超絶寵愛王妃 ~後宮の華~

冰響カイチ

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第24話 (中)⑥花嫁のマリッジブルー

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「いぇいぇ、私が花嫁なわけがーーーー」

焦って否定すると少年の嘆息によって打ち消される。

「どこも間違いありません」

いゃいゃ、あるでしょう!?  問題とか。色々と。

「どこに証拠が? どこからどう見てもただのクロネでしょう? よく見なさいよ」

ほら、と言って袖をまくりあげ腕をつきだす。

どうにも納得がいかない。ただの斑点だ。

少年はめくりあげた腕をとくと見る。

「よく見ました。師匠の書物にあった獣の刻印に違いありません!」

絶対に違う。あり得なすぎて逆に嗤ってしまいそうなんですけど!!
獣の刻印って何ですか?
誰が見たんですか?
確証は!?
そもそも婚姻の申し込みをされた覚えもないのですが?

「絶対だって言いきれますか」

麗凛も引き下がらなかった。食いついていく。

「絶対です。妖怪にとっての刻印は、いわば所有印みたいなものとお考えいただければわかりやすいかと」

知らぬ間にツバをつけられた位の物言い。

「う、うむむ」

脱帽。ぁぁ言えばこう言う人間、正論で論破してこられてはどうにもならない。否定の材料すらないのだ。見事……撃沈。

「……わかった。双方待つように」

うーん、と小難しげにうなってみせるや煌禿が仲裁にはいった。


「………して、そもそも、ぬき、とはいかなるものなのか」

ぬき、と聞いて襟をただした少年の方眉がわずかにはねた。

皇子様のお言葉とあっては侍女のものとは違う。

確かにそうだ。明瞭である。
相手の正体を知らぬのでは判断材料にかけるというもの。

言ってみなさいよ、と麗凛も固唾をのんで少年の言葉を待つ。

「その、ぬきですが、その名の由来とされるのが、この地方独特の習慣における、ヤキにおを付けるように、ぬきもまた、たを抜き、ぬきと呼ばれるとも。この地方を掌握する大妖怪ぬるきの子で本性はたぬきの妖怪です」

「…………」

「何と!?」

言葉を失った。図鑑でなら見たことがある。
愛くるしい容姿。円らな眸。犬に近いようで冬ともなると毛皮がモコモコと二割増しされ悶絶ものの可愛さ。

飼えるものなら是非とも飼ってみたいと図鑑をながめていたものだ。

お手をされたらキュン死間違いなし!

「たぬき!? あの、山とかにいるあのたぬきであるか?」

「と言ってもただのたぬきであるはずもなく、白い綿毛のもっさりとした毛の塊のようで、尾は九尻あるといわれております」

白い綿毛ような塊、あれがぬき?

可愛い毛玉にようであったが。

そう言われてみると…………否定したいが否定できない。
そうかもしれない。

ぐっとこらえる。

「九尾ともなると尾の数に比例して妖力も並の妖怪と比べ物にもならず。もはや父ぬるきをも超える妖力を持つとも。やつは、人間の娘を娶りたいようで古くから娘の前にたびたび現れては試す素振りをみせ。そういったことからも近くの邑人らは娘には白い物には近づくなと幼い頃からよく言ってきかせており、娘もまた近づきません」

で、知らぬ麗凛がたまたま近づいた、と?

「それで?」

「一説には気にいった娘に御印とよばれるアザをつけてそれをたよりにやつの手下どもが娘を迎えにくると」

それが昨日の晩にみた花婿行列か、とやっと府に落ちる。「なるほど」と煌禿は頷く。頤を撫でやる。

「ぁ、あの!」

いよいよだまっていられなくなった麗凛は、す、と挙手する。

うん、と頷いて返す煌禿。

「やっぱり花嫁は玉揺さんじゃ?」

二百年も待った花嫁。人と時の隔たりがあるのなら双方の友好をもとに時期を待っていた、とも考えられる。

「いいぇ」ときっぱりと否定する少年。

「奴らが来るとすれば今夜。奇しくも満月。妖力が増すともいいますし」

「なるほど」

確かに玉揺がぬきの花嫁であれば二百年前にとっくに想いをとげていたはずで、人間の娘なら誰でもいいということでもなさそうだ。

尤もぬきからすれば花嫁を欲すれば二百も待つ必要などないのだ。

理由までは定かでないが、麗凛がぬきによって花嫁として選ばれた。

「…………」

どうしよう。

皇女ならばきっと助けざるをえない。戦ざただ。だが賢明な義兄なら大妖怪に喧嘩を売るような愚行など絶対にしない。
しばらく様子をみるだろう。
最悪、放置。あり得る。

「……皇子様」

頼みの綱といえば今は煌禿のみ。

麗凛は帝国の皇女ではある。
が、今は身分を偽って隠している。
そんな海のものと山ともつかない他国の侍女を皇子がわざわざ助ける義理もいわれもない。
何より皇子に利することもなく、ましてやそこまでするいわれもないのだ。

(見捨てられる?)

義兄上ーーーーと願うがどうにもならない。
嫁ぐ前ならそうしてくれただろう。
しかして今は助けてくれる人もなし。

「…………」

そう心配になって煌禿を見ると、にっこりと妖艶なる微笑をはなつ。

「心配することなどなにもない。言っただろ? 君は特別だってね」

「でもっ」

煌禿に手をすがる想いでさしだす。
ぷるぷると震えて思考すらも定まらない。

侍女風情を見捨てたとして異論など唱えられる身分ではない。
けれど煌禿は力強く頷いた。

「とにかくこの娘を助けてやりたい。ちからを貸してくれ」

皇子の意向をうけ少年は「御意」と告げ拱手してうつむく。

「…………」

本当に助けてもらえる?
少年から良く思われていないことはひしひしと感じられる。
本当に力になってくれるのだろうか?
出来ませんでした、そう終わる?
好きな人と添い遂げられず、先だってのように先に逝かれて?

ならば、わたしを自由にするためだけに犠牲になってくれた義兄に顔向けできずに妖怪へ嫁ぐ?
そんなことのため義兄にあのようなことまで?
そう不安にかられる。

「煌禿皇子。決戦は今夜。それまでに迎え撃つための準備をいたしとうございます」

そう言って席をたつ少年。麗凛の不安を感じとってか煌禿は卓子の下でしかと手を握る。

温い。人の温もり。体温。脈うつ鼓動。

ぁぁ。だから人は人によって救われる。

ぎゅと力がこめられ、麗凛もまたふぅと呼吸を整える。

この人が守ってくれる。そう想える。

「うむ。万全を期してのぞむように」

一礼してのち少年は扉へと歩みだす。

「…………」

どうしたことだろう。
安心させたいという鼓動と呼吸、一挙手一投足が伝わってくるというのに、どうにも一向に震えが止まらない。

もし私のせいで誰かが傷つきでもしたら?

「…………」

決戦?  つまりは戦いも辞さないという?

すん、と気持ちが重くなった。

自分の好奇心のせいで他人に迷惑をかけ、そう思うだけで気がひける。

麗凛は力なくうなだれた。

「大丈夫だよ、案ずることはない」

すると少年がまだそこにいるというのに誰の眼を憚ることなく麗凛の肩に手をおき「君もお帰り。昨夜もぐっすり眠れていないだろう? 夜まではゆっくりと休むがいい。今夜も眠れぬ一夜になりそうだから」と柔和に笑む。

けど、といいおかれた。

「僕として嬉しいけどね。ずっと君といられるから」

今夜も、と意味深に言われ麗凛の頬に朱が散る。

夕べも何かあったかと誰かにとられない科白。

「なっ!? 皇子様!!」

慌てて声をあげると煌禿は高らかと笑う。

どこが愉快なものか。
口先を尖らせてみせると煌禿は麗凛の肩を引き寄せ耳うつ。

「聞かせてやったのだ。君に妙な虫がつかないように、ね」

そっと離れると艶然たる微笑がそえられた。

「…………はぁ」

間違いなく少年に誤解されただろうことはみなまで言うまでもない。

重い嘆息を吐くと重なるように小さくパタンと扉のしまる音がきこえた。






                                     


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