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12章 告白への道のり
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私、シャーロットが人質としてランバラルドへ来てからの生活は、平和で幸せそのものだ。
人質として過ごすのが幸せであるならば、これまでの私の生活はなんだったのかと思う。
でも、きっと、こうして人質としてボナールのみんなの役に立っているのなら、あの苦労の日々も報われる。…かもしれないわね。
今日は離宮でたくさんのクッキーを焼いた。
何故かと言うと、昨日フレッド様からの使いが来て、フレッド様からの手紙を渡してくれた。
手紙の中には、ボナールから帰ってきて疲れているから、甘いクッキーを食べて疲れを癒したい。明日行くから用意をしておいて、と書かれていたのだ。
私にとって、必要とされることはとても嬉しいことで、喜び勇んでこれでもかというくらいクッキーを焼いた。
フレッド様がいらした時にお出しするアップルパイも焼いた。
ただ、それを見たジュディが、そんなに城の中にクッキーを配るなら、パルフェに卸すものとは抜き型を変えた方がいいのではないかと言い出した。
それもそうね。
同じ物があったら、同じ人が作っていると疑われても仕方ないわ。
新しい抜き型は、今日ジュディが町に行った時に買ってきてくれると言うので、お願いすることにした。
お茶の用意も万端にして、ふと自分自身を見直すといつものメイド服が目に入る。
一応、フレッド様は私がメイド仕事をしているのは知っているけれど、先触れがあってお迎えするのに仕事着のままっていうのは失礼よね。
お出かけではないけれど、クローゼットを開けて、自分で初めて買ったワンピースを出した。
髪もぎっちり編み込んでいたのをほどき、ハーフアップにして、ライからもらった髪飾りをつける。
ライからもらったのは、シルバーの細工に青いビーズで飾りのついているものだった。
ワンピースとよく合うので、お気に入りの一品になった。
支度を終えて自室のある二階から一階に降りている時に、タイミングよく玄関のノッカーが音を立てた。
ガチャとドアを開けると、そこにはフレッド様が立っていた。
「やあ、シャーロットちゃん。ご機嫌麗しく」
少し大袈裟にボウ・アンド・スクレープをする。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
私も少し大袈裟にカーテシーをした。
2人で顔を上げて、クスクスと笑い出す。
「この前までメイド服で土いじりをしていた子には見えないよ」
「あら、私はいつだってこうですわよ」
私は見栄を張って、ついでに胸も張って、フレッド様を応接室にお通しする。
ソファに腰掛けてもらい、私は紅茶を入れてフレッド様にお出しした。
「ご一緒にアップルパイはいかがかしら。もちろん、ご所望のクッキーもたくさん焼いてありますわよ」
サクッといい音のするパイを切って、フレッド様に差し出した。
「ありがとう。もちろんいただくよ」
フレッド様はにこりと笑ってパイを口にした。
「あぁ、これもすごく美味しいね」
「ふふ。喜んでいただけて光栄です」
私も自分で紅茶を用意して、フレッド様の向かい側に腰を下ろした。
フレッド様は私に小さな包みを差し出した。
「これ、クッキーのお礼ね。チョコレート、好きって言ってたでしょ?」
箱を開けさせてもらうと、また宝石のようにキラキラのチョコレートが、いくつも入っていた。
「ありがとうございます!とっても嬉しいです」
「はは。シャーロットちゃんは本当にチョコレートが好きなんだね。あとさ、こっちの包みはボナールでのお土産。こっちも開けてみて」
また小さな包みを渡される。
掛かっているリボンが赤くて可愛い。
リボンと包装紙を取って箱を開けると、小さなイエローダイヤのネックレスだった。
イエローダイヤの周りに、白く雪のように輝く小さなダイヤが並んでいて、まるで花のようなデザイン。
「フレッド様、私、宝石なんていただけません。クッキー、こんなに高い物ではありませんもの」
フレッド様は紅茶を飲みながら笑う。
「お土産だって言ったろ?残念ながら、これはそんなに高いものじゃないから受け取って?」
「ほんとにいいのですか?」
「もちろん。シャーロットちゃんにもらってもらえなかったら、誰にももらってもらえないから、オレがつけなくちゃいけなくなっちゃう」
おどけてそう言うフレッド様に、笑顔を向ける。
「では、有り難く着けさせていただきますね」
私がそう言うと、フレッド様は立ち上がり、私の方にやってきた。
私の手元からネックレスを取ると「つけてあげるよ」と言って、私の後ろに立つ。
私はフレッド様がつけやすいように、髪をかき上げて首を少し倒した。
「シャーロットちゃん、じっとしててね~」
フレッド様の指先が私の首をかすめた。
「ね、今日はジュディちゃんはどうしたの?」
何故かフレッド様は私の後ろに立ったままで話を続けた。
「今日は本宮の方に行っていますわ」
本当は城下町に行っているけど。
フレッド様は小さくため息をついた。
「仔羊ちゃんの巣に入った狼の気分だよ。もっと防犯には気をつけてもらわないと」
髪を元に戻すと、フレッド様も元のソファに戻って行った。
「今日はメイド服じゃないんだね。首元と手首の白いレースが清楚な感じがしてすごく可愛いよ。個人的には、青い色よりもっと明るい暖色系が好みだけど」
「ありがとうございます。次は明るい色も選んでみますね」
「そうだね~。あ、オレがプレゼントしようか?そのかわり、またクッキーたくさん焼いてよ」
「ふふ。プレゼントなんかなくたって、たくさん焼いて差し上げましてよ?」
そして、またひとかけらのパイを口に入れた。
「フレッド様は、ボナールに行ってらしたのよね?ボナールの国は、復興していましたか?」
人質として過ごすのが幸せであるならば、これまでの私の生活はなんだったのかと思う。
でも、きっと、こうして人質としてボナールのみんなの役に立っているのなら、あの苦労の日々も報われる。…かもしれないわね。
今日は離宮でたくさんのクッキーを焼いた。
何故かと言うと、昨日フレッド様からの使いが来て、フレッド様からの手紙を渡してくれた。
手紙の中には、ボナールから帰ってきて疲れているから、甘いクッキーを食べて疲れを癒したい。明日行くから用意をしておいて、と書かれていたのだ。
私にとって、必要とされることはとても嬉しいことで、喜び勇んでこれでもかというくらいクッキーを焼いた。
フレッド様がいらした時にお出しするアップルパイも焼いた。
ただ、それを見たジュディが、そんなに城の中にクッキーを配るなら、パルフェに卸すものとは抜き型を変えた方がいいのではないかと言い出した。
それもそうね。
同じ物があったら、同じ人が作っていると疑われても仕方ないわ。
新しい抜き型は、今日ジュディが町に行った時に買ってきてくれると言うので、お願いすることにした。
お茶の用意も万端にして、ふと自分自身を見直すといつものメイド服が目に入る。
一応、フレッド様は私がメイド仕事をしているのは知っているけれど、先触れがあってお迎えするのに仕事着のままっていうのは失礼よね。
お出かけではないけれど、クローゼットを開けて、自分で初めて買ったワンピースを出した。
髪もぎっちり編み込んでいたのをほどき、ハーフアップにして、ライからもらった髪飾りをつける。
ライからもらったのは、シルバーの細工に青いビーズで飾りのついているものだった。
ワンピースとよく合うので、お気に入りの一品になった。
支度を終えて自室のある二階から一階に降りている時に、タイミングよく玄関のノッカーが音を立てた。
ガチャとドアを開けると、そこにはフレッド様が立っていた。
「やあ、シャーロットちゃん。ご機嫌麗しく」
少し大袈裟にボウ・アンド・スクレープをする。
「ようこそ、いらっしゃいませ」
私も少し大袈裟にカーテシーをした。
2人で顔を上げて、クスクスと笑い出す。
「この前までメイド服で土いじりをしていた子には見えないよ」
「あら、私はいつだってこうですわよ」
私は見栄を張って、ついでに胸も張って、フレッド様を応接室にお通しする。
ソファに腰掛けてもらい、私は紅茶を入れてフレッド様にお出しした。
「ご一緒にアップルパイはいかがかしら。もちろん、ご所望のクッキーもたくさん焼いてありますわよ」
サクッといい音のするパイを切って、フレッド様に差し出した。
「ありがとう。もちろんいただくよ」
フレッド様はにこりと笑ってパイを口にした。
「あぁ、これもすごく美味しいね」
「ふふ。喜んでいただけて光栄です」
私も自分で紅茶を用意して、フレッド様の向かい側に腰を下ろした。
フレッド様は私に小さな包みを差し出した。
「これ、クッキーのお礼ね。チョコレート、好きって言ってたでしょ?」
箱を開けさせてもらうと、また宝石のようにキラキラのチョコレートが、いくつも入っていた。
「ありがとうございます!とっても嬉しいです」
「はは。シャーロットちゃんは本当にチョコレートが好きなんだね。あとさ、こっちの包みはボナールでのお土産。こっちも開けてみて」
また小さな包みを渡される。
掛かっているリボンが赤くて可愛い。
リボンと包装紙を取って箱を開けると、小さなイエローダイヤのネックレスだった。
イエローダイヤの周りに、白く雪のように輝く小さなダイヤが並んでいて、まるで花のようなデザイン。
「フレッド様、私、宝石なんていただけません。クッキー、こんなに高い物ではありませんもの」
フレッド様は紅茶を飲みながら笑う。
「お土産だって言ったろ?残念ながら、これはそんなに高いものじゃないから受け取って?」
「ほんとにいいのですか?」
「もちろん。シャーロットちゃんにもらってもらえなかったら、誰にももらってもらえないから、オレがつけなくちゃいけなくなっちゃう」
おどけてそう言うフレッド様に、笑顔を向ける。
「では、有り難く着けさせていただきますね」
私がそう言うと、フレッド様は立ち上がり、私の方にやってきた。
私の手元からネックレスを取ると「つけてあげるよ」と言って、私の後ろに立つ。
私はフレッド様がつけやすいように、髪をかき上げて首を少し倒した。
「シャーロットちゃん、じっとしててね~」
フレッド様の指先が私の首をかすめた。
「ね、今日はジュディちゃんはどうしたの?」
何故かフレッド様は私の後ろに立ったままで話を続けた。
「今日は本宮の方に行っていますわ」
本当は城下町に行っているけど。
フレッド様は小さくため息をついた。
「仔羊ちゃんの巣に入った狼の気分だよ。もっと防犯には気をつけてもらわないと」
髪を元に戻すと、フレッド様も元のソファに戻って行った。
「今日はメイド服じゃないんだね。首元と手首の白いレースが清楚な感じがしてすごく可愛いよ。個人的には、青い色よりもっと明るい暖色系が好みだけど」
「ありがとうございます。次は明るい色も選んでみますね」
「そうだね~。あ、オレがプレゼントしようか?そのかわり、またクッキーたくさん焼いてよ」
「ふふ。プレゼントなんかなくたって、たくさん焼いて差し上げましてよ?」
そして、またひとかけらのパイを口に入れた。
「フレッド様は、ボナールに行ってらしたのよね?ボナールの国は、復興していましたか?」
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