112 / 187
15章 ボナールの王女
5
しおりを挟む
ロッテもこちらを見て、目を見開いている。
「……ライ?」
オレの名前を呼んだ。
間違いなく彼女はロッテだ。
オレがロッテの前まで来ると、フレッドは眉間に皺を寄せたが、ロッテをオレに引き渡し、エスコート役を交代する。
すれ違う瞬間、フレッドがオレに耳打ちをした。
「この子が第二王女シャーロット殿下だよ」
オレはロッテの手を取り、細い腰に手を回した。
ロッテは戸惑うようにオレを見上げる。
何がなんだかわからない。
どうしてロッテがここに居るんだ。
シャーロットって、どういうことだ。
問い詰めたいのに、この夜会の会場ではどうすることもできない。
不自然に見つめ合うオレたちに、周りから声がかかる。
「ライリー王太子殿下、こちらのご令嬢をご紹介いただけないでしょうか」
どこぞの国の、どこぞの貴族子息が頬を染めてオレに言う。
頬を染めるな。これはオレのだ。
そう言いたいのをグッと堪えて、口元に笑みを浮かべてオレは答える。
「彼女はわたしの妻、ボナールから嫁いできたシャーロット王女ですよ」
一瞬、しんと静まり返ったその場が、一斉にざわめき始める。
どういうことだ。
王太子は婚約者もいなかったのではないか。
王家の婚姻に式も挙げたと聞いていない。
ボナールとの縁は先ほど居た第一王女との婚姻ではなかったのか。
ええい。うるさい。
一番聞きたいのはオレだ!
だが、そんなことはおくびにも出さず、ロッテの耳元に唇を寄せる。
「ロッテ、みんなに挨拶して。シャーロットとして。できるね?」
ロッテはコクンと頷く。
「みなさま、只今ご紹介に預かりましたシャーロットにございます。以後お見知りおきを」
輝く笑顔と共に、見事なカーテシーが披露される。
その美しさにあちらこちらからため息が聞こえた。
しかし、その空気を壊す者がいた。
「まあっ、シャーロットなの? わたくしの可愛い妹、シャーロット。先にランバラルドに来て、わたくしを待っていてくれたのね」
セリーヌ王女がそう言いながら、ロッテに近付く。
「側妃という立場でありながら、このような場に出てきてくれてありがとう。正妃として嫁ぐわたくしを心配してくれたのね」
セリーヌ王女は微笑みながら、オレの手からロッテを奪って行った。
「シャーロット、この髪はどうしたの? やはり、あんなに嫌っていたアッシュブロンドを隠したかったのね。髪も染めてこんなにお化粧も厚く塗って。肌に良くないわ」
セリーヌ王女はまるでいたわるようにロッテの髪を撫で、頬を撫でる。
しかし、その真意はすぐに判った。
遠くからロッテに対する批判が聞こえる。
髪を染めた?
あぁ、ボナールの第二王女ね。見たことあるわ。
ボナールにいた頃はみすぼらしい王女だった、あのシャーロット王女なの?
なんでも、ボナール国王は美しくもない第二王女は表に出したがらなかったと噂だった。やはり、今見てる美しさは作り物?
何を言っているんだと、恫喝したかった。
でも、オレは彼らが噂する、ボナールの第二王女であったロッテを知らない。
この場をどう収めようかと思案している時に、ロッテが動き出した。
「セリーヌ様、ご冗談はおやめくださいませ。髪も染めておりませんし、お化粧も厚くはごさいませんわ」
ロッテはセリーヌ王女の手を離し、頬を染めて紹介をねだったあの、どこぞの国の貴族子息に近付いた。
「ねえ、そこの方、見てくださる?私の髪、染められているかしら?根元から髪の先まで見ていただけませんか?」
貴族子息の手に、自分の髪を乗せる。
「ほら、お顔も見てくださいまし。何をそんなに厚く塗っていると言うのでしょうか」
潤んだ瞳で貴族子息を見つめる。
「うっ、か、髪は染められた気配はありません。触っても色が落ちません。か、か、顔も、よく見ても厚く化粧されているとは、思えません……」
貴族子息は顔を真っ赤にし、汗をかきながらみんなに聞こえるように言った。
ロッテは振り返り、別の者に問う。
「あなたも、そちらのあなたもご覧になって? さあ、そこのご令嬢も。近くで見て、どちらが本当のことを言っているのか確かめてくださいな」
上目遣いに見つめられたら、どの子息も令嬢も、頬を染めてロッテを見つめている。
近くにいた子息が、ロッテが差し出す髪に手を触れようと伸ばしたところで、オレはロッテを後ろから抱き寄せた。
「失礼。これ以上、可愛い妻を他の男に触れさせたくないもんで」
その子息は残念そうに、伸ばした手を下ろした。
「噂は噂。これ以上我が妃を困らせないでいただきたい」
ロッテの腰を引き寄せ、オレはロッテとぴったりくっついた。
先ほど手を伸ばした子息から、声が掛かる。
「お妃様とおっしゃるのに、王族として式の発表がなかったようですが?」
オレはにこやかに答える。
「それは、我が国とボナールが戦争をしていたからですよ。まだ今も、戦争の傷跡が残る両国で、発表するには早いと思い、延期をしていただけです」
すると、周りの女性からの囁きが聞こえる。
許されぬ恋に身を焦がし、それがやっと身を結んだのね。
敵国の姫を思って一途にしていらっしゃった王子。
だから、ボナールは敗戦したにも関わらず、こんなに穏やかに復興していけるのか。
いいぞ。オレの話に、みんな乗ってきてる。
緊張していた頬を、オレが緩ませた時、余計な事を言う者がいた。
「では、セリーヌ王女とのご結婚の話は、なんだったんだ?」
「……ライ?」
オレの名前を呼んだ。
間違いなく彼女はロッテだ。
オレがロッテの前まで来ると、フレッドは眉間に皺を寄せたが、ロッテをオレに引き渡し、エスコート役を交代する。
すれ違う瞬間、フレッドがオレに耳打ちをした。
「この子が第二王女シャーロット殿下だよ」
オレはロッテの手を取り、細い腰に手を回した。
ロッテは戸惑うようにオレを見上げる。
何がなんだかわからない。
どうしてロッテがここに居るんだ。
シャーロットって、どういうことだ。
問い詰めたいのに、この夜会の会場ではどうすることもできない。
不自然に見つめ合うオレたちに、周りから声がかかる。
「ライリー王太子殿下、こちらのご令嬢をご紹介いただけないでしょうか」
どこぞの国の、どこぞの貴族子息が頬を染めてオレに言う。
頬を染めるな。これはオレのだ。
そう言いたいのをグッと堪えて、口元に笑みを浮かべてオレは答える。
「彼女はわたしの妻、ボナールから嫁いできたシャーロット王女ですよ」
一瞬、しんと静まり返ったその場が、一斉にざわめき始める。
どういうことだ。
王太子は婚約者もいなかったのではないか。
王家の婚姻に式も挙げたと聞いていない。
ボナールとの縁は先ほど居た第一王女との婚姻ではなかったのか。
ええい。うるさい。
一番聞きたいのはオレだ!
だが、そんなことはおくびにも出さず、ロッテの耳元に唇を寄せる。
「ロッテ、みんなに挨拶して。シャーロットとして。できるね?」
ロッテはコクンと頷く。
「みなさま、只今ご紹介に預かりましたシャーロットにございます。以後お見知りおきを」
輝く笑顔と共に、見事なカーテシーが披露される。
その美しさにあちらこちらからため息が聞こえた。
しかし、その空気を壊す者がいた。
「まあっ、シャーロットなの? わたくしの可愛い妹、シャーロット。先にランバラルドに来て、わたくしを待っていてくれたのね」
セリーヌ王女がそう言いながら、ロッテに近付く。
「側妃という立場でありながら、このような場に出てきてくれてありがとう。正妃として嫁ぐわたくしを心配してくれたのね」
セリーヌ王女は微笑みながら、オレの手からロッテを奪って行った。
「シャーロット、この髪はどうしたの? やはり、あんなに嫌っていたアッシュブロンドを隠したかったのね。髪も染めてこんなにお化粧も厚く塗って。肌に良くないわ」
セリーヌ王女はまるでいたわるようにロッテの髪を撫で、頬を撫でる。
しかし、その真意はすぐに判った。
遠くからロッテに対する批判が聞こえる。
髪を染めた?
あぁ、ボナールの第二王女ね。見たことあるわ。
ボナールにいた頃はみすぼらしい王女だった、あのシャーロット王女なの?
なんでも、ボナール国王は美しくもない第二王女は表に出したがらなかったと噂だった。やはり、今見てる美しさは作り物?
何を言っているんだと、恫喝したかった。
でも、オレは彼らが噂する、ボナールの第二王女であったロッテを知らない。
この場をどう収めようかと思案している時に、ロッテが動き出した。
「セリーヌ様、ご冗談はおやめくださいませ。髪も染めておりませんし、お化粧も厚くはごさいませんわ」
ロッテはセリーヌ王女の手を離し、頬を染めて紹介をねだったあの、どこぞの国の貴族子息に近付いた。
「ねえ、そこの方、見てくださる?私の髪、染められているかしら?根元から髪の先まで見ていただけませんか?」
貴族子息の手に、自分の髪を乗せる。
「ほら、お顔も見てくださいまし。何をそんなに厚く塗っていると言うのでしょうか」
潤んだ瞳で貴族子息を見つめる。
「うっ、か、髪は染められた気配はありません。触っても色が落ちません。か、か、顔も、よく見ても厚く化粧されているとは、思えません……」
貴族子息は顔を真っ赤にし、汗をかきながらみんなに聞こえるように言った。
ロッテは振り返り、別の者に問う。
「あなたも、そちらのあなたもご覧になって? さあ、そこのご令嬢も。近くで見て、どちらが本当のことを言っているのか確かめてくださいな」
上目遣いに見つめられたら、どの子息も令嬢も、頬を染めてロッテを見つめている。
近くにいた子息が、ロッテが差し出す髪に手を触れようと伸ばしたところで、オレはロッテを後ろから抱き寄せた。
「失礼。これ以上、可愛い妻を他の男に触れさせたくないもんで」
その子息は残念そうに、伸ばした手を下ろした。
「噂は噂。これ以上我が妃を困らせないでいただきたい」
ロッテの腰を引き寄せ、オレはロッテとぴったりくっついた。
先ほど手を伸ばした子息から、声が掛かる。
「お妃様とおっしゃるのに、王族として式の発表がなかったようですが?」
オレはにこやかに答える。
「それは、我が国とボナールが戦争をしていたからですよ。まだ今も、戦争の傷跡が残る両国で、発表するには早いと思い、延期をしていただけです」
すると、周りの女性からの囁きが聞こえる。
許されぬ恋に身を焦がし、それがやっと身を結んだのね。
敵国の姫を思って一途にしていらっしゃった王子。
だから、ボナールは敗戦したにも関わらず、こんなに穏やかに復興していけるのか。
いいぞ。オレの話に、みんな乗ってきてる。
緊張していた頬を、オレが緩ませた時、余計な事を言う者がいた。
「では、セリーヌ王女とのご結婚の話は、なんだったんだ?」
22
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
噂の悪女が妻になりました
はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。
国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。
その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。
花言葉は「私のものになって」
岬 空弥
恋愛
(婚約者様との会話など必要ありません。)
そうして今日もまた、見目麗しい婚約者様を前に、まるで人形のように微笑み、私は自分の世界に入ってゆくのでした。
その理由は、彼が私を利用して、私の姉を狙っているからなのです。
美しい姉を持つ思い込みの激しいユニーナと、少し考えの足りない美男子アレイドの拗れた恋愛。
青春ならではのちょっぴり恥ずかしい二人の言動を「気持ち悪い!」と吐き捨てる姉の婚約者にもご注目ください。
こんなに遠くまできてしまいました
ナツ
恋愛
ツイてない人生を細々と送る主人公が、ある日突然異世界にトリップ。
親切な鳥人に拾われてほのぼのスローライフが始まった!と思いきや、こちらの世界もなかなかハードなようで……。
可愛いがってた少年が実は見た目通りの歳じゃなかったり、頼れる魔法使いが実は食えない嘘つきだったり、恋が成就したと思ったら死にかけたりするお話。
(以前小説家になろうで掲載していたものと同じお話です)
※完結まで毎日更新します
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!
山田 バルス
恋愛
この屋敷は、わたしの居場所じゃない。
薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。
かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。
「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」
「ごめんなさい、すぐに……」
「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」
「……すみません」
トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。
この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。
彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。
「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」
「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」
「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」
三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。
夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。
それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。
「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」
声が震える。けれど、涙は流さなかった。
屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。
だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。
いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。
そう、小さく、けれど確かに誓った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる