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ベネツィ大食い列伝
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「む? タケル。また会ったな」
デュークの再びの登場にアリシアは数歩後ろに下がって俺の背後に隠れるようにする。
俺は自然と左手を出してアリシアを背後に誘導し、庇うようにしてその存在を隠す。
「あれ? デューク。宿屋に戻ったんじゃないの?」
「ああ。今、戻っている最中だ」
最中だ、って……。
さっき楽しく談笑した場所からほとんど移動していないのだが……。
「そういうタケルはどうしたのだ? 待っていた仲間は……どうやら無事に戻ってきたようだな。ほう、美しい娘だ」
俺の背後を覗き込むようにしてデュークは言う。
息が止まらないところをみると、魔法は俺以外にもちゃんと効果を発揮しているようである。
と、
「タケルさん……あの方は?」
俺の左後方、肩越しからアリシアが上目遣いで問いかける。
その仕草と状況にまたもやられそうになるが、何とか持ちこたえる。
ミエザリストの効果は仕草や状況には効果がないのだ。
「あの人の名前はデューク。俺と同じく旅をしている人だよ。とても愉快な人だからそんなに警戒はしなくていいよ」
デューク……さん。と、アリシアはぽつりと呟いた。
「あの……私の名前はアリシアです。この森の、ハーフエルフの、父が木こりをやってるんです。それで、その、よろしくお願いします」
「うむ。よろしく頼むアリシア」
可愛らしい自己紹介中に起きたとんでもない事故に、俺はアリシアの方をとっさに振り返りアリシアを見つめる。
「えっ?」
アリシアは何の事だかわからない様子で小首を傾げて俺を見る。
可愛いじゃねぇかーーーーじゃない。
ダメじゃねぇか。何さらっと自分がハーフエルフである事を暴露してんの? ついさっきそう言うのはダメだって話したばかりなのに。
やはりドイルさんに似て隠し事ができないと言うか、本音がつい口をついて出てしまうのだろうか?
しかし、言った相手がデュークで良かった。たぶんデュークは聞くには聞いたが、その言葉の意味や重要性に全く気付いていない。
なので、小声でアリシアに注意を促す。
「言っちゃダメな事言ってるよ……」
そんな俺の言葉を聞いたアリシアは少し考えたのちやっと自身の犯したミスを理解し上体をビクつかせ、かなり狼狽ぎみに言う。
「ハ……ハーフエルフだなんて嘘だもんーーーー」
「ーーーーお前もう黙れぇぇぇ!」
「ひぃっ!」
アリシアの発言をかき消そうと被せ気味に放った俺の言葉にアリシアは驚き、目にうっすらと涙を浮かべる。
なぜわざわざそのワードを強調する……。
「あっ……いや……えっとあの、その……」
アリシアは両手を胸の前で慌ただしく小刻みに動かしながら、何とか取り繕うべく言葉を探しているようだ。
考えてみればそれもそうか。今まで他人との接点を持たなかったアリシアなのだ。他人とまともに会話をするのも慣れていない身で自己紹介などと言う自身の素性を語る場面では、素直にそして純粋に自身の個人情報を提示してしまっても仕方のない事なのである。
だからさっきの発言は見方によっては、アリシアの素直な真っ直ぐさがありありと現れた結果だと言えるのである。
俺は踵を返してアリシアの両肩に手を置いて、
「落ち着け、落ち着け。よく考えてから喋るんだ。そしてとりあえず自己紹介は済んだんだから、これ以上無理に喋る必要はない。黙ってても変じゃない」
「は……い……」
アリシアはうつむいて少し気を落としたように言う。
そんなアリシアを見ているとなおさら愛くるしく思えてきて、
「大丈夫、大丈夫。少しづつ慣れていこう?」
と、頭を優しく撫でて言う。
真っ赤に染まったアリシアの尖り気味な耳を見てから、デュークの方へと振り返り質問に答える。
「俺達はとりあえずベネツィの宿屋に戻って朝を待つつもりだよ」
「ふむ。そうか……」
そう言って、デュークは顎に手を当てて難しい顔をしながら何やら考えている。
そんなデュークの立ち姿はアリシアの目にはすごいスケールのデカイ物事を考えている風に見えるんだろうけれど、デュークの事をよく知る俺の目には実際は大した事を考えているわけではないと分かってしまう。
もしかしたら、何も考えていない可能性も十分にある。
デューク君はそんなお方なのだ。
「実は私もベネツィの宿に戻る途中なのだ」
「うん……。それはさっき君から聞いた」
「そうか……」
「…………」
「しかし夜の森というのは方向感覚を奪われてしまっていかんな」
あぁ、なるほど。そういう事。
「タケル達も迷子にならぬよう気をつけるんだぞ?」
「俺達は大丈夫だよ。道、ちゃんと覚えているから」
本当はこの森を知り尽くしているアリシアの案内によるものだけど。
「ほう。ならば本当に町に戻れるのかどうか、私が見届けてやろう。万が一、記憶違いをしていてはいけないからな。はははは! 大丈夫だ。殿は私に任せろ」
「町まで案内して下さいって、素直に言えやこらぁぁぁ!」
「では、行くぞ」
「聞けぇぇぇ!」
デュークの再びの登場にアリシアは数歩後ろに下がって俺の背後に隠れるようにする。
俺は自然と左手を出してアリシアを背後に誘導し、庇うようにしてその存在を隠す。
「あれ? デューク。宿屋に戻ったんじゃないの?」
「ああ。今、戻っている最中だ」
最中だ、って……。
さっき楽しく談笑した場所からほとんど移動していないのだが……。
「そういうタケルはどうしたのだ? 待っていた仲間は……どうやら無事に戻ってきたようだな。ほう、美しい娘だ」
俺の背後を覗き込むようにしてデュークは言う。
息が止まらないところをみると、魔法は俺以外にもちゃんと効果を発揮しているようである。
と、
「タケルさん……あの方は?」
俺の左後方、肩越しからアリシアが上目遣いで問いかける。
その仕草と状況にまたもやられそうになるが、何とか持ちこたえる。
ミエザリストの効果は仕草や状況には効果がないのだ。
「あの人の名前はデューク。俺と同じく旅をしている人だよ。とても愉快な人だからそんなに警戒はしなくていいよ」
デューク……さん。と、アリシアはぽつりと呟いた。
「あの……私の名前はアリシアです。この森の、ハーフエルフの、父が木こりをやってるんです。それで、その、よろしくお願いします」
「うむ。よろしく頼むアリシア」
可愛らしい自己紹介中に起きたとんでもない事故に、俺はアリシアの方をとっさに振り返りアリシアを見つめる。
「えっ?」
アリシアは何の事だかわからない様子で小首を傾げて俺を見る。
可愛いじゃねぇかーーーーじゃない。
ダメじゃねぇか。何さらっと自分がハーフエルフである事を暴露してんの? ついさっきそう言うのはダメだって話したばかりなのに。
やはりドイルさんに似て隠し事ができないと言うか、本音がつい口をついて出てしまうのだろうか?
しかし、言った相手がデュークで良かった。たぶんデュークは聞くには聞いたが、その言葉の意味や重要性に全く気付いていない。
なので、小声でアリシアに注意を促す。
「言っちゃダメな事言ってるよ……」
そんな俺の言葉を聞いたアリシアは少し考えたのちやっと自身の犯したミスを理解し上体をビクつかせ、かなり狼狽ぎみに言う。
「ハ……ハーフエルフだなんて嘘だもんーーーー」
「ーーーーお前もう黙れぇぇぇ!」
「ひぃっ!」
アリシアの発言をかき消そうと被せ気味に放った俺の言葉にアリシアは驚き、目にうっすらと涙を浮かべる。
なぜわざわざそのワードを強調する……。
「あっ……いや……えっとあの、その……」
アリシアは両手を胸の前で慌ただしく小刻みに動かしながら、何とか取り繕うべく言葉を探しているようだ。
考えてみればそれもそうか。今まで他人との接点を持たなかったアリシアなのだ。他人とまともに会話をするのも慣れていない身で自己紹介などと言う自身の素性を語る場面では、素直にそして純粋に自身の個人情報を提示してしまっても仕方のない事なのである。
だからさっきの発言は見方によっては、アリシアの素直な真っ直ぐさがありありと現れた結果だと言えるのである。
俺は踵を返してアリシアの両肩に手を置いて、
「落ち着け、落ち着け。よく考えてから喋るんだ。そしてとりあえず自己紹介は済んだんだから、これ以上無理に喋る必要はない。黙ってても変じゃない」
「は……い……」
アリシアはうつむいて少し気を落としたように言う。
そんなアリシアを見ているとなおさら愛くるしく思えてきて、
「大丈夫、大丈夫。少しづつ慣れていこう?」
と、頭を優しく撫でて言う。
真っ赤に染まったアリシアの尖り気味な耳を見てから、デュークの方へと振り返り質問に答える。
「俺達はとりあえずベネツィの宿屋に戻って朝を待つつもりだよ」
「ふむ。そうか……」
そう言って、デュークは顎に手を当てて難しい顔をしながら何やら考えている。
そんなデュークの立ち姿はアリシアの目にはすごいスケールのデカイ物事を考えている風に見えるんだろうけれど、デュークの事をよく知る俺の目には実際は大した事を考えているわけではないと分かってしまう。
もしかしたら、何も考えていない可能性も十分にある。
デューク君はそんなお方なのだ。
「実は私もベネツィの宿に戻る途中なのだ」
「うん……。それはさっき君から聞いた」
「そうか……」
「…………」
「しかし夜の森というのは方向感覚を奪われてしまっていかんな」
あぁ、なるほど。そういう事。
「タケル達も迷子にならぬよう気をつけるんだぞ?」
「俺達は大丈夫だよ。道、ちゃんと覚えているから」
本当はこの森を知り尽くしているアリシアの案内によるものだけど。
「ほう。ならば本当に町に戻れるのかどうか、私が見届けてやろう。万が一、記憶違いをしていてはいけないからな。はははは! 大丈夫だ。殿は私に任せろ」
「町まで案内して下さいって、素直に言えやこらぁぁぁ!」
「では、行くぞ」
「聞けぇぇぇ!」
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