまま夕方まで広場でパティの稽古に付き合ってあげた。

 たくさん待たせてしまったからな、たくさん付き合ってあげないと。

 夕日も落ち始めた頃、パティに家に招待され散々迷ったあげくお邪魔することにした。

 広場を後にして、目の前に流れる人混みの流れを華麗に縫って歩きパティの家へとたどり着いた。

「ただいま!」

 元気よく扉を開けて帰宅を伝えると、すぐに出迎えの声と一緒に何ともかぐわしい料理の匂いが漂った。

「ああ、お帰り。遅かったね」

 声の主はパティの母親だった。黒く長い髪を後ろで一つに縛っていて、年季の入った深緑のエプロンを腰に巻いて、母親似なんだなと思わされるくらい少年パティと似ていて、優しさと厳しさを同量混ぜた雰囲気の母親だった。

「ん? そちらは?」

「今日知り合ったばかりの旅の勇者様だよ! 昼間に出会って、剣術の稽古をしてもらってたんだ」

「ーーまあ。そうですか。うちの子が無理言って付き合わせたんじゃないですか? お忙しいところ申し訳ありません」

 パティのお母さんは腰に巻いたエプロンで手を拭いながら扉の前まで駆け寄って来た。

「いえいえ! どちらかと言えば、僕が暇だったので最初に声を掛けたくらいですから気にしないで下さい」

「……そうですか? それならいいんですけど。アンタちゃんとお礼言ったんだろうね⁉︎」

「言ったよ! 確か」

「確かってなんだい! 確かって! アンタがそう言う時は大抵、言ってないからね! ちゃんとお礼言いなさい、ほらっ」

「今日はありがとうございました。勇者様」

 ぺこり、と。少年パティはお辞儀した。その様子をしっかりと見届けてから、

「よしっ! 後は。勇者様、私からもお礼を言わせて下さい。息子に付き合って頂いて本当にありがとうございました。もしよろしければ、食事を召し上がっていってください。お口に合えばいいんですけど……」

「うんっ! 一緒に食べようよ! お母さん料理上手だから」

「……?」

「……です……」

「ーーよろしい。さあ勇者様ぜひぜひ!」

 パティが手を引いて家の中へ案内してくれるのだが、

「いえ……しかし。急に押しかけて食事までご馳走になるわけには……」

 と、

 ぐぎゅゅゅゅゅゅうぅぅぅぅ……。

 腹の虫が大きく鳴いた。

「ははは! ほらっ! 身体は正直だよ!」

「さあさあ! そこに座ってください!」

 俺はパティの家へと入りテーブルに着いた。   

 ふと目に入った窓の外にはベネツィの夜があって、部屋では美味しそうな料理が香った。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

レベルアップは異世界がおすすめ!

まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。 そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。

処理中です...