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呪われの旅仕度編
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しおりを挟む闇を思わせるような漆黒の鞘、そこからまるで血を染み込ませたような生々しい鮮やかな赤のグリップが伸びている。
剣全体を見るに禍々しい印象を受けるのだが、実際に手に取ってみると剣からは不思議とそんな悪意のようなものは伝わってこなかった。
今まで数回、剣の作製を頼んだがこんな剣を渡された事は確か無かった筈だが……。
「この剣は?」
「あぁ、アンタの木刀をヒントに今回作った物でな。俺が大事に保管していたミストルティンという名の木で作った剣だ」
「ほぅ……ミストルティンの木……」
別段、樹木に詳しいわけではないのだけれど、初めて聞く名前の木だな。
「そんな大事な剣をどうしてまた俺に?」
俺の言葉に男は腕組みしながら自信満々に、
「分からん!」
分からんって……。
「はっはっはっ! そう困ったような顔をするな。本当に俺にもよく分からんのだ。アンタに頼まれた刀を作ってる最中にな、なんというか……剣の設計図というか……完成した姿が頭に浮かんできて、どうしても作らなきゃいけないって思ったんだ」
「…………」
「で、完成した後こいつがアンタの刀から離れたがらないからよ。まぁ、当然俺の気のせいかもしれないが何となく武器の声……みたいなもんが聞こえるっていうか、伝わるっていうかよ。一緒に連れていってくれねえか?」
「ふぅむ、武器の想いね。分かった、そういう事なら連れていこう」
「助かる。ありがとうよ!」
「パティ、アリシア」
俺は後ろで待っている二人に手招きして、テーブルに横たわる武器を手に取り二人に手渡す。
細身の剣をパティに、杖をアリシアに手渡した。
「これを僕に? すごい、本物の剣だ! すごい、すごいぞ! そして軽い!」
「なに……これ……。頭の中に何か流れ込んで来る……これは知識?」
二人も武器の持つただならぬ存在感、潜在能力に気付いたようだ。その様子を見て男は安心したように言う。
「二人も武器に気に入られたようだな、武器が喜んでやがる。強力な武器は気難しい奴が多いから心配だったが安心したよ。相棒だと思って仲良くしてやってくれ」
「ああ! こちらこそ宜しくな!《星屑の正義剣》!」
「よろしくね!《星降る英知の杖》!」
「ぬっ……?」
いったいどうした? まるで武器と会話でもしているように……。
なんだか二人の様子が変だぞ……。
まあ、パティはステータスにも表示されている通り、厨二病らしいからああいうのも至って普通なのかもしれないけれど、アリシアはどう考えても変だろう。どうやったら《星降る英知の杖》にヒステリックロッドというルビが振られるのだろう。
「あはは! やめろよ、くすぐったいだろ。やめろって!《星屑の正義剣》あははは!」
「きゃっ! そんな所入らないの、さっ出ておいで《星降る英知の杖》ほらっ! 怖くない、怖くない」
「違う!《銀河を統べる悪蛇神》と《冥王星の見聞録》だあああ!」
「お前もいったいどうした……」
目の前の凄惨な状況が上手く伝わらないかもしれないけれど、武器をまるで恋人のように、あるいはペットのように、はたまた自分自身のように語りかけ、抱きしめ、口づけし、寝転がり、泣いたり、嘆いたり、喧嘩したり、二人はそれはそれは色濃い青春という言葉では決して表現出来ないような濃厚で濃密なヒューマンドラマを繰り広げていた。
渋春……というのだろうか?
俺は男の肩揺らしながら詰め寄る。
「……おい、正気に戻れ。あの武器呪われてないか? あれ完全に精神取り込まれてるよね? あれ」
「ーーーーうっ、いや……そんな筈は……おかしいな。ちょっと待て、説明書見てみる」
……何だよ説明書って、お前が作ったんだろ。
「えー……これだ!『この武器は大変強力なので取り扱いに十分注意して下さい。もしお肌に合わない時はレベルを少し上げてから再度試して下さい。お肌に異常がある時は、あぶないので近付かないで下さい』だそうだ!」
お肌に合わないって……。
「要するに二人のレベルがまだ低いから、武器に振り回されてるって感じなのか?」
「ああ……恐らく。どうする? 消費者センターに連絡しとくか?」
「ーーーーっ!」
不覚にもちょっと笑わされてしまった。
やるな、こいつ。
俺は消費者センターに連絡した場合の事が、気になって気になって仕方がなかったがパティとアリシアの変貌ぶりがとてもないが放っておけるものではなかったので、呪いを解くため急ぎ教会へと向かう事にした。
「ーーーーあの。ありがとう、って素直に言える状況じゃないけど、ありがとう。今度改めてお礼しに来るよ」
俺はかなり陽気になったパティとアリシアの手を引いて大通りに出た。
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