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8章 記憶
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あの夜以降、ルーク様との距離が近い気がする。
わたしとサリーさんは、ルーク様に呼ばれたらすぐに行けるように、ルーク様のお部屋の近くで仕事をしていることが多い。
今日のわたしの受け持ちは、ルーク様のお部屋のある、二階の階段から廊下のお掃除だ。
一生懸命、窓ガラスの拭き掃除をしていると、ルーク様が侍女を呼ぶベルの音が聞こえた。
この時間、サリーさんはフランクさんと打ち合わせだし、わたしが行かなければいけないので、掃除の手を止めて、ルーク様のお部屋に向かった。
「ルーク様、お待たせいたしました。何かご用意でしょうか?」
腰を折り、礼をしてから顔を上げると、ルーク様はジャケットを羽織り、出掛ける用意をしていた。
「これから街に出る。ついて来い」
「え、ええーっ! 困ります。まだお掃除も途中で……」
「そんなものは帰ってからでいいだろう。この館の主人が後ででいいと言っているんだ。後にしろ」
ルーク様、横暴……。
かと言って、逆らうことも出来ず、一度掃除用具を片付けて、わたしはルーク様について別棟を出て行った。
馬車に揺られて街まで出る。
馬車の中で、ルーク様にどこへ行くのか尋ねた。
「最近、この国に出店した"パルフェ"という店に行く」
「パルフェ、ですか? 最近話題になってるお店ですね。食べると恋が叶うクッキーを売っているという。えーと、どこかの国で有名なお店だったのが、我が国にも出店したと、とても話題になってますけど……。恋が叶うクッキー買うんですか?」
まさかと思いながら聞くと、ルーク様は横を向いた。
でも、耳が赤くなっているのがわかる。
「……恋が叶うクッキー買うんですね……」
乙女か!
「オ、オレが買いたいと思っているわけではないぞ。罰ゲームで買わなければならなくなったんだ」
「罰ゲーム、ですか?」
「オレの所属している討伐隊の副隊長が、剣がものすごく強くてな。剣術ではオレも二回に一回は負けている。それで、この間ちょっとムキになって、副隊長と剣の試合をしたら、二回のうちの一回に当たってしまい、負けたんだ。その罰ゲームで、女の子で激混みの店で、名物クッキーを買って来いと言われたんだ」
ルーク様は耳を赤くして、そっぽを向いたまま、わたしに説明をした。
負けてしまったのは残念だけど、罰ゲームをかけて試合ができるなんて、きっとルーク様と仲の良い人なんだわ。
そう思うと、自然と顔が緩んだ。
ルーク様はわたしの顔を見て、眉をピクリと動かす。
「なんだ、楽しそうに笑って。オレが負けたのが、そんなに嬉しいのか」
「いえ、そう言うわけではないんですけど……。ただ、ルーク様が仲の良い人がいるようで、嬉しいなと思いまして」
ルーク様はわたしの言い訳に納得したわけではなさそうだったが、馬車が店の前に着いたので、その話はそこで終わりになった。
「降りるぞ。ああ、ニーナはそのお仕着せのエプロンを取って馬車に置いて行ってくれ」
わたしは言われたように、エプロンをはずして馬車の座席に置いた。
「さあ、あの人混みに特攻するぞ」
まだ、店先までも到着していないのに、遠目で店の外まで並ぶ女の子たちを見て、早速ルーク様は疲れ切った表情をしていた。
わたしとサリーさんは、ルーク様に呼ばれたらすぐに行けるように、ルーク様のお部屋の近くで仕事をしていることが多い。
今日のわたしの受け持ちは、ルーク様のお部屋のある、二階の階段から廊下のお掃除だ。
一生懸命、窓ガラスの拭き掃除をしていると、ルーク様が侍女を呼ぶベルの音が聞こえた。
この時間、サリーさんはフランクさんと打ち合わせだし、わたしが行かなければいけないので、掃除の手を止めて、ルーク様のお部屋に向かった。
「ルーク様、お待たせいたしました。何かご用意でしょうか?」
腰を折り、礼をしてから顔を上げると、ルーク様はジャケットを羽織り、出掛ける用意をしていた。
「これから街に出る。ついて来い」
「え、ええーっ! 困ります。まだお掃除も途中で……」
「そんなものは帰ってからでいいだろう。この館の主人が後ででいいと言っているんだ。後にしろ」
ルーク様、横暴……。
かと言って、逆らうことも出来ず、一度掃除用具を片付けて、わたしはルーク様について別棟を出て行った。
馬車に揺られて街まで出る。
馬車の中で、ルーク様にどこへ行くのか尋ねた。
「最近、この国に出店した"パルフェ"という店に行く」
「パルフェ、ですか? 最近話題になってるお店ですね。食べると恋が叶うクッキーを売っているという。えーと、どこかの国で有名なお店だったのが、我が国にも出店したと、とても話題になってますけど……。恋が叶うクッキー買うんですか?」
まさかと思いながら聞くと、ルーク様は横を向いた。
でも、耳が赤くなっているのがわかる。
「……恋が叶うクッキー買うんですね……」
乙女か!
「オ、オレが買いたいと思っているわけではないぞ。罰ゲームで買わなければならなくなったんだ」
「罰ゲーム、ですか?」
「オレの所属している討伐隊の副隊長が、剣がものすごく強くてな。剣術ではオレも二回に一回は負けている。それで、この間ちょっとムキになって、副隊長と剣の試合をしたら、二回のうちの一回に当たってしまい、負けたんだ。その罰ゲームで、女の子で激混みの店で、名物クッキーを買って来いと言われたんだ」
ルーク様は耳を赤くして、そっぽを向いたまま、わたしに説明をした。
負けてしまったのは残念だけど、罰ゲームをかけて試合ができるなんて、きっとルーク様と仲の良い人なんだわ。
そう思うと、自然と顔が緩んだ。
ルーク様はわたしの顔を見て、眉をピクリと動かす。
「なんだ、楽しそうに笑って。オレが負けたのが、そんなに嬉しいのか」
「いえ、そう言うわけではないんですけど……。ただ、ルーク様が仲の良い人がいるようで、嬉しいなと思いまして」
ルーク様はわたしの言い訳に納得したわけではなさそうだったが、馬車が店の前に着いたので、その話はそこで終わりになった。
「降りるぞ。ああ、ニーナはそのお仕着せのエプロンを取って馬車に置いて行ってくれ」
わたしは言われたように、エプロンをはずして馬車の座席に置いた。
「さあ、あの人混みに特攻するぞ」
まだ、店先までも到着していないのに、遠目で店の外まで並ぶ女の子たちを見て、早速ルーク様は疲れ切った表情をしていた。
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