人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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最終章 人質でなくなった女王と忘れない王太子

20

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アーサーたちが馬車に荷物を詰め込み、離宮を軽く掃除して鍵を閉める。
次にここに来るのはいつだろうか。

いいえ。
他国の女王がランバラルドの離宮に来られることなんてそうそうないはず。
次は、そうね。
ライリー陛下の結婚式とかかしら。



カッティーニ宰相にご挨拶をして、馬車に乗り込もうとした時に、ギルバート様が慌ててやってきた。
「シャーロット、わたしに黙って帰るとは、いい度胸だな」
「何をおっしゃいますか。先ほどお会いして今日帰りますとお伝えしたじゃないですか」
「ふん。見送りもさせないとは、なんとも情の薄いことだ」
「まあっ、ギルバート様がお見送りしてくださるなんて、雨が降ってしまいますわ」
「なんて失礼なやつなんだ……。ところで、ライリーはどうした?」
ギルバート様はキョロキョロとあたりを見回し、カッティーニ宰相しか見送りがいないのを不思議に思ったようだ。
「ディリオン様のお話ですと、まだおやすみだそうですよ。昨日は大変お疲れになったようですから」
「なにっ、まだ寝てるのか。確かに昨日は最後の方、ブリキのおもちゃのような動きだったが、まだ若いんだから回復していてもよかろうに。呼んでくるから、少し待っていろ」

城に戻ろうとするギルバート様を止める。
「いえ、このまま帰ります。ライリー陛下によろしくお伝えください」
「なんだ。シャーロットはそれでいいのか?」
「はい。ライリー陛下のお幸せを、隣国ボナールよりお祈りしています。立派なお姿を見られただけで、満足しております」
「……そうか」

馬車の中からフレッド様が顔を覗かせる。
「シャーロットちゃん、もう行くよー」
差し出された手を取って、ギルバート様を振り返る。
「では、ギルバート様。ごきげんよう」
「ああ。シャーロットも元気でな」

扉が閉められ、馬車は出発した。




ランバラルドから帰国すると、すぐにいつもの日常が戻ってきた。
ご立派になられたライリー陛下を見ることができて、とても嬉しかったが、旅の疲れも取れないうちに仕事はどんどん湧いて出てくる。



そんなバタバタな日々を過ごし、夢のような戴冠式から数ヶ月。


今日も執務室で書類と格闘していると、フレッド様と叔父様の声が近付いてきた。
「この地域の税収がおかしいんですよね」
「そこはやってるだろ。脱税」
「やってるだろって言われても~」
ガチャ、とドアが開き、2人が入ってきた。

「シャーロットちゃんおはよー。早いね」
「おはようございます。フレッド様、叔父様」
「あぁ、おはよう」

フレッド様が席に座り、叔父様が書類を覗き込む。
「フレッド殿、このハートランド伯爵領、ここはしぶとい。ちゃんと使者を派遣した方がいい。そろそろ諸外国にも、内状がきちんとクリーンな国であることを示しておきたい」
「うーん。確実な証拠はないしなあ」
「多分、書庫をあされば数年前の資料のあたりで証拠とまではいかないがおかしな点が見つかるはずだ。あそこの伯爵は正妻の他に何人も愛人がいて、それぞれの愛人に大きな屋敷を与えている。そう大きな領地でもないのに羽振りがいいのを不思議に思い、調べさせたことがある」
「そうか。って、調べさせたのにどうして放置したんだよ」
「調べさせたすぐ後に、敗戦が決まって有耶無耶になったのだ」
「あー、そうか。そのあたりの年代なのか」
フレッド様が頭を抱えた。

「ひとまず、その時に調べた書類を探しておいて、見つかったら使者を立てよう」
フレッド様は、ハートランド伯爵領への立ち入り捜査を許可する書類にサインをし、「証拠が出てからだよ」と言って叔父様に渡した。

それを受け取り、叔父様も自分の机についたところで、執務室のドアがノックされた。

「はい」
叔父様がすぐに立ち上がり、ドアを開けて対応する。
ドアの外には、侍従が一通の封書を持って立っていた。
叔父様は封筒を受け取ってから、それを私に渡してくれた。



くるりと封筒を裏返すと、数ヶ月前に訪れたランバラルドからの封書であることがわかった。

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