人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

文字の大きさ
52 / 187
8章 人質姫と忘れんぼ王子の邂逅

1

しおりを挟む
「マリーが命を狙われるって、何故今更?」
これまでだって、ずっと機会はあったはずなのに。

「おそらく、姫様のお世話をする者が必要だったから今までは生かされていただけで、姫様が居なくなった今、母が居なくなっても城のものは誰も困らないから、だと思います…」

なんてこと…!
マリーの年を考えて、ボナールに居るようにしたことが裏目に出るなんて…!

震える手で手紙に目を落とす。
手紙は、アーサーの字で綴られていた。


私達がランバラルドへ到着するとほぼ同時に、アーサー達捕虜はボナールへと返された。
アーサーは当初怪我をしていたが、ゆっくりと静養すれば元通りになるくらいの怪我だったのに、帰国してすぐ、騎士団から除籍されたそうだ。
その時、国からの補償なども雀の涙ほどしか出なかったと。
時を同じくして、マリーにも解雇が言い渡された。
マリーにしてみたら、アーサーのキズが癒えたら私を追ってランバラルドへ来るつもりだったので解雇はどうでもよかったらしいが、やはり退職金などの支給はなかったそうだ。

アーサーとふたり、落ち着くまではボナールで過ごそうとしていたところ、自宅に強盗が押し入る。
たが、金目の物には目もくれずに、マリーを殺そうとした。
いち早くアーサーがそれに気付き、足の傷を押して強盗を撃退し、ことなきを得たと言う。

それ以降、町を歩いていると馬車が走り込んでくる道で背中を押されたり、いきなり口を塞がれ連れ去られそうになったりと、命を狙われているとしか思えないことが次々と起こった。
幸い、強盗のことがあったので、アーサーが常に一緒に行動していたため、ことなきを得たと。

アーサーは騎士団にいた時の伝手をたどって城に探りを入れたところ、暗殺部隊が動いている案件があるとのこと。
内容は極秘で、そこまではわからなかったそうだが、マリーの件で間違いないだろうと、手紙には綴られていた。

「兄は母を連れて、早々にランバラルドへの移住をしようとしたらしいですが、関所で止められてこちらに来ることはできないと…」
ジュディは悔しそうに俯いた。

「ギルバート様、何故ですの?移住が拒否されるというのは、本当のことですか?」
手紙からギルバート様に視線を移す。

「…今、ボナールからの移住希望者が増えている。条件もなしに、全てを受け入れられるほどランバラルドも大国ではない。そのため、選別をして受け入れられる数だけを受け入れているのが現状だ」
「ボナールからの移住希望者が増えているって、どうしてですか?私が人質としてこちらに来たのは、賠償金を減らして、国民の負担をなくすためでしたのに」
「わたしも詳しくは聞いていないが、かなり環境は悪くなっているようだ。国を捨てて移住したいと思うほどに」
「そんな…」
私は力が抜けてソファに手をついた。

私が人質でいることには、なんの意味もなかったと、そういうことなのだろうか。
ボナールにいた頃も、いなくていい存在だったが、ここに来てまでなんの役にも立てないのだろうか…。

ソファに置いた手に、ポタポタと涙が落ちてくる。
「マリーにまで迷惑をかけて…私など、いなければよかったのに…!」

溢れる涙で目の前が見えなくなった頃、そっとギルバート様が私に近づいてきた。
下を向いていた、私の両頬に手を当て、上を向かせる。
「シャーロット、お前はいらない存在なんかじゃない。いなければよかったなどと言うな」
そっと、指で涙を拭ってくれる。

「よくわからないが、マリーという者はお前の大事な人なのだな。だったら、わたしがなんとかしよう」
私は目を見開く。
「ギルバート様、いけません。そんな、ギルバート様にはなんの関係もないことではありませんか」
ギルバート様がなんとかしてくれるというのは、公爵としての権力を使うということだ。
まだ後見人もついているギルバート様が無理をされると、あとでどんなことになるかわからない。

ギルバート様は私の言葉を聞き、切なそうに目を細めた。
「関係ないなどと言うな。シャーロットはわたしの大事な友人で、そのマリーとかいう者は、わたしの大事な同胞ジュディの母親なのだろう?力になりたいと思うことは、当然ではないか」
私はギルバート様の手をきゅっと握りしめる。
「ありがとうございます。ありがとう…ございます!」


その後、マリーが持つ秘密とはなんなのかと問い詰められ、私とジュディはギルバート様に全てをお話しした。
ギルバート様は話を聞き終えると、驚愕の表情をし、すぐに悲しそうな目で私を見つめた。
「つらかったであろう。もっと早くに知り合えていたら、力になれることもあっただろうに。隣国のこととは言え、知ろうとしなかったことが悔やまれる」
「いえ、他国のことです。ギルバート様がお気にすることはございません」
「…それでも、幼いシャーロットを助けてやりたかった」


すぐにギルバート様は気を取りなし、ジュディに手紙を書くように指示した。
手紙が着き、内容を確認でき次第、また荷物を準備してランバラルドへ向かうようにと。
手紙には関所を通過するための許可証を同封するそうだ。
私とジュディの書く手紙は検閲があるため、表の封筒はギルバート様の名前で出す。
マリーはランバラルドからの手紙なら、知らない名前でも中身を確認するはずだ。
ジュディの筆跡の手紙で内容を伝えれば、信用してくれるだろう。

ギルバート様は急いで本宮の自室に戻り、関所を通過する許可証発行の手続きをしてくれるそうだ。

あとは、マリーが無事にランバラルドに到着するのを祈るだけ。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...