もう一度あなたに逢いたくて〜こぼれ落ちた運命を再び拾うまで〜

雪野 結莉

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16章 討伐前

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「泊まるって、どういうことですか? わたし、サリーさんに外泊するって言ってないです。わたしの帰りを待って、使用人棟の鍵を掛けられずに、待ってしまうかもしれません」

戸惑うわたしをよそに、ルーク様は階段を上がって二階の一番奥の部屋へとわたしを連れて行く。

「大丈夫だ。本館の使用人に夕刻を過ぎたら別棟へ伝言をするように言ってある。今日は帰らないので、別棟も使用人棟も、オレと侍女の帰りを待たずに鍵をかけるようにと」

なんて用意周到! じゃなくて!

「ルーク様、もしかして遅くなったから帰れないとかじゃなくて、最初からそのつもりで……」
「もちろんだ」

もちろんだ。 じゃない~!!

「あの!」
「ほら、今夜はこの部屋で休むことにするぞ。おまえが持っている荷物も置くといい」

いや、わたしが持っているのはお昼用のバスケットだけですけど。

顔を上げて部屋を見回すと、とても広いお部屋で、手前に使用人がお世話をするためのスペースがあり、そのための荷台があったのでそちらへバスケットを置いた。
その奥にはソファセットが置いてあり、更に奥にはドアが二つ並んでいた。

デイヴィス家と同じ造りであれば、一つはトイレ、洗面所などへと繋がるドアで、もう一つは寝室だろう。

わたしが荷物を置くと、ルーク様はわたしの腰を抱いてそのままソファに腰掛けた。

「ルーク様、おくつろぎのところ申し訳ありませんが、この状況についてお聞きしたいのですが!!」
わたしがルーク様の方へ勢いよく向くと、ルーク様はわたしの勢いそのままに、ちゅっと頬にキスをした。
「~~~!! ルーク様!」

わたしの顔はおそらく真っ赤だろう。

「そう怒るなよ。せっかくジーナとまた過ごせると思ったのに、朝から演習場に行き、帰ってきたらニーナは使用人として働いてしまう。唯一、二人でゆっくりできるのは晩餐の時だけだが、ニーナは疲れて食事をしながら居眠りすることもあるほどだろう?」

……まあ、たまに、少し、こっくりとしてしまうことは嘘ではない。

「討伐が近いから、それも仕方ないとは思っている。しかし、どうしても討伐前にニーナとゆっくりしたかったんだ」

至近距離でわたしの目を見ながら、しゅんとしてルーク様がそう言うと、なんとも言えなくなる。

「……でも、それなら事前に言っておいて欲しかったです」
「フランクとサリーが反対しなければ、オレも前もって言えたんだがな」

フランクさんとサリーさんはわたしの保護者のように接してくれる。
二人で泊まりなど、ルーク様が思うように反対されただろう。

「わかりました。ルーク様、では、ちゃんと旅行を楽しみましょう」
わたしが腹を括ってそう言うと、ルーク様は嬉しそうに表情を緩める。

「うん。ニーナ、ふたりでゆっくり過ごそう」
そして、わたしをぎゅっと抱きしめる。

その雰囲気はいつものルーク様ではなく、昔の、わたしがいなくなる前の12歳のルーク様のようだった。


「ルーク様、早く言ってくだされば着替えも持ってきましたのに。外で一日遊んだ後で、埃っぽいのに着替える服もありません」
少し汗もかいているので着替えたいと思ったけど、服もないと思い当たり、ちょっとルーク様に文句を言う。

ルーク様はパッとわたしから離れて、にっこりと笑う。
「心配するな。クローゼットにニーナが着る服は用意してある。オレも着替えてくるから、着替えたら食事にしよう。隣の部屋で着替えて来るから、着替え終わったらここで待っててくれ」

「着替えがあるのですか? ありがとうございます。助かります」

クローゼットは寝室のまた奥にあるようで、わたしを寝室へ送り出すと、ルーク様は手を振って隣の部屋へと消えて行った。

わたしは寝室へのドアを開けて中に入る。

寝室もまたかなり広いお部屋になっていて、真ん中には天蓋付きのキングサイズのベッドが鎮座していた。

……ここ、この別荘のVIPルームじゃないかしら……。
わたし、このお部屋使わせてもらって大丈夫なのかしら。

不安になったけど、ルーク様はすでにここに居ないし、本来ゲストが来たらお世話をするメイドも見かけない。
メイドはきっと、ルーク様があまり来ないように言っているんだろう。
玄関で迎えたメイドも、そそくさと消えてしまったし。

わたしはルーク様に言われたように、寝室の奥の扉に手を掛けた。
そこはクローゼットになっていて、何着もの服が納められていた。

ふと、思うことがあっていくつかの服を手に取る。

ドレスが数着、普段着に着るようなワンピースが数着掛かっていたけど、どれもジーナであったわたしが好んで来ていたようなデザインだった。

さっきのルーク様の話し方といい、前世が思い出されて、胸が締め付けられる。
それが、嫌だと言うわけではなく、わたしのことをここまで覚えていてくれたルーク様の気持ちに、胸が痛くなったのだ。

着替えは何を着ようかな。
食事にしようと言っていたから、晩餐用のドレスでいいのかな。
今のわたしは平民だけど、今だけは、子爵令嬢だった頃のような装いをさせてもらおう。

舞踏会に行くようなドレスではないので、一人でも脱ぎ着できる。

クローゼットにあったドレスの中で、一番目についた黄色のドレスを手に取った。

少し胸のあたりが開いているけれど、腰からふんわりと白いレースが縫い付けられていて、可愛いものが好きだったジーナの好みのデザインだ。
もちろん、ルーク様の髪色にも合っている。

ドレスを着て、それに合わせて髪も結い上げる。
当然、一人でやるので夜会巻きは無理。
緩やかなハーフアップにした。

ちょっと時間がかかってしまったかと、慌てて先程の部屋に戻ると、白いシャツにクラバット、紺のトラウザーズに身を包んだルーク様が、悠々とソファに腰掛けてこちらを見つめていた。

わたしと目が合うと、スクッと立ち上がり、こちらにやってくる。
その姿は、絵本の中の王子様のようだった。

「あ、お待たせして申し訳ありません」
一瞬見惚れてしまったわたしだけど、すぐに我に返りルーク様に頭を下げた。

ルーク様はクスリと笑い、わたしの手を取る。
「オレは、女性の支度に時間がかかることを知らないほどもう子どもじゃないよ。ニーナ、一緒に用意しておいたアクセサリーはつけなかったの?」
「えっ?」

あ、平民暮らしが長くて忘れてた!
ドレスにアクセサリーは必須だった。

「すみません。気が付きませんでした……」
「ははっ、いいよ、別に。アクセサリーがあってもなくても、ニーナの魅力は損なわれないし、今日は使用人にも控えてもらっているから、誰に見られるわけでもないしね。でも、ちょっと待ってて」

ルーク様は寝室に入って行き、寝室の中にあるドレッサーの上の小箱を開けて、何かを手に持ってきた。

「これだけは付けてくれる? オレの瞳の色のエメラルドで作ったネックレスだ」

ルーク様はわたしの後ろに回ると、そのネックレスをつけてくれた。
そして、手を差し出して腰を折る。

「さあ、オレのお姫様。晩餐に行きましょう」

童話の王子様のようなルーク様にドキドキしながら、わたしはルーク様の手を取った。
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