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8章 人質姫と忘れんぼ王子の邂逅
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彼がアーサーの部屋を占領してしまったため、部屋の編成を見直した。
ご令嬢の部屋はベッドが広いので、私とジュディが一緒に寝ることにして、2人部屋はマリー、アーサー親子。
そして護衛の部屋は、彼をそのまま寝かせることにした。
明日の朝は、もともと早朝に馬車を頼んであったので、あわよくば彼は寝たまま馬車へ乗り込ませ、途中で医療院を見つけたらそこに預けて行くことにした。
夕食の時に様子をみたが、まだ熱はあるけれど呼吸はかなり楽そうになっていた。
深夜、ジュディは疲れているのだろうぐっすりと眠っていた。
私はどうしても、明日見知らぬ医療院へ置いて行かなければならない彼のことが気になって、こっそりとベッドを抜け出して彼の部屋へと向かった。
静かにドアを開けると、月明かりの中、眠っている彼の顔が見えた。
額のタオルを触ると、温くなっていたので、また水に浸して冷やしてから額に乗せる。
頬に触れてみる。やっぱりまだ熱い。
頬から手を離すと、彼の手が何かを探してベッドから出てきた。
不安そうな指先を見て、私は子どもの頃のことを思い出した。
熱を出して、うなされて夜中に目が覚めて。
いつもベッドサイドにいてくれたのはマリーだった。
お母様がいないのが寂しくて、でも、マリーだって帰らずに私を診ていてくれたのが嬉しくて。
手を伸ばしてマリーの温もりを探すと、マリーは必ず手を握ってくれた。
だから、彼も不安なんだろうなと思って、手をそっと握った。
ふと、彼の表情が柔らかくなったかと思うと、あの青い瞳がまぶたの奥から私を捕らえた。
「ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
「…きれいだ…」
「え?」
「あ、いや、なんでもない…って、手!」
繋いでいた手を見つけて、彼が慌てた。
「すみません。オレ、あなたの手を」
「あ、いえ、これは私が勝手に。熱も高くて不安だろうなと思ったので。ごめんなさい。不快でしたか?」
「そんなことは絶対にありません。ありがとう。ほんとに、不安だったんだ…」
彼は額にタオルを乗せたまま微笑んだ。
こうして見ると、彼の顔はかなり整っている。
額にタオルを乗せているところは、なんだか間抜けで可愛いけれど。
「あなたは、どうしてあんな所に鹿といたんですか?あそこは国境でしょう」
ベッドに横たわったまま、彼がゆっくりと私に問いかけた。
「密入国しようとしたんじゃありませんよ。柵のこちら側を散歩していたら、鹿に強引に連れて行かれたのです。無理矢理背中に乗せられて。きっと、あの鹿はあなたを助けたかったんでしょうね」
彼はくすくすと笑い出す。
「まるで神話のようだ。鹿に呼ばれた天使なんて」
「天使じゃありません。まだ熱で浮かされてるんですか?」
「いえ、あなたはオレの天使です。名前を聞いても?」
明日にはお別れをするのに、今頃名乗り合うなんて。でも、私は名前を告げた。
「私はロッテ。あなたは?」
「オレの名前はライ。ボナールからランバラルドへ帰国するところでした。金が足りなくて、乗り合い馬車に乗れなくて、歩いて森を越えようとしたところ、盗賊に襲われました」
「まあ、それは災難でしたね」
「オレも、最悪だと思ってました。でも、そのおかげでロッテに会えた。これはオレにとって幸運だったかも知れません」
「幸運な訳ありません。こんなに酷い怪我をして。さあ、怪我に障ります。もうおやすみになって?」
「ああ、目を閉じるのがもったいない。もっと見ていたいのに…」
そう言いながらも、彼は目を閉じた。
次の瞬間にはスースーっと寝息が聞こえた。
まだ、体力は戻らないのだろう。
ふふっ。
幸運だなんて変な人。
そりゃ、私が見つけなかったら危険だったと思うけど、助けてもらったくらいで幸運なんて。
彼の手をベッドの中に戻して、私も自分のベッドへと戻って行った。
ご令嬢の部屋はベッドが広いので、私とジュディが一緒に寝ることにして、2人部屋はマリー、アーサー親子。
そして護衛の部屋は、彼をそのまま寝かせることにした。
明日の朝は、もともと早朝に馬車を頼んであったので、あわよくば彼は寝たまま馬車へ乗り込ませ、途中で医療院を見つけたらそこに預けて行くことにした。
夕食の時に様子をみたが、まだ熱はあるけれど呼吸はかなり楽そうになっていた。
深夜、ジュディは疲れているのだろうぐっすりと眠っていた。
私はどうしても、明日見知らぬ医療院へ置いて行かなければならない彼のことが気になって、こっそりとベッドを抜け出して彼の部屋へと向かった。
静かにドアを開けると、月明かりの中、眠っている彼の顔が見えた。
額のタオルを触ると、温くなっていたので、また水に浸して冷やしてから額に乗せる。
頬に触れてみる。やっぱりまだ熱い。
頬から手を離すと、彼の手が何かを探してベッドから出てきた。
不安そうな指先を見て、私は子どもの頃のことを思い出した。
熱を出して、うなされて夜中に目が覚めて。
いつもベッドサイドにいてくれたのはマリーだった。
お母様がいないのが寂しくて、でも、マリーだって帰らずに私を診ていてくれたのが嬉しくて。
手を伸ばしてマリーの温もりを探すと、マリーは必ず手を握ってくれた。
だから、彼も不安なんだろうなと思って、手をそっと握った。
ふと、彼の表情が柔らかくなったかと思うと、あの青い瞳がまぶたの奥から私を捕らえた。
「ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
「…きれいだ…」
「え?」
「あ、いや、なんでもない…って、手!」
繋いでいた手を見つけて、彼が慌てた。
「すみません。オレ、あなたの手を」
「あ、いえ、これは私が勝手に。熱も高くて不安だろうなと思ったので。ごめんなさい。不快でしたか?」
「そんなことは絶対にありません。ありがとう。ほんとに、不安だったんだ…」
彼は額にタオルを乗せたまま微笑んだ。
こうして見ると、彼の顔はかなり整っている。
額にタオルを乗せているところは、なんだか間抜けで可愛いけれど。
「あなたは、どうしてあんな所に鹿といたんですか?あそこは国境でしょう」
ベッドに横たわったまま、彼がゆっくりと私に問いかけた。
「密入国しようとしたんじゃありませんよ。柵のこちら側を散歩していたら、鹿に強引に連れて行かれたのです。無理矢理背中に乗せられて。きっと、あの鹿はあなたを助けたかったんでしょうね」
彼はくすくすと笑い出す。
「まるで神話のようだ。鹿に呼ばれた天使なんて」
「天使じゃありません。まだ熱で浮かされてるんですか?」
「いえ、あなたはオレの天使です。名前を聞いても?」
明日にはお別れをするのに、今頃名乗り合うなんて。でも、私は名前を告げた。
「私はロッテ。あなたは?」
「オレの名前はライ。ボナールからランバラルドへ帰国するところでした。金が足りなくて、乗り合い馬車に乗れなくて、歩いて森を越えようとしたところ、盗賊に襲われました」
「まあ、それは災難でしたね」
「オレも、最悪だと思ってました。でも、そのおかげでロッテに会えた。これはオレにとって幸運だったかも知れません」
「幸運な訳ありません。こんなに酷い怪我をして。さあ、怪我に障ります。もうおやすみになって?」
「ああ、目を閉じるのがもったいない。もっと見ていたいのに…」
そう言いながらも、彼は目を閉じた。
次の瞬間にはスースーっと寝息が聞こえた。
まだ、体力は戻らないのだろう。
ふふっ。
幸運だなんて変な人。
そりゃ、私が見つけなかったら危険だったと思うけど、助けてもらったくらいで幸運なんて。
彼の手をベッドの中に戻して、私も自分のベッドへと戻って行った。
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