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3章 旅立ち
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苦言を呈した兄王様を邪魔に思った弟様の仕業だとか、弟様にお金を貸して甘い蜜を吸っている者の仕業だとか、いろいろな憶測が飛びましたが、未だに真相は分かっていません。
兄王様がご逝去されたことは公表されませんでした。
まだ、スペアがいたからです。
弟様は、何食わぬ顔をして、王座につきました。
お妃様は、その時のショックで、産月よりも一月早く、シャーロット様をお産みになられました。
あの日のことは忘れられません。
夜更にお生まれになったシャーロット様を祝福するように、朝焼けの中、七つもの虹がこの国の空にかかりました。
それはそれは、美しく、幻想的な情景でした。
お妃様は、兄王様が生きていらした時に、お二人でお腹の子のお名前を考えていらっしゃったそうです。
男の子だったら、フェリス、女の子だったらシャーロットと。
兄王様の残されたたった一人のお嬢様を、お妃様は愛しげに抱きしめました。
弟王様は、ご自分の子として、国民に王女様がお生まれになったことを公表しました。
御子様の御名前はセリーヌ様と、発表されたのです。
産後、お体の弱ったお妃様は、それまで弟様がお暮らしだった離宮へと追いやられました。
姫様も取り上げられそうになりましたが、お妃様が片時も離さず、お守りになられました。
国民が姫様をセリーヌ様とお呼びになる声を、お妃様がどんな気持ちでお聞きになっていたのかと思うと、いまでも胸が潰れるようです。
もちろん、離宮では本当のお名前である、シャーロット様とお呼びしておりましたが。
運命のいたずらか、弟王様の奸計か、
シャーロット様がお生まれになってすぐ、弟王様の奥様がご懐妊されました。
このままでは、奥様は表舞台に立つことができません。
弟王様の手の者か、奥様の手の者かはわかりませんが、離宮に火が放たれたのです。
その時、離宮には少数の侍女がいただけでした。
数カ所から放たれた火は瞬く間に燃え広がり、手のつけられない状況でした。
満足に歩けないお妃様を抱えて逃げるには、女手はあまりにも非力で、私はシャーロット様を抱き、奥様に肩を貸して逃げようとしましたが、このままでは、3人とも逃げ遅れてしまうとお考えになったお妃様は、シャーロット様を私に託し、ご自分は燃え盛る離宮に残ることをお選びになったのです。
「シャーロット、私とコルビー様の愛しい子。愛しているわ」
お妃様は、最後にシャーロット様を抱きしめ、その頬にキスを落とされました。
私はお妃様からシャーロット様を託され、万が一にもお命を守れないことにならないよう、後ろを振り向かずに走りました。
離宮をやっと出られて、後ろを振り返った時に見えたのは、もう、お妃様を助けに戻ることのできないくらい、赤々と燃え広がる炎の海でした。
あの、お優しいお妃様を呑み込んで、炎は燃え続けました。
焼け跡を必死で探しましたが、お妃様は骨ひとつ見つけることができませんでした。
こうして、賢王と謳われた国王様と、賢王様を支えてこられた美しくお優しいお妃様はこの世からお隠れになったのです。
兄王様がご逝去されたことは公表されませんでした。
まだ、スペアがいたからです。
弟様は、何食わぬ顔をして、王座につきました。
お妃様は、その時のショックで、産月よりも一月早く、シャーロット様をお産みになられました。
あの日のことは忘れられません。
夜更にお生まれになったシャーロット様を祝福するように、朝焼けの中、七つもの虹がこの国の空にかかりました。
それはそれは、美しく、幻想的な情景でした。
お妃様は、兄王様が生きていらした時に、お二人でお腹の子のお名前を考えていらっしゃったそうです。
男の子だったら、フェリス、女の子だったらシャーロットと。
兄王様の残されたたった一人のお嬢様を、お妃様は愛しげに抱きしめました。
弟王様は、ご自分の子として、国民に王女様がお生まれになったことを公表しました。
御子様の御名前はセリーヌ様と、発表されたのです。
産後、お体の弱ったお妃様は、それまで弟様がお暮らしだった離宮へと追いやられました。
姫様も取り上げられそうになりましたが、お妃様が片時も離さず、お守りになられました。
国民が姫様をセリーヌ様とお呼びになる声を、お妃様がどんな気持ちでお聞きになっていたのかと思うと、いまでも胸が潰れるようです。
もちろん、離宮では本当のお名前である、シャーロット様とお呼びしておりましたが。
運命のいたずらか、弟王様の奸計か、
シャーロット様がお生まれになってすぐ、弟王様の奥様がご懐妊されました。
このままでは、奥様は表舞台に立つことができません。
弟王様の手の者か、奥様の手の者かはわかりませんが、離宮に火が放たれたのです。
その時、離宮には少数の侍女がいただけでした。
数カ所から放たれた火は瞬く間に燃え広がり、手のつけられない状況でした。
満足に歩けないお妃様を抱えて逃げるには、女手はあまりにも非力で、私はシャーロット様を抱き、奥様に肩を貸して逃げようとしましたが、このままでは、3人とも逃げ遅れてしまうとお考えになったお妃様は、シャーロット様を私に託し、ご自分は燃え盛る離宮に残ることをお選びになったのです。
「シャーロット、私とコルビー様の愛しい子。愛しているわ」
お妃様は、最後にシャーロット様を抱きしめ、その頬にキスを落とされました。
私はお妃様からシャーロット様を託され、万が一にもお命を守れないことにならないよう、後ろを振り向かずに走りました。
離宮をやっと出られて、後ろを振り返った時に見えたのは、もう、お妃様を助けに戻ることのできないくらい、赤々と燃え広がる炎の海でした。
あの、お優しいお妃様を呑み込んで、炎は燃え続けました。
焼け跡を必死で探しましたが、お妃様は骨ひとつ見つけることができませんでした。
こうして、賢王と謳われた国王様と、賢王様を支えてこられた美しくお優しいお妃様はこの世からお隠れになったのです。
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