もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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番外編 ローゼリア

30

わたくしがこの国に嫁いでから、20年が経った。

わたくしはこの20年、民を思い、懸命に自分のできることをやってきた。
我が国の福祉は、他国に比べて群を抜いて素晴らしいと言われるほどになった。
飢えで命を奪われる国民は、もういないと言っていいだろう。

息子リアムも立派に育ち、王太子として立太子した。
娘も厳しく育て、他人を思いやれる心優しい王女になった。

わたくしのできることは終わったのだ。

風が頬を撫でて行く。
ふと、風に揺れて視界に入る髪は、白いものがうっすらと混じっている。

歳をとったのは、使命を全うした証。

ほっと息をつき、いい天気の中、ガゼボでひとりお茶を飲んでいた。
陽射しを反射して、仮面がキラリと光る。

「ローゼリア」
ひょっこりと顔を出すのはレオン様。

「レオン様、どうかなさいましたか?」
「いや、久しぶりに2人きりで話ができたらと思ってね」
「そうですか」

少し離れた侍女に目線を送り、レオン様のお茶を用意してもらう。

レオン様はわたくしの向かい側の椅子に座った。

「きみが来た頃は、こんな小さな椅子には座れなかったなぁ」
「そうですわね。そして、いつも汗をおかきになってらして」

つい、思い出してくすくす笑う。

「あの時、がんばってよかったと思う。食べられないのは苦しかったが、少しずつ自分が細くなっていくのが嬉しかった。やればできるんだときみが教えてくれたんだ。勉強だってやればできる。まつりごとだって、勉強して知識を増やして。こうしてきちんと執り行うことができている。ローゼリア、きみのおかげだよ」
「ふふ。どうなさったのですか? 急にわたくしを褒めても、ケーキはお出ししませんよ」

食べることを我慢して痩せたレオン様だが、相変わらず甘いものはお好きなのだ。
普段は控えているが、子ども達が食べているのを、よく羨ましそうに見ていた。

「うん。あのさ、近々、ルーク殿がこの国にやってくるんだ」
「ルーク殿が来るのは、改めて言うことではないでしょう? ずっと、定期的に来ているではないですか」

「20年、経ったからって言ったらわかるかな?」

どきん。

わたくしの心臓が、激しく鼓動する。

「20年前、どのようにしてローゼリアがこの国に来たか、ローゼリアと結婚してから詳しく聞いた。あのように太っていて、王太子としての公務もまともにできない王子など、喜んで嫁いできてくれるわけないと思ってたから、ようやく腑に落ちたんだ」
「レオン様、」
「いや、いい。責めていない。だから、それからは一生懸命努力した。痩せたし、公務もがんばった。オレは、いい夫だっただろうか?」

寂しそうに笑うレオン様。

「そんな、レオン様はとてもいい旦那様でした。そして、とても素晴らしい王様です」
「そうか。ありがとう」

言葉とは裏腹に、レオン様から寂しそうな表情は消えない。

「レオン様?」
「それでね、20年経ったけど、ローゼリアはどうするのかなと、それが聞きたかったんだ」
「え……」

レオン様はティーカップを受け皿に戻す。

「戻れるんだよ。きみの産まれた国に。父上と兄上が住まう祖国に。きみががんばったから、母上も許されて祖国に戻れることになったと聞いている」

真剣に、わたくしの目を見るレオン様。

「きみも、ローゼリアも、祖国に帰れる。そうしたら、きみは祖国に帰るのだろうか」


祖国に、帰れる。
家族に会える。

20年前なら、喜んですぐに帰っただろう。

けれど、今は……。






*****************




次回、最終回です
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