人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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15章 ボナールの王女

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「セリーヌ王女殿下。ライリー王子は少し疲れたようでして、これから休憩に入られます。お話はまたの機会でよろしいでしょうか」
フレッドがオレを逃してくれようとするが、セリーヌ王女は食い下がる。
「あら、宰相子息フレッド様。先ほどからライリー様とお話しする機会をうかがっておりましたのに、なかなかライリー様は振り向いてくださらなかったのですわ。ご休憩なさる前に、一曲だけお付き合いくださいませ」

疲れてるって言ってるだろ。とは言えず。
フレッドもオレに耳打ちする。
「王子、この場でご婦人からの誘いを断るのは、セリーヌ王女に恥をかかせることをなる。ガマンして、一曲踊ってきて」
「……わかった」

オレは仕方なしに、セリーヌ王女の手を取り、ダンスフロアに舞い戻った。

セリーヌ王女の腰に手を回し、ダンスを踊る。
王女は社交慣れしているようで、ダンスはなかなかの腕前だ。

「ライリー王太子殿下の即位前最後の大規模な夜会ということで、この夜会でお妃様をお決めになるのではと、噂になっておりました。いかがです? お妃様はお決めになられましたか?」
「今日、妃を決めるとは誰も言っていません。まだ若いのですから、充分に時間はあります。急いで決める必要もないでしょう。今日の夜会は、即位前の挨拶のようなものです」

いや、ほんと。
結婚相手など、今日の夜会で見つけられる気がしない……。困ったことに。

「わたくしなどいかがでしょう。お父様はすでに退位を考えておりますがゆえ、わたくしがボナールを継ぎましょう。ボナールとランバラルドを一つの国にしてしまえば、よろしいのではなくって?」
「ボナール国王は、共和制を検討しているとおっしゃっていましたが?」
「そんなの、うまくいくはずがありませんわ。今まで国王が全てを取り仕切ってきた国ですもの。それよりも、ボナールとランバラルドを一つにしてしまう方が、ずっと現実的ではないかしら?」
「わたしの両腕にはあまりある国土になってしまいますね」
「大丈夫です。わたくしを娶れば国は栄えますわ」
「何を根拠に……」
「わたくしは大地の豊穣を約束された、七色の乙女ですもの。わたくしが嫁げば、ランバラルドの地にも穀物の実りを約束しましょう」

眉唾物だな……。

「ボナールの地が豊かなことは、ライリー王太子殿下もご存知のはずですわね。今日の夜会に出たワインは、ボナール産の物でしたもの。ですから、わたくしみなさまに教えて差し上げましたのよ。ボナールと縁続きをほのめかすために、ボナール産のワインを用いていると。これだけ上等なワインをこれだけ大量に仕入れるのは、ボナールとの縁が細からぬことを意味していますと」

いやいや、これはオレが契約しているボナールのワイナリーから取り寄せたものだ。
ボナール王室とは、関係ないだろう。

「失礼ですが、ボナール王室からの献上品ではなく、あれはわたし自身が取り寄せたものですが?」
「そのようですわね。でも、みなさまわたくしの言うことを信じておいででしたわ」

この女……!
さすがはあの国王の娘だ。
これは恥をかかせるとか、そんな気を遣っている場合じゃない。
こんなところでセリーヌ王女との噂が広がれば、双方の不利益だ。
策にはまり、結婚なんてごめんだ。

「わたくしの妹が嫁いでいるから、と言った言い訳は通用しませんわよ? この夜会に出席していない時点で、側妃としての役割も果たしていないと、名言しているようなものですもの」

妹?
嫁ぐ?

なんだっけ、それ……。
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