人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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11章 ボナールへ再び

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マリーは敗戦直後まで、城で上級女官として働いていたらしい。
歳の割にしっかりと伸ばされた姿勢は、それなりの地位にいた者として推察される。
アーサーはその息子で、第二騎士団の副団長をしていたらしい。

アーサーの物腰にも引っかかるものがあり、調べたところ、やはりと言うべきか、そんな事実が浮かんできた。

騎士団の方は戦争で負傷し、後遺症が残ることから退団したというところまでは情報として入っている。
しかし、マリーが城を辞めた理由は調べても分からなかった。
森でオレが負傷した時にいた娘ジュディも、城で働いていたようだが、一緒にランバラルドにいるところを見ると、こちらも辞めてランバラルドへ移住したのだろう。

ただ、ロッテという娘の存在は確認出来なかった。

それでも、マリーも領地は持っていないが爵位のある貴族だったようだ。
でなければ上級女官として城に勤めることはできない。
その関係者であるロッテは、きちんと調べれば身元はしっかりしているのではないかと思う。…思いたい。


そんな事を考えていると馬車が止まる。
「王子、着いたって」
先にフレッドが馬車を降りる。
続いてオレも降りるが…。
「王子、ここ、何?」

フレッドが不思議がるのも無理はない。
馬車が止まったそこには、こじんまりとした屋敷があったが、窓ガラスは割れ、一部が焼け焦げていた。
その屋敷は、高級住宅街にあった。
と言っても、下級貴族や裕福な商家の者が住んでいるようなところで、上級貴族の屋敷が立ち並ぶ所とはとは違う風景だが。

この屋敷は家主がいなくなったがために、泥棒にでも入られたのだろうか。
移住の時に貴重品は持って出ているだろうから、盗みに入った屋敷に何もないことへの腹いせに火でもつけられたか。
ボナールの国民が追い詰められているのがわかる情景だな。
何にせよ、こんな風になっていては何も得ることはできないだろう。
周りの人間に聞いたところで、関わり合いになりたくないと思われるのが関の山だ。
馬車に戻ろうと踵を返した所で、近づく人影に気がついた。

馬から降りていたジェイミーがオレとフレッドの前に立つ。
近づいてきた人影は2人組で、よく見るとこの国の騎士団の隊服を着ていた。
鎧は付けていなかったが、帯剣をしている。
「そこで何をしている。ここは、第二騎士団元副団長のご生家だと知って…」
騎士のうち一人は途中までそう言って、一度口を閉じた。
そして、オレたちの顔を見てから、再度口を開く。
「失礼ですが、ランバラルドの方でしょうか?」
そのうちの一人がじっと、フレッドの顔を見た後で、オレたちに問う。

オレはフレッドと顔を見合わせて、アイコンタクトを取る。
「そうだが、君たちは?」
「失礼いたしました!わたしたちは、ボナール国第二騎士団所属の者です。わたしは副団長補佐をしております、ルドルフと申します」
二人は胸に手をあて、敬礼をする。
フレッドは「第二騎士団」という所属を聞いて、あっ、という顔をした。
おそらく、前回のボナール訪問の時にでも会っているのだろう。

「いや、国内がどんな状況であるか、調査のために見て回っているところだ」
「そうですか…我々も、こうして見回りをしておりますが、この屋敷もこのようなことになってしまい、面目次第もございません」
ルドルフと名乗った男は俯いて、悔しそうに言った。
「いや、それだけ国内が荒れているということだろう」
これは騎士団のせいではなく、国王のせいだ。

ルドルフは、チラッとフレッドに目をやる。
「こんなことを聞いていいのかはわかりませんが…かのお方は、お元気にしていらっしゃいますでしょうか?」
「元気にしている。心配するな」
オレはすぐに返事をした。
余計なことをフレッドの耳に入れなくなかったからだ。
ここはアーサーの家だ。
かのお方とは、アーサーのことだろう。

オレの言葉を聞いて、ルドルフは安心したように笑った。
「よかったぁ。我々はかのお方がランバラルドに行ってもお幸せに過ごされることを、心よりお祈り申し上げておりました」
2人揃って、再び敬礼をした。

「我々も、平穏な日常をお互いの国で取り戻せるよう、尽力しよう」
そう言って、オレたち3人も、ボナールの騎士団の2人に敬礼をした。


騎士団の2人に別れを告げると、早々に馬車を出発させる。
窓に付いている肘掛に肘を置き、フレッドがオレの顔を覗き込む。
「王子、かのお方って誰のことだかわかって返事した?」
アーサーの存在を知らないフレッドは、不思議に思っているのだろう。
「きっとランバラルドへ移住してきた者だろう。入国を許可している者はみな元気でやっていると聞いている。それを伝えればあの者も安心するだろうと思って」
「ふーん」
フレッドは納得したのかしていないのか。
頬杖を付いて、視線を窓の外へ移していた。

フレッドに真実を話せない罪悪感は残るが、仕方ない。
とりあえず、オレが調べた情報は合っていたようだ。
屋敷はアーサーが住んでいた所なのだろう。
あの屋敷の規模を見るに、きっとマリーの身分も調べたもので間違いないと思われる。


あとは、ロッテにこの想いを告げて、受け入れてもらえたら、その時に考えよう。




*****************



ルドルフは、シャーロットがランバラルドに人質として入国するまでの護衛でついてきた騎士です。
話が長くなると、初めの方に出てきた人物は記憶薄くなりますよね。
もちろん、ルドルフはフレッドを見てランバラルドの者だと声をかけ、フレッドも途中で気がついています。
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