繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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ベネツィ大食い列伝

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 俺の手を引く少年パティ。

 もちろんパティは未だ寝ているし、頭上のじろうも未だ寝ている。

 うつむき、時折コクンコクンと小さく頷きながらもふらふらとした足取りで俺の手を引いてどこかへ向かうパティ。

「え、ちょ、パティ? 何? どこ行くの?」

 しっかりとした意思が感じられる足取りで一歩一歩進んで行く。アリシアもそれに黙ってついてきている。

「あ……あの。デイルさん……副団長が戻ったら伝えて下さい。すぐに戻りますって」

「あ、はい。あの……勇者様はどちらへ?」

「僕にも分かりません!」

 パティに手を引かれ後ろを振り返ると、左後方のすぐ近くにはアリシア。少し離れたところにデュークが位置して歩いていた。

 今になってようやく殿しんがりを務めてくれる気になったらしい。

 眠ったままのパティのナビゲートはなおも続く。

 パティは三番街の路地に入ると角をいくつか折れて一軒の建物の前でようやく足を止めた。

「ここは?」

「おぉ! ここはもしや!」

 珍しく声に抑揚をつけてデュークはその建物へと入っていく。

 デュークが建物に入ると同時に出てきた人影、ついさっきも見た人影である。

「ん? あれ? 勇者様? なぜここに?」

「デイルさん⁉︎ この子の。パティの謎のナビゲートでここまで来たんですけど、偶然連れの宿屋がどうやらここだったようで……」

「おぉ。そうでありましたか! それは偶然でした。偶然による偶然でした。私の知り合いの宿屋もここでして、今しがた2部屋の空きを確認したところです。お部屋は2部屋の方がよろしいでしょう?」
 
 と、デイルさんはアリシアを覗き込むようにして言う。

 アリシアは咄嗟に俺の後ろに身を隠すようにする。

「ずいぶん可愛らしいお嬢さんですね。お仲間ですか?」

「えぇ。知人からよろしく頼まれた大事な娘さんです」

「そうですか、そうですか。悪い虫がつかないように常に気を配るのも、さぞ大変でしょうがどうぞ尽力なさって下さい。それでは部下が待っておりますゆえ、私はこの辺で失礼します。勇者様、御武運を」

「色々とありがとうございましたデイルさん! お連れの方にもよろしくお伝えください、お身体に気を付けて」

 デイルさんは笑顔で手を振って再び走って、自身を待つ部下の元へと去っていった。

 俺はデイルさんを見送って、カウンターで待つお爺さんに料金を支払い階段を静かに登る。

 宿代はデイルさん割が効果を発揮したのか、朝食付きで一人100Gだった。じろうは無料のようだ。

 部屋の扉の前でアリシアに『おやすみ』と、一声掛けて部屋に入りパティとじろうをベッドの側に誘導するなり、二人は待ってましたと言わんばかりにベッドに飛び込み激しくイビキをかき始めた。

「本当は起きてたんじゃねぇのか……?」

 俺もベッドに腰かけて両手を上げて伸びをして、窓の外の景色に視線を送る。

 いつの間にか外は明るくなり始めていて、隣の建物の屋根の上では小鳥が数羽仲良くじゃれ合うように飛んでいる。

 冬の気配が感じられる朝日の中、俺は毛布に包まり目を閉じた。

 意識は一瞬のうちに微睡みの中へと誘われた。




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