繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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エピソード・オブ・お嬢ちゃん

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「ーーーーんおい! 兄ちゃん! しっかりしろ! いったいどうしたってんだ! おい!」

「ーーーーっはぁ、はぁ、はぁ」

 俺を力強く呼ぶ声に反応するように、肺いっぱいに酸素を供給する。

 だんだんと意識が覚醒していく。

 両の肩が激しく前後に振られ首がワンテンポ遅れて肩を追従する。

 首の内部からボリッと生々しい音と振動が伝わってきた。

「痛っ。あ……あれ……?」

 俺の視界は前後左右に振られて天井に吊るされたランプが8つくらいに分身している。

「おぅ、気がついたか兄ちゃん。いったいどうしたってんだよ」

 ドイルさんは両肩の揺さぶりを止めて言う。

「大丈夫ですか? タケルさん?」

 その声にちらりと視線をアリシアの方へと向ける。

「あっ……」

 意識が再び途切れる。

「だから兄ちゃん! どうした! 何が始まったんだこれぁ! おいボウズ! この兄ちゃんはいったいどうしちまったんだ!」

「いやぁ……僕もちょっと、分からないかな……」

「あ……ああ……首が……痛い……」

「お、気が付いたか。兄ちゃん」

 これは……なんて事だ。

 見ちゃダメだ。アリシアを見てはダメだ。アリシアを見たら気を失ってしまう。

 というか、思い出すだけでもかなり危険だ。

 ベネツィ武具屋でアルバイトをしているカトレアちゃんが息を呑む容姿だとするならば、

 アリシアは……。

 息を止める容姿だ。

 バカげてる、あまりに美しい容姿を見ただけで息が、意識が途絶えるだなんてあり得るものか。

 数分前の俺ならば間違いなくそう言っていたに違いない。

 だが、しかし。

 今ならば。アリシアの素顔を見た今ならば、事実それを体験してしまった今となっては信じざるを得ない。

 これがエルフと言うものか。エルフと言うものはこれほどまでに美しいものなのか。

 見た目としては人間と対して変わらないのだけれど、それでもどこか特徴をあげるとするならば、やはり金色の瞳だろうか。瞳の色は世界各地で変わってくるもので、黒や青や赤や茶色が主流なのだが、未だかつて金色の瞳は見たことがない。

 瞳の色が違うだけでこんなにも神々しく、神秘的であるものなのか。

 そもそも金色の瞳がエルフの特徴と決まったわけではないのだけれどな。突然変異とか何かでそうなっているのかも知れないし。

 その他で特徴をあげるとするならばやや尖った耳くらいか。

 それ以外は、至って普通の見た目なので町の中に紛れてしまったら見つけ出す事は困難だろう。

 しっかし。しっかしだ。

 ドストライク過ぎるだろうアリシア。

 俺の頭の中に存在する理想の女性像を忠実に、というか理想を遥かに超えたビジュアルとして目の前に降臨され奉り申し上げ存在せしめていらっしゃるでござろうです?。

 エルフ族の容姿が皆してこんな感じだったら、とんでもない事だ。

 そう考えると魅了という能力は、エルフ族の女性がたんに半端ないくらい美人なだけ……とか?

 帰らずの森のゆえんとは、ドイルさんのようにたまたまエルフ族の女性に出会った男達がそのあまりの美貌に心を奪われてしまい、森の中から戻って来ない……とか?

 まさかね。と思うが、事実俺としても今、アリシアの側を離れたくない。

「大丈夫ですか? タケルさん?」

「あ……うん。大丈夫、平気」

 アリシアの問いに視線を逸らして答える。

「どうしたのアニキ? いつも変だけど、いつにも増して変だよ?」

 いつもなら一言多いパティに突っ込むところではあるけれど、今は無理だ。

「あぁ、いやいや。アリシアがあんまり可愛かったからびっくりしただけだよ。ドイルさんが心配になるのも頷けるよ」

 そしてフードで素顔隠すの大正解!

「だろう! まさかここまでワイルドに育つだなんて思っても見なかったぜ! なっはははははは! しかし、魅了の能力はやはりデマだったか、兄ちゃんも冗談言えるくらいだしな。良かった良かった! なっははははは!」

「しかし、本当にアリシアさんは容姿が整った美人さんですね。是非とも僕のお嫁ーーーーじゃなくて、今後も若い男の目に触れさせない方がいいかも知れませんね。絶対モテモテになっちゃいますから」

「ふむ。魅了の能力は無くとも、元がいいからな。結果は同じか」

「また二人して馬鹿な事言って……」

 アリシアは床で寝ていたじろうを抱き抱え頭を優しく撫でている。

 じろうは大きなあくびを一つして、アリシアの顎のラインに鼻先を当てつつ匂いを嗅いでいる。




 羨ましい。と、切実に思った。


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