61 / 187
8章 人質姫と忘れんぼ王子の邂逅
10
しおりを挟む
彼がアーサーの部屋を占領してしまったため、部屋の編成を見直した。
ご令嬢の部屋はベッドが広いので、私とジュディが一緒に寝ることにして、2人部屋はマリー、アーサー親子。
そして護衛の部屋は、彼をそのまま寝かせることにした。
明日の朝は、もともと早朝に馬車を頼んであったので、あわよくば彼は寝たまま馬車へ乗り込ませ、途中で医療院を見つけたらそこに預けて行くことにした。
夕食の時に様子をみたが、まだ熱はあるけれど呼吸はかなり楽そうになっていた。
深夜、ジュディは疲れているのだろうぐっすりと眠っていた。
私はどうしても、明日見知らぬ医療院へ置いて行かなければならない彼のことが気になって、こっそりとベッドを抜け出して彼の部屋へと向かった。
静かにドアを開けると、月明かりの中、眠っている彼の顔が見えた。
額のタオルを触ると、温くなっていたので、また水に浸して冷やしてから額に乗せる。
頬に触れてみる。やっぱりまだ熱い。
頬から手を離すと、彼の手が何かを探してベッドから出てきた。
不安そうな指先を見て、私は子どもの頃のことを思い出した。
熱を出して、うなされて夜中に目が覚めて。
いつもベッドサイドにいてくれたのはマリーだった。
お母様がいないのが寂しくて、でも、マリーだって帰らずに私を診ていてくれたのが嬉しくて。
手を伸ばしてマリーの温もりを探すと、マリーは必ず手を握ってくれた。
だから、彼も不安なんだろうなと思って、手をそっと握った。
ふと、彼の表情が柔らかくなったかと思うと、あの青い瞳がまぶたの奥から私を捕らえた。
「ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
「…きれいだ…」
「え?」
「あ、いや、なんでもない…って、手!」
繋いでいた手を見つけて、彼が慌てた。
「すみません。オレ、あなたの手を」
「あ、いえ、これは私が勝手に。熱も高くて不安だろうなと思ったので。ごめんなさい。不快でしたか?」
「そんなことは絶対にありません。ありがとう。ほんとに、不安だったんだ…」
彼は額にタオルを乗せたまま微笑んだ。
こうして見ると、彼の顔はかなり整っている。
額にタオルを乗せているところは、なんだか間抜けで可愛いけれど。
「あなたは、どうしてあんな所に鹿といたんですか?あそこは国境でしょう」
ベッドに横たわったまま、彼がゆっくりと私に問いかけた。
「密入国しようとしたんじゃありませんよ。柵のこちら側を散歩していたら、鹿に強引に連れて行かれたのです。無理矢理背中に乗せられて。きっと、あの鹿はあなたを助けたかったんでしょうね」
彼はくすくすと笑い出す。
「まるで神話のようだ。鹿に呼ばれた天使なんて」
「天使じゃありません。まだ熱で浮かされてるんですか?」
「いえ、あなたはオレの天使です。名前を聞いても?」
明日にはお別れをするのに、今頃名乗り合うなんて。でも、私は名前を告げた。
「私はロッテ。あなたは?」
「オレの名前はライ。ボナールからランバラルドへ帰国するところでした。金が足りなくて、乗り合い馬車に乗れなくて、歩いて森を越えようとしたところ、盗賊に襲われました」
「まあ、それは災難でしたね」
「オレも、最悪だと思ってました。でも、そのおかげでロッテに会えた。これはオレにとって幸運だったかも知れません」
「幸運な訳ありません。こんなに酷い怪我をして。さあ、怪我に障ります。もうおやすみになって?」
「ああ、目を閉じるのがもったいない。もっと見ていたいのに…」
そう言いながらも、彼は目を閉じた。
次の瞬間にはスースーっと寝息が聞こえた。
まだ、体力は戻らないのだろう。
ふふっ。
幸運だなんて変な人。
そりゃ、私が見つけなかったら危険だったと思うけど、助けてもらったくらいで幸運なんて。
彼の手をベッドの中に戻して、私も自分のベッドへと戻って行った。
ご令嬢の部屋はベッドが広いので、私とジュディが一緒に寝ることにして、2人部屋はマリー、アーサー親子。
そして護衛の部屋は、彼をそのまま寝かせることにした。
明日の朝は、もともと早朝に馬車を頼んであったので、あわよくば彼は寝たまま馬車へ乗り込ませ、途中で医療院を見つけたらそこに預けて行くことにした。
夕食の時に様子をみたが、まだ熱はあるけれど呼吸はかなり楽そうになっていた。
深夜、ジュディは疲れているのだろうぐっすりと眠っていた。
私はどうしても、明日見知らぬ医療院へ置いて行かなければならない彼のことが気になって、こっそりとベッドを抜け出して彼の部屋へと向かった。
静かにドアを開けると、月明かりの中、眠っている彼の顔が見えた。
額のタオルを触ると、温くなっていたので、また水に浸して冷やしてから額に乗せる。
頬に触れてみる。やっぱりまだ熱い。
頬から手を離すと、彼の手が何かを探してベッドから出てきた。
不安そうな指先を見て、私は子どもの頃のことを思い出した。
熱を出して、うなされて夜中に目が覚めて。
いつもベッドサイドにいてくれたのはマリーだった。
お母様がいないのが寂しくて、でも、マリーだって帰らずに私を診ていてくれたのが嬉しくて。
手を伸ばしてマリーの温もりを探すと、マリーは必ず手を握ってくれた。
だから、彼も不安なんだろうなと思って、手をそっと握った。
ふと、彼の表情が柔らかくなったかと思うと、あの青い瞳がまぶたの奥から私を捕らえた。
「ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
「…きれいだ…」
「え?」
「あ、いや、なんでもない…って、手!」
繋いでいた手を見つけて、彼が慌てた。
「すみません。オレ、あなたの手を」
「あ、いえ、これは私が勝手に。熱も高くて不安だろうなと思ったので。ごめんなさい。不快でしたか?」
「そんなことは絶対にありません。ありがとう。ほんとに、不安だったんだ…」
彼は額にタオルを乗せたまま微笑んだ。
こうして見ると、彼の顔はかなり整っている。
額にタオルを乗せているところは、なんだか間抜けで可愛いけれど。
「あなたは、どうしてあんな所に鹿といたんですか?あそこは国境でしょう」
ベッドに横たわったまま、彼がゆっくりと私に問いかけた。
「密入国しようとしたんじゃありませんよ。柵のこちら側を散歩していたら、鹿に強引に連れて行かれたのです。無理矢理背中に乗せられて。きっと、あの鹿はあなたを助けたかったんでしょうね」
彼はくすくすと笑い出す。
「まるで神話のようだ。鹿に呼ばれた天使なんて」
「天使じゃありません。まだ熱で浮かされてるんですか?」
「いえ、あなたはオレの天使です。名前を聞いても?」
明日にはお別れをするのに、今頃名乗り合うなんて。でも、私は名前を告げた。
「私はロッテ。あなたは?」
「オレの名前はライ。ボナールからランバラルドへ帰国するところでした。金が足りなくて、乗り合い馬車に乗れなくて、歩いて森を越えようとしたところ、盗賊に襲われました」
「まあ、それは災難でしたね」
「オレも、最悪だと思ってました。でも、そのおかげでロッテに会えた。これはオレにとって幸運だったかも知れません」
「幸運な訳ありません。こんなに酷い怪我をして。さあ、怪我に障ります。もうおやすみになって?」
「ああ、目を閉じるのがもったいない。もっと見ていたいのに…」
そう言いながらも、彼は目を閉じた。
次の瞬間にはスースーっと寝息が聞こえた。
まだ、体力は戻らないのだろう。
ふふっ。
幸運だなんて変な人。
そりゃ、私が見つけなかったら危険だったと思うけど、助けてもらったくらいで幸運なんて。
彼の手をベッドの中に戻して、私も自分のベッドへと戻って行った。
29
あなたにおすすめの小説
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
今宵、薔薇の園で
天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。
しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。
彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。
キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。
そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。
彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる