人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

文字の大きさ
60 / 187
8章 人質姫と忘れんぼ王子の邂逅

9

しおりを挟む
食事をジュディ達の部屋に4人分用意して、アーサーの部屋をノックした。

中から返事があったので、そっとドアを開ける。
「ロッテ、もう処置は全て終わっていますから、中に入っても大丈夫ですよ」
アーサーはベッドの横に椅子を用意して、そこに座っていた。
「ごめんなさい。全部アーサーにやらせてしまって」
「何言ってるんですか。若い男性の世話を、ロッテに任せられる訳がないでしょう」
「でも、私が連れてきたのに…」
「困っている人がいたら、助けるのが当たり前。そう思っているロッテがオレは好きですよ」

すごく迷惑をかけているのに、アーサーは優しい。
「ありがとう。アーサー、隣に遅くなったけどお昼を用意してあるの。彼のことは私が見ているから食べてきて」
私がそう言うと、アーサーは微妙な顔をする。
「ジュディは何をしているんですか?」
「?…ジュディは明日帰るから、その支度をしているけれど…?」
私の返事を聞いて、アーサーはため息をつく。
「それなら仕方ないですね。ロッテ、あとは任せました」

アーサーが椅子から立ち上がり、部屋を出て行った。
代わりに私がベッドサイドの椅子に腰掛ける。

彼はさっきまで出血で青かったけれど、今は赤い顔をして眠っている。
アーサーの話だと、打撲も酷く、傷も浅いけれど広範囲だったために熱が出ているということだった。

額に濡れタオルを置いて冷やしていたが、うなされた拍子に横に落ちてしまった。
タオルを拾い上げると、もう温くなっていたので、もう一度小さな桶に汲んである水で冷やして、彼の額に乗せる。

それが冷たかったからなのか、彼が身動ぎして目を開ける。
青い瞳が私を捕らえた。

「…キミは、さっきの天使…」
彼は熱で浮かされているのだろう。
「天使じゃないけど、さっきあなたと出会った者よ」
「ごめん…もう一度、水が飲みたい」
「ちょっと待ってて」
アーサーに言われて用意した水飲みで、彼に水を飲ませた。
「…あぁ、うまい」

「どお?少し気分は落ち着きました?」
「あぁ、ここは天国のようだけど、天国じゃなさそうだな。オレは生きているんだな」
「そうよ。ちゃんと生きているわ。動けそうならポタージュがあるけど、飲めますか?」
ポタージュ、という言葉に反応して、彼は私を見つめた。
「飲みたい。すっごく、腹が減っているんだ」

彼の体を起こそうとして、背中に両手を回してみたけれど、腕が痛いようだし、熱でクラクラすると言うので、少し枕を高くするに留めて、その姿勢で飲んでもらうことにした。

「もうそんなに熱くないと思うけど…」
腕の使えない彼の代わりに、ポタージュをスプーンですくって、ふーっと息を吹きかける。
「はい、あーん」
口元までポタージュを持っていったのに、彼はますます顔を赤くして、目を見開いてこちらを見ている。
あら、熱が上がってきたのかしら。
「こぼれちゃうから、早く口を開けてくださいな」
「あ、あぁ」
あーんと口を開けてくれたので、そっとスプーンでポタージュを飲ませた。
「うまい。丸一日以上、飯食ってなかったから、胃に染みる」
「それはよかったです」

少しずつスプーンですくって飲ませ、お皿が空になった頃、満足したのかそのままスーっと彼は寝てしまった。

私はお皿をテーブルに置いて、彼の頭を抱えて高くした枕を元に戻した。
まだ熱は高いようで、彼の頭は熱かった。


しばらく彼を見ていると、アーサーが食事を終えて戻ってきた。
「ロッテ、代わりますよ」
「ええ。ありがとう。私も支度があるからお願いするわ」
私が椅子から立ち上がると、アーサーは困ったように私に声をかけた。
もちろん、彼に聞こえないような小声で、だ。
「彼、このあとどうしましょうか。我々もあまり他人に知られるとマズいですしね。だいたい、ここは王族の使う施設だ。そんなところに匿ってると、彼に知れたら弱みを見せることになる」
「でも、あの状態で放り出せないわ」
「そうですね…。明日、彼を眠らせたまま、ここを出るのがいいでしょう。ここがどこか悟らせないうちに出てしまって、そして通り道にある医者のところに放り込んであとは任せましょう」
「それしかないかしら」
「それが一番安全でしょう」
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...