もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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8章 記憶

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この頃、わたしは充実した日々を送っている。

侍女としてディヴイス家で忙しく働きながらも、ルーク様に会うことができるから、毎日が楽しくて仕方ない。

身分が違うので、前世まえのような触れ合いはできないけれど、成長して大人になって、元気でいるルーク様が見られるだけで、とても幸せだ。
記憶がなければ、見ることのできなかった風景。

でも、わたしがそこに混ざることはない。

別棟の庭も、少しずつ花が咲き始めた。
わたしがルーク様に見てもらいたくてお世話した花たちだ。
わたしが庭の掃除をしだしてからは、庭師も植物たちの手入れをしてくれているので、わたしがお世話した花たち以外も、ポツポツと花が咲いたり木々が青々と繁ったりしている。

やっぱりお庭はこうでなくっちゃ。

庭の掃除が終わり、噴水を眺めながら庭全体を見ると、嬉しくなった。
あの頃のお庭に戻ったかのようだ。

ちょうど休憩時間になったので、庭の隅、木陰に座り休憩を取ることにした。
誰も来ないから、ここで休んでもいいよね。
見つかったら、きっと怒られるけど、端っこだし見つからないよね。

木に寄りかかり、空を見上げる。

いいお天気。
風も爽やかで、心地いい……。


わたしはそのまま、そんな気は全然なかったのに、居眠りをしてしまった。


こんな心地よい気分の日は、決まってあの頃の夢を見る。
楽しそうにしている子供の頃のルーク様。
お母様。お父様。お兄様。お姉様。
大好きな人たちに囲まれて、幸せだった日々。

くうくうと寝ていると、誰かに名前を呼ばれた。

「おい、ジーナ。こんなところで寝るんじゃない。まったく、おまえと言うやつは」

この声はお兄様だわ。
ああ、まだ夢が続いているのね。

「うるさいです。お兄様だって、よく居眠りするじゃないですか」

重くてまぶたが開かなくて口だけで反論すると、息を呑むような息遣いが聞こえる。
その息遣いだけが、夢の中で妙にリアルだった。

ああ、起きなきゃ。休憩時間が終わってしまう。

重い重いまぶたを開けると、そこは居眠りする前と寸分違わずのどかな庭があった。
エプロンのポケットから時計を出して時間を確認すると、まだ休憩時間内だったのでほっとする。

さあ。次の仕事に行かないと。

わたしは立ち上がり、パンパンとスカートについた草を払ってから、別棟に戻った。

いつものように、屋敷内の掃除をしようとすると、サリーさんが慌ててわたしに声を掛ける。
「よかった、ニーナ。手伝ってもらいたいんだけど、ちょっと来てくれる?」
「サリーさん、どうかなさいましたか?」

足早に歩きながら、サリーさんは説明をする。
「急にルーク様がお帰りになられて、別棟の執務室で会議をなさるというの。討伐隊の方も何人かいらしているから、お茶の用意が必要なのよ」

それからわたしとサリーさんは、厨房で人数分のお茶と軽食を用意して、ルーク様の執務室へと向かった。


ワゴンに用意した物を乗せて、執務室へと赴く。

コンコン。
「入れ」
短くルーク様の声がして、サリーさんがドアを開けると、執務室の広い丸テーブルに、ルーク様含め6人の隊服を着た男の人が座って会議をしていた。

この執務室はたまにお掃除に入るが、そんなに広くはない。
窓側にルーク様の机があり、その左側には書棚。
右側には4人がけ用のソファセットがあり、反対の左側に打ち合わせ用の丸テーブルが置いてある。
それだけで部屋の中はいっぱいだ。

狭いところなので、ワゴンは入り口に置き、トレーにお茶と軽食を乗せて配膳に丸テーブルまで行く。

サリーさんが一人一人にお茶を置き、わたしがその横に軽食を置いて行く。

会議に出ている人の顔を見ずに置いて行ったが、ふと視線を感じて顔を上げると、さっき夢に出てきたお兄様が、夢とは違い大人になった顔付きでわたしを見ていた。

わたしは平民なので、気安くお兄様に声を掛けたりはできない。
何か用があるのか聞きたくても、聞けないのだ。

そのまま、何事もなかったように、サリーさんと給仕を済ませて部屋を出て行った。
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