辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第2章 冒険者編 ~シャルモンの街~

閑話 アドリアンに手紙が届きました

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 食堂ーーと言っても、側から見ればカフェテラスのような作りだがーーの隅にある一角で、耳を澄ますとクスッと笑う声が聞こえる。
周りにいる女性たちは、チラチラとその一角を盗み見ていた。


「どうかなさいましたか?」

 光を浴びてキラキラと輝いているように見えるのは、僕の従者の一人である。
金色の髪に青い瞳、凛とした佇まい。
うん、正直僕より貴族が合っている気がするのは気にしない。
彼はルネ。ロカール男爵家の三男だ。訳あって今は僕の従者として行動している。

「ああ、母上からの手紙だよ。少し面白くてね」
「そんな面白いことあるのかよ。アドの家は貴族様だろう?」
「ロドリグ!流石にその言葉遣いは‥‥」
「いいっていいって。ロドに、アドさー‥‥‥ま、とか慌てながら言われる方が笑っちゃうって」
「ですが‥‥」

 笑う僕には叶わないのだろう、分かりましたと答えてくれる。ルネは本当に素直だな。
 ロドリグーー愛称はロドは現在の冒険者のパーティーメンバー。ロランと別れた後、帝都の学園に入る前くらいから一緒にパーティーを組んでいる。彼はやりたいことがあると言って、この学園に通っている。
昔、やりたいことって何?と聞いたけれど、教えてもらえなかったんだよね。


「ちなみに、何が書かれてたんだよ?」
「ちょっ、そこまで聞きますか?!貴方は!!」
「ルネ、いいよいいよ。はい、手紙」
「アド様も‥‥いいえ、何でもございません」

 ロドは僕から手紙を受け取ると、口角を少し上げながら読み始めた。
ルネも色々文句を言いながらも、チラチラと手紙の方を見ている。

「お前さー、読みたいならアドに言えばいいじゃんか」
「なっ!!!そんなこと‥‥」
「ルネも読んでいいよ。近況報告だけだし、君らなら問題ないでしょ」

 もちろん、何かあった時用に防音魔法を掛けているから問題なし。
食堂では、人や物に危害を加える魔法でなければ魔法使用を認められている。
何か言いたそうなルネだったが、諦めたようでロドと共に手紙を読み始めた。
 そして僕が笑ったところまで来たのだろう、ロドが顔を上げた。
ちなみにルネは手紙から目を離していない。結局読みたかったんだね。

「このさ、父さんが暴れたから止めたって‥‥?お前の父さん暴れるの?」

 手紙に指を指しながら、首を傾げるロド。
まあ、普通は母親が父親を止めるなんてありえないよね。貴族なら。

「暴れるよ?ただ、セリーヌ関係だけね。多分今回は、セリーヌが居なくなるのが嫌だから、暴れたんじゃないかな?」
「お前の父さん、どんだけ子供離れできてないの?」
「ほんとだよねー」

 ははは、と笑う僕を見て顔が引きつっているロド。
うーん、もし彼がうちの執事だったら、もう命がいくつあっても足りないね。
驚いて倒れそう。なんとなくだけど見習い執事のヴァレリーと似ている気がする。

「ち、ちなみに私も質問しても宜しいですか‥‥?」

 ルネは階級意識が強くて真面目過ぎる気がする。
彼らは足して2で割ったらちょうど良さそう。
 どうぞ、と声を掛けると、ぱあっと笑顔になる。
あ、ルネの笑顔を見た横のテーブルの令嬢が倒れたみたい。彼の笑顔は女性殺しだね。

「あの、奥様はどのように辺境伯様をお止めなるのでしょうか」

 あー、確かに。そう思うよね。

「母上は、父上の口にハンカチを入れて喋れないようにした後、簀巻きにするか、身体拘束魔法を使うね。ちなみに簀巻きは屋敷の中の場合。身体拘束魔法は屋敷以外の場所の場合だね。その後、見下ろして威圧を掛けるはず」
「「い、威圧‥‥?」」

 お、言葉が揃った。なんだかんだ正反対に見えて仲良いよね、君たち。

「うん、母上の威圧は10段階あって‥‥あ、今回は父上が怯えてたらしいから、7段階か8段階くらいの威圧をかけたんじゃないかな?」
「ちょ、ちょっと待てって。まず父さんを簀巻きにする‥‥いやいや、威圧をかけるって大丈夫なのか?むしろ威圧って段階とかあるのか!?」

 なんかロドが焦っているみたい。

「大丈夫大丈夫。父上は大体5段階威圧までは光悦な表情で母上を見るし。10段階威圧でも問題ないんじゃないかな?僕は見たことないけど。母上は魔法操作が得意だから、細かく分けられるみたいだよ」

 あんなことあったな、なんて過去を思い出しながら喋っているのだけれども、よく見ると二人の顔色が悪い。
じとー、とした目でロドがこちらを見てくる。何だろう、何か顔についてるかな。

「むしろ、アドは母さんの威圧に耐えられるのか‥‥?」

 あ、そっち?

「うーん、僕自身が威圧を受けたことがないから何とも言えないけど‥‥父さんに向かっている威圧は全然大丈夫だよ」

 と答えると、ルネの顔が引きつった。

「そ、そうですか‥‥申し訳ございません、座らせて頂いても宜しいですか?」
「いいよルネ。顔色悪いし座りなよ」
「とんでもねえな‥‥全く」

 あ、ちょっと怖がらせちゃったかもしれないね。

 まあ、これでセリーヌも無事旅に出たみたいだね。
うーん、少し非常識な部分があるから心配なんだけどなー

「「いや、お前(貴方様)も、充分非常識だろ(でございます)!!」」

 ん?

「あれ?声に出てた?」
「もうバッチリ出てた」
「そっか」

 あはは、やっちゃった。

 でも僕も非常識って、酷いなぁ。僕はまともな部類だと思うんだけどな。

「「断じて違います(違う)!!」

 何で二人ともそう否定するのかな、ちょっと僕悲しいよ。
あ、母上から追記がある。んー、なになに。

 あ、ロランとセリーヌから手紙を送るように伝えたって?
やったね!二人からの手紙楽しみだな~!
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