繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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ベネツィ大食い列伝

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 デュークの案内でやってきたベネツィの町、その一番外側に位置する三番街。

 深夜の三番街の風景。

 それは昼間とは大きく異なる。昼間が子供達やお年寄りを含めたみんなの町とするならば、深夜の町は若い大人の町である。

 もはや言うまでもないベネツィ名物の大勢の人混みによる流れも、深夜にはその恐ろしいまでの破壊力を失い昼間とは打って変わって優しく穏やかな小川の流れへと変貌を遂げる。

 小川へと姿を変えた事で道の視界は限りなく開けており、四人並んで両手を広げて歩いてもお釣りがくる程である。

 そんな開けた道の片隅にはオレンジ色の暖かな光を放つランプが取り付けられた街灯があって、その下に設置されたベンチでは若いカップルが互いの愛を確かめ合ったり、中年の男性が酒瓶片手にうなだれていたりする。

 少し視線を動かしてみると道で大の字になって眠る男性や、四つん這いで植え込みに頭を突っ込み苦しそうなうめき声をあげる人影があったりする。

 そんな子供達には決して見せられないダメな大人のダメな姿があちこちに点在し拡散している。

 だが、深夜の町にはダメな大人のダメな姿ばかりではない。

 軽装備に身を包んだ護衛騎士団が二人一組となって巡回しており、町の安全を守るため日々パトロールをしている。

 また、護衛騎士団が身につけている武具はあくまで自信の身を護るためのものであり、人々に向けられるものではない。と言うのも、酔った人々を解放している際、突如として激昂し襲いかかってくる事が間々あるのである。そういった際に振るわれた酒瓶や枝などを鞘を纏った刀剣で受け止め、いなす。そうやって、ほんの少し立ち合えば酔っ払いは目を回して四つん這いで植え込みに頭を突っ込み、様々な後悔や反省の念がこもったモノを嘔吐するのである。

 なので、護衛騎士団のパトロールは基本酔っ払いの介抱が主である。

 立派な大人が、ダメな大人をサポートするのである。

 なのでプラスマイナス、ゼロなのである。

 たぶん。

 と、

「どうしたの? アリシア。おじさん達をボーッと見つめて」

「え? ああ、いえ、何だかお父さんを見ているみたいで……」

「あっははは……ドイルさんもあんな感じなんだね……」

 確かにお酒が好きだとか言っていたな。

 していると、護衛騎士団がこちらに気付き近寄ってきた。

「こんばんは。こんな遅くにどうしました?」

 話しかけてきた細身の男。見覚えのある顔である。

 記憶を辿り男の正体を探る。

「ーーーー護衛騎士団、副団長。デイルさん?」

「おや? 貴方は確か……団長の所の、パティ君の師匠の勇者様? お初にお目にかかります。しかしいったいどうして私の事をご存知で?」

「武道大会の実況があまりに見事だったので……」

「これはこれはお恥ずかしい。その言葉有り難く頂きます。しかし、いったいどうなされました? お困りですか?」

「えぇ。パティを連れて帰らずの森で修行してたら迷子になっちゃって、それでついさっき帰って来たばかりなんです」

「何と、そうでありましたか。優勝特典の一日団長を辞退して更に自身の技を磨くために修行に励むとは……これは本当に将来が楽しみであり怖くもある。同じ騎士道を歩む者として負けてはいられませんな。近いうちに是非お手合わせ願いたいものです。それで……今からお帰りで?」

「えぇ。ですが当初はこんなにも遅くなる予定じゃなかったので、まだ宿をとってなかったんです」

「それならば、私にお任せください! 知人が宿屋を営んでおりますゆえ、多少の融通なら利く筈ですので!」

「いやしかし……お仕事の邪魔をする訳には……」

「すぐそこですので、ひとっ走り行ってきます!」

 副団長デイルさんはそう言い残して走り去ってしまった。

「なぁおい、お前。私の宿屋を知らないか? 仲間のシドが私を待っている筈なのだが……」

「いや……貴方がどこの宿をとってらしたのかは、自分は分かりかねますが……」

「受付は爺さんがやってる宿屋だ。受付の近くには椅子とテーブルもある」

「そ……その情報だけでは、さすがに自分としても判別出来かねますが……」

「貴様、何も知らないのだな……」

 と、デュークは一人残された護衛騎士団の一員に無茶な質問を投げかけては困らせている。

 その時、不思議な感覚に襲われた。

 今までずっと引っ張ってきたパティの手が、逆に俺の手を引き始めたのだ。








 
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