16 / 187
2章 ちょこまかする王子
5
しおりを挟む
昨日、文句を言いつつも内容確認後にサインをし、親父から預かったランバラルド王国の印章を押した。
そして、今日、再度コンラッドの髪を染め、ボナール国の王城へと4人を向かわせた。
昨日行かなかったオレは、今日も町を歩き回る。
市場へも足を運んだが、ボナール王国は農作物だけでなく、漁業も盛んだ。
新鮮な魚や貝が所狭しと店先に並んでいる。
「お兄さん、今日は貝がお勧めよ。買って帰ったら、奥さん喜ぶから」
魚屋のおばさんがオレに声をかける。
「おばさん、オレ結婚してるように見える?」
「あらやだ。疲れた顔してるから、所帯持ちかと思ったのよ。独身なら尚更、美味しい貝を買って行きなよ。この貝は滋養強壮に効果があるのよ。疲れも一気に吹っ飛ぶわ」
豪快に笑うおばさんに「また今度」と常套句を呟き、その場を後にした。
町は賑わい、まだ敗戦を知らない。
今日、調印が終わったら国王から国民に知らせる予定だ。
オレ達は、すぐにランバラルドに帰国して、すれ違うように捕虜達をボナール王国に帰すことになっている。
市場も、活気はあるが、女性が多く目につく。
男手は多かれ少なかれ、戦争に行っているのだろう。
さっきの魚屋のおばさんだって、もしかしたら旦那さんが戦地に行っているのかもしれない。
あっちの果物屋の娘は、まだ10歳にも満たないだろうに、立派に店番をしている。
みんな、調印が終わったら帰ってくるといいな。
なるべく多くの人が、生き残って帰ってきたらいい。
捕虜は怪我をしていればきちんと手当てし、病気の者がいれば、医者にかからせた。
なるべく、多くの人を家族の元に返したい。
オレが小さい頃、ランバラルドは東の国と戦争をしていた。
あの時は世界的に食料飢饉だったと聞いている。
その為の戦争だった。
大臣を務めていた叔父は、その戦争で第一部隊の指揮官をも務めることとなった。
オレを王太子としてではなく、ただの甥っ子として扱ってくれて、悪いことをすれば当然のようにパンツをおろしておしりを叩かれた。
怒る時は怒る、可愛がる時は思いっきり可愛がる。
そんな叔父がオレは大好きだったが、凶弾に倒れ、あっけなく死んでしまった。
だからオレは、戦争なんて大っ嫌いだ…!
午後、早めの時間帯にディリオン達は宿へと帰ってきた。
オレも昼過ぎには宿屋に戻って、帰国の準備を始めていた。
「コンラッド、ディリオン、フレッド、ジェイミー、ご苦労であった。ボナール王の様子はどうだった?」
コンラッドが不機嫌に答える。
「賠償金が半分になったから、こちらの気が変わらないうちとばかりにすぐにサインをしたさ。娘と引き換えの内容なのにな。オレとジェイミーはまた風呂に行ってくる。戻ったらすぐにここを出よう。早く我が国に帰りたい」
よっぽど王の対応が胸糞悪かったのだろう。
ジェイミーを連れ立って部屋を出て行った。
「第二王女ちゃんは泣き崩れてたな」
「…そうか」
フレッドはやるせない目でオレを見るが、オレにできることはない。
ディリオンの方は淡々と帰り支度をしながら話す。
「あの王、オレ達と一緒に王女を連れて行けと言っていたぞ。オレ達はそれぞれ馬で来ていて王女を乗せての旅は無理だからな。断ったが、馬車を用意する費用も惜しいらしい」
今まで可愛がっていたはずだろうに。
他国のものになった瞬間、手のひらを返すとは。どこまで腐った王なんだ。
「王子、人質としてランバラルドに来るんだから、大事にしてやんなよ」
フレッドが、そう言うのもわかるが…。
「昨日も言ったろ。オレは第二王女には会わん」
「は?側室として嫁いで来るんだぞ」
「形だけのことで、実質人質だ。ディリオンも言ったではないか。会って優しくしたところで、下手に期待されても困る」
「王子、オレは第二王女ちゃんの悲しそうな青い目が忘れられない。会わなくても待遇だけは良いものにしてやれよ」
話は終わりとばかりに、フレッドもオレから目を逸らし、帰国の準備を始めた。
オレの初めての王太子としての仕事は、後味の苦いものとなった。
そして、今日、再度コンラッドの髪を染め、ボナール国の王城へと4人を向かわせた。
昨日行かなかったオレは、今日も町を歩き回る。
市場へも足を運んだが、ボナール王国は農作物だけでなく、漁業も盛んだ。
新鮮な魚や貝が所狭しと店先に並んでいる。
「お兄さん、今日は貝がお勧めよ。買って帰ったら、奥さん喜ぶから」
魚屋のおばさんがオレに声をかける。
「おばさん、オレ結婚してるように見える?」
「あらやだ。疲れた顔してるから、所帯持ちかと思ったのよ。独身なら尚更、美味しい貝を買って行きなよ。この貝は滋養強壮に効果があるのよ。疲れも一気に吹っ飛ぶわ」
豪快に笑うおばさんに「また今度」と常套句を呟き、その場を後にした。
町は賑わい、まだ敗戦を知らない。
今日、調印が終わったら国王から国民に知らせる予定だ。
オレ達は、すぐにランバラルドに帰国して、すれ違うように捕虜達をボナール王国に帰すことになっている。
市場も、活気はあるが、女性が多く目につく。
男手は多かれ少なかれ、戦争に行っているのだろう。
さっきの魚屋のおばさんだって、もしかしたら旦那さんが戦地に行っているのかもしれない。
あっちの果物屋の娘は、まだ10歳にも満たないだろうに、立派に店番をしている。
みんな、調印が終わったら帰ってくるといいな。
なるべく多くの人が、生き残って帰ってきたらいい。
捕虜は怪我をしていればきちんと手当てし、病気の者がいれば、医者にかからせた。
なるべく、多くの人を家族の元に返したい。
オレが小さい頃、ランバラルドは東の国と戦争をしていた。
あの時は世界的に食料飢饉だったと聞いている。
その為の戦争だった。
大臣を務めていた叔父は、その戦争で第一部隊の指揮官をも務めることとなった。
オレを王太子としてではなく、ただの甥っ子として扱ってくれて、悪いことをすれば当然のようにパンツをおろしておしりを叩かれた。
怒る時は怒る、可愛がる時は思いっきり可愛がる。
そんな叔父がオレは大好きだったが、凶弾に倒れ、あっけなく死んでしまった。
だからオレは、戦争なんて大っ嫌いだ…!
午後、早めの時間帯にディリオン達は宿へと帰ってきた。
オレも昼過ぎには宿屋に戻って、帰国の準備を始めていた。
「コンラッド、ディリオン、フレッド、ジェイミー、ご苦労であった。ボナール王の様子はどうだった?」
コンラッドが不機嫌に答える。
「賠償金が半分になったから、こちらの気が変わらないうちとばかりにすぐにサインをしたさ。娘と引き換えの内容なのにな。オレとジェイミーはまた風呂に行ってくる。戻ったらすぐにここを出よう。早く我が国に帰りたい」
よっぽど王の対応が胸糞悪かったのだろう。
ジェイミーを連れ立って部屋を出て行った。
「第二王女ちゃんは泣き崩れてたな」
「…そうか」
フレッドはやるせない目でオレを見るが、オレにできることはない。
ディリオンの方は淡々と帰り支度をしながら話す。
「あの王、オレ達と一緒に王女を連れて行けと言っていたぞ。オレ達はそれぞれ馬で来ていて王女を乗せての旅は無理だからな。断ったが、馬車を用意する費用も惜しいらしい」
今まで可愛がっていたはずだろうに。
他国のものになった瞬間、手のひらを返すとは。どこまで腐った王なんだ。
「王子、人質としてランバラルドに来るんだから、大事にしてやんなよ」
フレッドが、そう言うのもわかるが…。
「昨日も言ったろ。オレは第二王女には会わん」
「は?側室として嫁いで来るんだぞ」
「形だけのことで、実質人質だ。ディリオンも言ったではないか。会って優しくしたところで、下手に期待されても困る」
「王子、オレは第二王女ちゃんの悲しそうな青い目が忘れられない。会わなくても待遇だけは良いものにしてやれよ」
話は終わりとばかりに、フレッドもオレから目を逸らし、帰国の準備を始めた。
オレの初めての王太子としての仕事は、後味の苦いものとなった。
23
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
死を望まれた王女は敵国で白い結婚を望む。「ご安心ください、私もあなたを愛するつもりはありません」
千紫万紅
恋愛
次期女王として王位継承が内定していたフランツェスカ。
だが戦況の悪化を理由に父王に争いの最前線に送られた。
それから一年、命からがら王都へ戻った彼女を待っていたのは労いの言葉ではなく、敵国・シュヴァルツヴァルトの王太子への輿入れ命令。
しかも父王は病弱な異母妹アリーシアを王妃に据え、フランツェスカの婚約者レナードを王にするという。
怒りと絶望の中フランツェスカはかつて敵将であったシュヴァルツヴァルト王太子・フリードのもとへお飾りの妻として嫁ぐことを決意する。
戦地での過去を封じ、王族としての最後の務めを果たすために。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
【完結】見返りは、当然求めますわ
楽歩
恋愛
王太子クリストファーが突然告げた言葉に、緊張が走る王太子の私室。
この国では、王太子が10歳の時に婚約者が二人選ばれ、そのうちの一人が正妃に、もう一人が側妃に決められるという時代錯誤の古いしきたりがある。その伝統に従い、10歳の頃から正妃候補として選ばれたエルミーヌとシャルロットは、互いに成長を支え合いながらも、その座を争ってきた。しかしーー
「私の正妃は、アンナに決めたんだ。だから、これからは君たちに側妃の座を争ってほしい」
微笑ながら見つめ合う王太子と子爵令嬢。
正妃が正式に決定される半年を前に、二人の努力が無視されるかのようなその言葉に、驚きと戸惑いが広がる。
※誤字脱字、勉強不足、名前間違い、ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる