もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

文字の大きさ
53 / 255
6章 再生

1

しおりを挟む
たぷん。

温かい水の中に、わたしはいた。

まだひとつの塊。
手も足もない。

嬉しい。
これで、また×××に会える。

十月十日とつきとおか、わたしは姿を変えてゆく。

手を作り、足を作り。
ああ、どうせならまた女の子がいいな。
×××に会う時は女の子でいたい。





温かい水の外で大きな声が聞こえた。
「奥様、がんばってください! ほら、もう少しで産まれますよ!」

わたしはくるくると回って現世へ向かう。
それまでの温かい優しい水の中とは違い、とても苦しい。
でも、わたしは外の世界に出たい!

おぎゃーおぎゃー

水の中から出て、空気に触れる。
口からいっぱい空気を吸い込む。
また×××に会えると思うと、嬉しくて泣くほど嬉しくて、力いっぱい泣き声をあげた。

「奥様、可愛い女の子ですよ」

わたしは優しい手に抱かれ、温かい誰かの胸の上に顔を埋めた。

「はじめまして、赤ちゃん」

何かがわたしに頬擦りをした。




はっきり見えない視界に、優しそうな女の人の顔が映る。
おっぱいを飲ませてくれるから、この人がわたしのお母さんだ。

こくこくとおっぱいを飲みながら、顔を見上げると、女の人は幸せそうに微笑んだ。

すぐ近くから、男の人の声がした。
「フィーナ、よくがんばった。オレたちの子どもを、無事に産んでくれてありがとう」

そちらに目を向けるが、まだ視界が不明瞭で、少しでも離れているものは見えない。
なので、今は声だけ聞いておくことにして、お腹を満たそう。

「あなた、赤ちゃんの名前は考えてくれた?」
「あぁ、もちろんだとも! オレの名前のニルスと、フィーナの間を取ってニーナにしようと思う」
「ふふっ。ニーナちゃん。可愛い名前ね。よろしくね、ニーナ」

こうして、わたしの名前はニーナに決まった。

何か、聞き覚えのある響きだった。




しばらくして、寝返りとハイハイができるようになった。
ハイハイで動けたとしても、赤ん坊であるわたしの世界は狭い。

ベビーベッドとベビーサークルが、わたしの世界の全てだ。

「あー、ぶ?」
舌も発達していないので、言葉もうまく喋れない。

「あー……、ふ、ふぎゃーっ、あーん」
わたしがベビーサークルの柵を掴んで泣くと、お母さんがすぐにわたしのところへやってきてくれる。

「あらあら、オムツなの?」
お母さんは優しく抱き上げて、わたしをベッドに下ろし、オムツを変えてくれる。

暖かな部屋。
清潔なベッド。
優しいお母さんとお父さん。

わたしは間違いなく幸せなのだが、でもどうしても何か足りない。
いつもそれを探してキョロキョロするが、わたしの狭い世界の中にはないようだった。

オムツを変えてもらってスッキリし、きゃっきゃと笑うわたしをお母さんが満足そうに見ていると、お父さんが部屋にやってきた。

「あれ? まだ支度できてないのか?」
お母さんは時計を見てびっくりする。
「あら、もうそんな時間? 急いで支度するわね」

パタパタと部屋を出て行ったお母さんは、よそ行きの洋服を着て、部屋に戻ってきた。
おくるみで大事そうにわたしを包むと、お父さんのところへ向かう。

「あなた、支度ができたわ」

お母さんがそう声をかけると、お父さんとお母さんとわたしの3人で馬車に乗り込んだ。

馬車が着いたところは、教会だった。

教会内に入って行くと、見覚えのあるおじさんがお母さんの腕の中のわたしを覗き込んだ。

「この子が今日、魔力診断をする赤ちゃんですね。では、こちらへどうぞ」
お父さんとお母さんは、おじさんの後について行った。

教会の奥の部屋にの真ん中に、大きな水晶玉が置かれていた。

「この水晶にお子さんの手を乗せてください」

おじさんにそう言われて、お母さんが水晶に近付き、お父さんがわたしの手を水晶に乗せた。

じっと、水晶を見ていると、水晶の中に若草色の煙のようなものが現れ、くるくると回って円を描いた。

「お嬢さんは風の魔力にお持ちのようですね」
おじさんにそう診断されて、手を離そうとしたその瞬間、一瞬だけ水晶が光った。

「え?」
おじさんは水晶を覗き込む。
「光の……? いや、あれだけはっきりと水晶が渦を巻いていたんです。お嬢さんは風の魔法使いです」

わたしはおじさんが「光」という言葉を発した瞬間、記憶をフラッシュバックさせていた。


"光の魔力を持つ者だけは、望まれて魔法を使うことがあります"

わたしはこの人にそう言われたことがある。
この人がもっと若い時。
……若い時?

×××に初めて治癒魔法を使った時だ。

あぁ。
よかった。思い出せた。

思い出せたことに安心したわたしはとても眠くなって、そのまま眠ってしまった。

赤ちゃんの体は、とても眠くて困る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

処理中です...