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第4章
169 ハッピーバースデー!
しおりを挟む「──あと五分だな!」
「……そうだね」
俺と秋風はソファに横並びになり、何をするでもなくただひたすら壁の掛け時計をじーっと見つめている。
この時間は、待ちの時間だ。
何を待っているかと言えば──、日付が変わるのをである。
数時間前。俺が秋風の家にひと足先にお邪魔して明日の料理の仕込みをしていた時、ちょうど家主が帰ってきた。
しかもありがたいことにオススメのお店のテイクアウトを買ってきてくれていたから、それを食べて、二人で夜ご飯を終えた。
それからそれぞれお風呂に入り、少しのんびりして、今に至る。
あと五分で日付が変わり、二十九日になるところだ。
「……」
二十九日……すなわち、秋風の誕生日。
秋風の誕生日が来るのを、今か今かと待っているのだ。
「まだかな~まだかな~」
ぶらぶら足を揺らして楽しみにしていたら、隣の秋風が不思議そうに呟いた。
「……。……俺、こんなに自分の誕生日をじっくり待ったのは初めてだ……」
「! まじか!? 秋風の初めてゲット!!」
「……ッ──……!!」
なぜだか突然、秋風がゴホゴホと咳こみ始めてしまった。大丈夫だろうか。
「……!? 寒いか!?」
「う、ううん……、大丈夫だよ……」
「痩せ我慢は良くないぞ……!?」
俺は自分の太ももの上にあったブランケットを持ち上げ、秋風をぐるぐる巻きにした。
明日の主役が風邪でもひいちゃったら大変だ。
「これでよしっと……!」
「ごめん、ありがとう……。波青は寒くない?」
「ん! 俺は暑がりだからへーき! お前は弱っちいからあったかくしな!!」
「……ふふ。分かった」
秋風が吹き出している。……なんだろう。弱っちいのはお前だよとか思われてるんだろうか。
まあそれはそうだから、いっか。
「……! あっ! あと三分だ!」
ワクワクが抑えきれなくなってきて、俺は一人で勢いよく立ち上がった。
「残り三十秒になったら、カウントダウンしよーぜっ」
「? カウントダウン……?」
秋風は呆然と俺を見上げ、首を傾げている。
「まだ新年じゃないけど……」
「それくらい分かっとるわ!! ハッピーニューイヤーレベル、いやそれ以上にめでたいじゃん、誕生日は! それに、ちゃんとぴったりにおめでとうって言いたいしな……!」
「……? えっと……、ぴったりに言ったら、どうなるの?」
「どうもしねーよ!? でも……なんか楽しい!! 楽しいからぴったりにするんだっ!」
「……そっか。そういうものなんだ……」
くすりと笑った秋風が、膝の上で手を組んだ。
「波青が言うんなら、きっとそうなんだろうな」
「うわ……ップレッシャーかけるのやめろ……!」
どうしよう。期待したより楽しくないなとか思われたら。
(ハードル上げられるの困るぜ……)
俺は目を泳がせて焦りながら、秋風の前にビシッと人差し指を突きつけた。
「そ、そうだ! さっきも言ったけどお前、俺が言うまでスマホは見ちゃダメだぞ!?」
「うん。見ないよ。波青の言う通りにするよ」
「よし!!」
なんで禁止にするかと言うと、『おめでとう』の一番乗りを誰にも譲りたくないからだ。
秋風はモテるし──恋愛感情問わず、人間全般にだ──年に一回のこいつの特別な日を一番にお祝いして記憶に残ろうと思ってる人は絶対多い。
──まず、気をつけるべきはごちゃまぜのメンバーだ。
ごちゃまぜはメンバーの誕生日が来ると、グループトークでお祝いする習慣がある。
特に夕陽さんはマメな人だから、ほぼ毎年どのメンバーにも零時ぴったりにお祝いメッセージを送ってくれる。
そして桃星に関しても、秋風の時だけは零時ぴったりだ。しかもものすごい長文。俺や珀斗の時は『おめー』の一言で終わるのにな……。
(……それに、ごちゃまぜだけじゃなくて……)
ライバルは無数に存在する。
SNSを見ていて、えっ秋風この人とも仲良かったのか──、──んん!? そ、そことも!? って驚いた回数はもう数え切れない……。
同業の配信者はもちろん、とてつもなく気難しいと評されている司会者や、顔出しNGで誰とも会わないし連絡先も交換しないらしいポリシーの歌手や、強面で寡黙な大御所俳優だって、いつの間にかみんな秋風のお友達の一人に変貌していた。その他も、モデル、ラジオパーソナリティ、スポーツ選手、アナウンサー、アイドル、作家、……いやバラエティ豊かか! どこで繋がってくるんだよ。一度でも共演したらマイメンになるのか? どういうシステム?? 頭が痛くなる。
雑誌を見ていても、ありとあらゆるいろんな人が『最近ごちゃまぜのアキくんと仲良くさせてもらっててー』とインタビューで語るものだから、いやこいつの体何人分あるんだよ、いつの時間で遊んでるんだよと恐ろしくなってしまうほどの交友関係の広さだ。
(し、しかし……!! 諦めるな。水無瀬波青。いかにライバルが多かろうが、今年は俺が一番を貰うんだ……!)
実際、今秋風の目の前には俺しかいないし、『物理的に距離が近い』というアドバンテージがある。誰にも負けるものか。
(よしっ……!)
俺は決意を新たにすると、改めて時計の針を凝視した。
(お……! あと三十秒……!)
睨んでいる間にもう少しの時間になったから、さっそくカウントダウンを始めることにした。
「さんじゅう! にじゅく、にじゅはち、にじゅななな、にじゅろく」
「大変じゃない……? それ」
全部言葉にし始めた俺に、秋風がぽかんと瞬きして聞いてくる。
俺は無言で首を横に振ることで答え、秋風を気にせず続けた。
「にじゅご、にじゅよん、にじゅさんー」
「……」
「にじゅに、にじゅーいち、にじゅう……」
だんだん飽きてきて、手持ち無沙汰だ。
俺は少しでも盛り上げようと、手を後ろで組み、体をゆらゆら横に揺らしながらリズムよく数えた。
「じゅーく、じゅうは~ち、じゅうなな~~」
「……お歌の発表会?」
「静かにしろ!!」
秋風に茶々を入れられたせいで、数字が飛んでしまった。なんてことだ。
「あーもー! お前のせいで中断しちゃったじゃんか……!!」
「っごめん、つい……」
あっまずい。くだらない言い争いをしている場合ではなかった。
(あと五秒だ……!)
俺は時計をチラ見し、急いでカウントダウンを再開させた。
「ごー……! よん、さん! にー、いち……!」
その瞬間、即座にポケットに手を突っ込む。
「──誕生日おめでとーー!!!」
パーーーーン。
俺はポケットに隠し持っていたクラッカーを取り出し、天井目掛けて思い切り紐を引いた。
(うひゃあああ~~……!!)
軽快な破裂音がして、色とりどりのキラキラテープが宙に舞っていく。
人の家を散らかしたらいけないと思い、本体と繋がっていて飛び出るだけのやつを用意した。だからテープは床には落ちず、俺の頭の上に降り注いできた。
「なははは……! おもしれ~!」
なんという爽快感だ。
(クラッカーなんて誰かの誕生日でもなければ鳴らせる機会ないもんなぁ……)
レア感があってすごい楽しい。ストレス発散にもなるし。
(……ただ……、邪魔だな……!)
俺は頭をぶんぶん振って視界を遮るメタルテープを跳ね除け、秋風を見た。
「……!」
そういえば、一人だけ楽しんで肝心の主役を放ったらかしにしてしまっていた。
「なっ! 楽しかっただろっ!?」
目が合った秋風に、なんとかゴリ押しで聞いてみる。
「……」
音がうるさかったのだろうか、秋風は辛そうに目を細めながら返してきた。
「すごく、綺麗……」
「…………!?」
(……綺麗ッ!?)
まさかそうくるとは。思わぬ回答だ。
(綺麗、ってことは……楽しくはなかったってことか……??)
クラッカーのキラキラテープの光景を綺麗だと気に入ってもらえたのは嬉しいけれど、楽しませてあげられなかったのは残念だ。
「……綺麗、か……なるほど…………」
「……!! そ、それに、見ていてとても楽しかった……!」
がっかりと肩を落としている俺を見て心配したのか、秋風が慌ててフォローしてくる。優しい奴だな。
「……ほんとか?」
「うん……!」
問えば、大きく頷いてくれた。
「俺、自分の誕生日がやってくる瞬間をこんなにも新鮮な気持ちで迎えられたのは人生で初めてだよ。今まで特に特別な日だとは思っていなかったから……」
秋風はそう言って柔らかく微笑み、首を傾げてきた。
「波青に一番に祝ってもらえて、すごく幸せで……今日が急に、一年で一番特別な日に変わったよ。わざわざ俺のためにこんな時間まで起きていてお祝いをしてくれて、本当にありがとう」
「……っ……そ、そうか……! それは良かった……!!!」
俺は秋風のその儚げな笑顔と真っ直ぐな言葉にドキッとしてしまい、言葉を詰まらせながら首をかいた。
照れくさいから話を変えよう。
「ってか、こんな時間までって、まだ日付超えたばっかだぞ!? 全然まだまだじゃんか!」
「でも……波青はいつも規則正しい生活をしているから、早く眠るでしょう? こんな時間まで起きているのはレアで、相当辛いんじゃないかなって……」
「そ、そんなことねーよ! 子供じゃないんだから! 俺だって、夜更かしくらいできるし……!」
全く、秋風は人をなんだと思っているのか。
(…………うん。でも、正直当たってるな…………)
双子が小さい頃合わせて一緒に早く寝ていたせいか、早寝するのは習慣になってしまっている。遅い時間になるとすぐ眠くなっちゃうし、俺は夜更かしがかなり苦手だ。
ただ、ゲームをやっている時だけは脳が興奮状態になるのか、二十四時間寝ないでも平気だったりするんだけど……。
ゲーム以外だと、俺が深夜まで起きていられることはほぼほぼない。
(秋風って、本当俺のことをよく見てるよなぁ……)
「……」
「……?」
(もし俺に関するクイズ大会があったら、本人より答えられそうな……)
思わずじーっと眺めていたら、秋風が不思議そうに口角を上げた。
「どうかした?」
「! な、なんでもない……!」
俺はなんだかくすぐったい気分になりながら、そそくさと秋風の隣に戻った。
「えっと……! そ、そうだ、プレゼント! 誕生日プレゼントは、明日のお楽しみな!」
再びソファに座り、俺は秋風を見上げて続けた。
「あ、いや、明日じゃなくて、もう今日かっ! 今日の夜だ! だから今は渡せないんだぞ」
「うん。ありがとう。俺がリクエストしたやつだよね。夜のそれを楽しみに、日中の仕事を頑張るよ」
「おう! 任せろ!! 仕事頑張れ~!」
(……むふふ……)
リクエストしたやつ? ──違う。
(秋風め、自分が希望した手料理だけが俺からのプレゼントだと思っているみたいだな……)
俺は横を向いてこっそりとほくそ笑んだ。
(くくくく……っそれだけじゃないんだぜ!!!)
実は料理以外にも、秋風へのプレゼントを用意している。
まず、告白の時に渡す用の花束!
やっぱり、花束がないと告白って感じがしないしカッコつかない。これは必須だ。
お花屋さんにはもうオーダーしてあるから、明日の昼間……じゃなくて、もう日付変わったから今日か。今日の昼間、受け取りに行く。
それから、大きめの観葉植物もプレゼントする。これはもう買ってあって、秋風が与えてくれた俺の部屋に隠し済みだ。
秋風の家は綺麗だけど、どこか殺風景だから、緑があったら全然違うんじゃないかなと思うのだ。
(観葉植物も告白の時に渡して、『この木に毎日一緒に水をやって、二人で育てよう』って言うんだ……!)
──これからも一緒に暮らそう、お試し期間が終わってもお前のそばにいさせて、って。
(くう~~~!! 我ながら、キマった……!! 良い!! 良いぞ!!! こんなん秋風も俺にときめいて、『な、波青…………一緒に水をやろうだなんて、そんな口説き方、どこで覚えたの? か、かっこいい……。かっこよすぎる。波青が世界で一番男前だよ』とか言ってくれちゃったり、なんかして……!!?)
「……、波青……? どうかした?」
「──いいいいいや!? どうもしてない……!!」
今日の夜の告白が大成功した場合を妄想して思わずニヤニヤしていたら、訝しまれてしまった。
「そう……?」
「そ、そんなことより、本当にめでたいよなっ! お前、ついに二十五歳か……!」
俺はから笑いして誤魔化し、秋風に向かってパチパチと拍手をした。
「……うん。今は俺の方が年上だね」
秋風は俺を見て可笑しそうに笑い、指で自分の口を隠した。いつもいつも上品な仕草が様になっていてすごい。清楚って感じで好きだ。
「なんだか波青がいつもより幼く見えてきたよ」
「たった一ヶ月の差だろ! どんなだよ!」
「はは」
(!! また笑った……!!)
秋風の笑った顔を見るのは大好きだ。
嬉しいな、楽しいなと思っていたら、テーブルの上に秋風のスマホが急に鳴り出した。
「……! あ……、ごめん」
「電話か?」
「……うん……」
見つめるだけで出ようとしない秋風に、俺は首を傾げた。
「出ろよ! 切らないで放置してるってことは、切ったら角が立つからだろ? 仕事関係の知り合い?」
「……そう……だけど……、スマホは見ないってさっき、波青と約束をしたから」
「え? あ、あぁ……! あれ? 見ちゃダメだって言ったのは、とっくのとうに終わってるぞ! 俺、おめでとうの一番乗りが欲しかっただけだから! もう良いの!」
「……? そうなの?」
「おう! だから、早く出な! こんな時間にかかってくるってことは、多分お祝いだ! 無視したら悪いぞ!!」
「……ありがとう。ごめんね、すぐ済ませるね」
「うん。ごゆっくり~」
秋風が申し訳なさそうにスマホを取る。
そして電話をし始め、「はい……、そうなんです、今日です。覚えていてくださったんですね。気にかけていただいて、ありがとうございます。すごく嬉しいです」などと丁寧にお礼を述べている。やっぱりお祝いの電話だったようだ。
(誰だか知らないが、こんな夜分にかけてくるだなんて……相当秋風のことが好きなんだな。強力なライバルだぜ。やっぱ俺、ぴったりを狙って良かった……)
「終わったよ。ごめん、波青──」
「あ! 全然……!」
電話を終えた秋風に声をかけられ、俺はパッと顔を上げた。しかしその瞬間、またもや無機質な着信音が鳴り響いた。
──♪♪♪
「「……」」
(ふ、二人目……ッ!?)
終わったらと思ったら、すぐ次……。もはや順番待ちでもしてるのだろうか。秋風の誕生日パワーで、この時間なのに回線混みまくりか。恐ろしい。
「い、いいなお前……! めちゃくちゃ祝われるじゃん!」
「……あの……」
「ほら、切れちゃうぞ。急いで出ろ!!」
「うん……本当にごめんね」
「俺は大丈夫!!」
厚意を無碍にしたらいけないからな。
「……──はい、二十五歳になりました。ええ、今度お目にかかる際には、ぜひ……」
「……」
俺は何事かを話している秋風の隣で腕組みし、一人うんうんと頷いて待った。
「今後ともよろしくお願いいたします。それでは、失礼いたします」
「……!」
睡魔で重くなる瞼を必死に堪えていたら、やがて秋風がスマホを置いた。
(おっ、終わった……!!)
やったーと思った途端、またもや着信音が響いた。
──♪♪♪
(さ、三人目……だと……!?!)
「……」
愕然とする俺の横で、秋風が無表情でスマホの画面をうかがっている。
それから、唐突に音が止んだ。
「! あれ……。切れちゃったな。大丈夫か……?」
「ううん、俺が電源を切っただけ。これでもう誰からもかかってこないから、大丈夫だよ」
「おまっ、電源ごと切ったのか……!?」
(まずいだろ、それ!!)
「今のは黒さんだったから、切っても大丈夫。さっきまでの二件は最近お世話になってる監督さんと事務所の先輩だから、できなかったけど……」
「……そ、そうか……」
黒さんも一応配信者の先輩なんだけど。まあ、あの人は先輩は先輩でも、別に怒らないタイプの先輩だと分かっているからだろう。
「……」
「……ん? ……秋風? どした……?」
なんだか不安そうに考え込んでいる秋風の顔を、俺は覗き込んだ。
すると、秋風がおずおずと思っていることを口にしてくれた。
「……あの……、波青。誕生日ってさ、一年に一度だけ尊重してもらえる権利のある日……、だよね……? 多分……。だから、今日くらい俺の好きにしてもいいかな、って。電話に出たくない……。誰にも波青との時間を邪魔されたくないから」
「……!! お、おぉ…………」
(っっっ……か、かわいい……!)
ずきゅんときて、転げ回りそうになってしまった。
なんて可愛らしい表情で可愛らしいことを言うんだ、秋風のヤツ。
(まあ、みんなお祝いしよって思って電話をかけてくれたのに、邪魔扱いするのはどうかと思うけどな……。う、うん…………)
でも、秋風が自分の主張をはっきり言うのはめちゃくちゃ珍しいことだから。せっかく貴重な意思を見せてくれたのに、それをとがめたらしょんぼりさせてしまう。指摘するのはやめておこう。
「その通り! 今日はお前が一番偉いし、尊重されるべき日だ! なんでも秋風の好きなようにして良いんだぞ!!」
「……!!」
肯定してみたら、秋風がホッと緩んだ顔でこっちを見た。
(……! 良かった……)
『良かれと思って電話してくれた人のことを邪魔扱いなんてしたら絶対ダメだ!』とか、一方的な正義感を振りかざして叱るのは、きっと無粋でしかない。今日はめでたい日だから、俺だって空気を読まなければ。
秋風は空気を読まない俺を気に入ってくれているみたいだが、それに甘えてなんにも考えないで我が道を突き進んだら、また秋風のことを傷つけてしまうかもしれない。
人を傷つけることに鈍感なのは、最低だ。それと自分の意思を貫くことは、全く別の話だ。
「ありがとう、波青。波青が良いと言ってくれて、すごく安心したよ。偉いというのは、よく分からないけど……」
「なんでだよ!? 分かるだろっ! お前は本日の主役、つまり王様なんだ! だから俺にだって、なんでも命令していいんだぞ! あっ、今日だけな」
「!? めっ、めめ、めい……れい…………っ? な、波青に……、おっ俺が…………??」
「おう。そう、秋風が俺に。なんかねーの? 俺にしてほしいこと。今日限定だぞ~。言わないと損だぞ~~」
「…………っ~~~…………」
俺の冗談に、秋風は太ももの上でぎゅっと強く手を握り締め、俯いてしまった。
(……!! こ、困ってる……。すげー困ってる……ッッ!!)
耳が真っ赤だし、目も固くつむって沈黙してしまっていて、可哀想だ。
いたいけな秋風を追い込んでちょっと酷だっただろうか……。心優しい秋風が人に命令なんてできるわけないのに。
(……無茶振りにも程があるって感じだな……)
急激な罪悪感に襲われて、俺は助け舟を出すことにした。
「ん、んーと……難しいなら、命令じゃなくて、願いごとでもアリだぞ!? 今日一日だけ何でも叶うんだ!」
「……! ね、願い事……? それなら……」
「お……!! なんかあるのか!?」
「……うん。じゃあ、一つだけ……」
困っていた秋風が顔を上げ、そっと微笑んでくれた。
「波青が今日、良い夢を見てゆっくり幸せな気持ちで眠れますように」
「………………」
──ああ。
……ダメだこいつ……。
(……絶対、俺が幸せにしなきゃ……。いや、幸せにする。させてください。お願いします……)
秋風への愛を再認識し、『告白頑張ろう』と改めて強く思ったハッピーバースデーだった。
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