45 / 187
7章 人質姫のもう一つの生活
3
しおりを挟む
私のランバラルドでの生活は、順調に過ぎていく。
メイド生活にも慣れた。
本宮の方へ行くと、ルーシーたちが話しかけてくれて、ポールに会えば調理室に連れて行ってくれて、新しい料理の味見や、この間はクッキーをサクサクに仕上げるコツを教えてもらった。
手間がかけられないからうち粉も薄力粉でやっていたけれど、強力粉を使うとサクサクになるんですって。
実際に作ってみて、こんなに変わるのかとびっくりしたわ。
お礼にたくさんクッキーを焼いて調理室のみなさんで食べていただいたら、大変好評だった。
今日はいいお天気だから、本宮には行かないで、離宮のお庭で栽培しているハーブのお世話をしている。
歌を歌いながらお水を撒く。
キラキラとお水が太陽をはじいてとても綺麗だし、ジョウロの出口に虹がかかって見える。
「はやく元気に育って食べられるようになってね~」
プチトマトの苗に言葉をかける。
「…すごいな。なんだ、この畑は?」
聴き慣れない声を聞き、後ろを振り向くと、知らない人が立っていた。
その人は、金糸の髪を揺らし、素晴らしく整った容姿をした人だった。
「…王子様?」
なんとなく、物語の王子様が、本を抜け出してきたらこんな感じだろうという姿だったのだ。
金髪美少年は不機嫌そうな顔で私に言った。
「お前は自分の夫と別人の区別もつかんのか。この国の王子は王太子のライリーひとりだ」
「えっと、では、失礼ですがどなた様でしょうか」
ジョウロを両手に持ち、おずおずと尋ねると、一層不機嫌そうな顔をした。
「ギルバート・フォンテール。まあ、王位継承権第二位だから、王子様と言って激しく間違っている訳ではないがな。ところで、いつまでこんなところに立たせておくつもりだ。さっさと中に入れんか」
「はあ、では、中へどうぞ」
勝手にやってきて、なんか納得できないけど離宮の中へ招き入れた。
お城の敷地内にいる人だし、怪しい人ではないのだろうし。
応接室のソファへ案内して、私は一度お茶を入れにキッチンへと足を運ぶ。
ここにお客様なんて来ないから、お客様用のお茶菓子なんて用意していないわ。
昨日焼いたマドレーヌが残ってるけど、とりあえずそれを出しておきましょうか。
カチャリと紅茶が入った茶器が音を立てる。
「どうぞ」
恐る恐るマドレーヌもギルバート様の目の前に置く。
なんとなく、お盆を持ってドアの前に控えた。
あれ?でもギルバート様は私に、私の夫がライリー王太子だと言っていた。
と、いうことは、私がシャーロットであることを知っていることになる…。
メイド服だけど、向かいに座った方がいいのかしら?でもフレッド様はメイド服の私とは同じテーブルにつけないと言っていたし…。
モタモタとしていると、ギルバート様は眉根を寄せて、私に座るよう促した。
「何をグズグズしているんだ。早く座れ。でないと話もできん」
「…はい」
お盆を腕に抱えたまま、私はギルバート様の向かいに腰掛けた。
ギルバート様は紅茶に口をつけ、更にマドレーヌも一口食べた。
「…ほぉ。これは…」
かじったマドレーヌをじっと見つめて、やがて私に声をかけた。
「このマドレーヌはお前が作ったものか?」
「はい。お口に合いませんでしたか…?」
「いや、そういうわけではないが」
「ところで、今日は一体どのようなご用件で?」
この人は質問されるのが嫌いな人なのだろうか。
イラッとしたように、また眉根が寄せられた。
「そうだな。用件と言うほどでもないが。ライリーが側室であれ、妻を娶ったというので会いにきた」
妻と言われても名前だけだし。
私はお盆を手でいじりながら話す。
「側室というのは建前で、人質です。そもそも、名前だけの側室なので、こちらの人間関係がよくわからないのですが、ギルバート様は継承権第二位でもライリー様の弟ではないということですか?」
「わたしは王弟の息子だ。父はもう亡くなっているがな。父の跡を継いで公爵を名乗っているが、ランバラルドでは成人は18歳だ。わたしはまだ16歳で成人していないので後見人に宰相がついている」
ライリー様のいとこ様であらせられるのですね。
嫁いびりに来るには、微妙な立場だと思いますけど?
メイド生活にも慣れた。
本宮の方へ行くと、ルーシーたちが話しかけてくれて、ポールに会えば調理室に連れて行ってくれて、新しい料理の味見や、この間はクッキーをサクサクに仕上げるコツを教えてもらった。
手間がかけられないからうち粉も薄力粉でやっていたけれど、強力粉を使うとサクサクになるんですって。
実際に作ってみて、こんなに変わるのかとびっくりしたわ。
お礼にたくさんクッキーを焼いて調理室のみなさんで食べていただいたら、大変好評だった。
今日はいいお天気だから、本宮には行かないで、離宮のお庭で栽培しているハーブのお世話をしている。
歌を歌いながらお水を撒く。
キラキラとお水が太陽をはじいてとても綺麗だし、ジョウロの出口に虹がかかって見える。
「はやく元気に育って食べられるようになってね~」
プチトマトの苗に言葉をかける。
「…すごいな。なんだ、この畑は?」
聴き慣れない声を聞き、後ろを振り向くと、知らない人が立っていた。
その人は、金糸の髪を揺らし、素晴らしく整った容姿をした人だった。
「…王子様?」
なんとなく、物語の王子様が、本を抜け出してきたらこんな感じだろうという姿だったのだ。
金髪美少年は不機嫌そうな顔で私に言った。
「お前は自分の夫と別人の区別もつかんのか。この国の王子は王太子のライリーひとりだ」
「えっと、では、失礼ですがどなた様でしょうか」
ジョウロを両手に持ち、おずおずと尋ねると、一層不機嫌そうな顔をした。
「ギルバート・フォンテール。まあ、王位継承権第二位だから、王子様と言って激しく間違っている訳ではないがな。ところで、いつまでこんなところに立たせておくつもりだ。さっさと中に入れんか」
「はあ、では、中へどうぞ」
勝手にやってきて、なんか納得できないけど離宮の中へ招き入れた。
お城の敷地内にいる人だし、怪しい人ではないのだろうし。
応接室のソファへ案内して、私は一度お茶を入れにキッチンへと足を運ぶ。
ここにお客様なんて来ないから、お客様用のお茶菓子なんて用意していないわ。
昨日焼いたマドレーヌが残ってるけど、とりあえずそれを出しておきましょうか。
カチャリと紅茶が入った茶器が音を立てる。
「どうぞ」
恐る恐るマドレーヌもギルバート様の目の前に置く。
なんとなく、お盆を持ってドアの前に控えた。
あれ?でもギルバート様は私に、私の夫がライリー王太子だと言っていた。
と、いうことは、私がシャーロットであることを知っていることになる…。
メイド服だけど、向かいに座った方がいいのかしら?でもフレッド様はメイド服の私とは同じテーブルにつけないと言っていたし…。
モタモタとしていると、ギルバート様は眉根を寄せて、私に座るよう促した。
「何をグズグズしているんだ。早く座れ。でないと話もできん」
「…はい」
お盆を腕に抱えたまま、私はギルバート様の向かいに腰掛けた。
ギルバート様は紅茶に口をつけ、更にマドレーヌも一口食べた。
「…ほぉ。これは…」
かじったマドレーヌをじっと見つめて、やがて私に声をかけた。
「このマドレーヌはお前が作ったものか?」
「はい。お口に合いませんでしたか…?」
「いや、そういうわけではないが」
「ところで、今日は一体どのようなご用件で?」
この人は質問されるのが嫌いな人なのだろうか。
イラッとしたように、また眉根が寄せられた。
「そうだな。用件と言うほどでもないが。ライリーが側室であれ、妻を娶ったというので会いにきた」
妻と言われても名前だけだし。
私はお盆を手でいじりながら話す。
「側室というのは建前で、人質です。そもそも、名前だけの側室なので、こちらの人間関係がよくわからないのですが、ギルバート様は継承権第二位でもライリー様の弟ではないということですか?」
「わたしは王弟の息子だ。父はもう亡くなっているがな。父の跡を継いで公爵を名乗っているが、ランバラルドでは成人は18歳だ。わたしはまだ16歳で成人していないので後見人に宰相がついている」
ライリー様のいとこ様であらせられるのですね。
嫁いびりに来るには、微妙な立場だと思いますけど?
15
あなたにおすすめの小説
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる