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第1章 禁断の魔道士
魔道竜(第1章、30)
しおりを挟むそれは挙動不審ぎみな女性の声だった。
年の頃は十八・九といったところか。
「こんにちは」
ティアヌは何食わぬ顔つきで挨拶をし、少しでも相手の警戒心をやわらげる。
すると家の主人は恐る恐るドアを数ミリ程度の隙間をあけ、そこから三人を訝しげな視線でむかえた。
「なんのご用でしょう……」
「私たち船に乗って旅をしている者です。よろしければお話しをおきかせ願えないものかと」
チラリと見えた女性の顔色がかわった。
「お話しをするようなことはなにもありません!どうかおひきとりを」
そう言われて、はい…そうですか、とは簡単にあとにはひけない。
「もしかしたらあなたのお力になれるかもしれません」
「ち…から?」
ティアヌは手持ちのわずかな情報から推測できうるかぎりの推理をまとめあげる。
根気よく交渉するべくもうひと押しゆさぶりをかけてみた。
「悪いようにはしません。あなたが邪蛇を恐れていることも、この街全体をあげてまでなぜ邪蛇を祭りあげなければならなかったのか、その理由が手にとるようによくわかります。それに私は邪蛇から逃れるすべも知っています」
扉が先ほどより開かれていることがはっきりと確認できる。それと同時に彼女の閉ざされていた心のキャパシーの許容量が変化した瞬間でもあった。
「本当に?」
「えぇ。お力になれませんか?」
「あの邪蛇から逃れるすべを…知っているの?」
それでもまだ何かに怯えドアの隙間から片目をのぞかせ辺りの様子をうかがっている。まるで何者かによって監視されているかのように。
「もしあなたの身に一旦緩急の事態におちいるようなことがあれば私たちが全力もってあなたをお守りします」
女主人はおおいに迷ったあげく一大決心でもしたかのようにドアをあけはなった。
「あなたたち、家の中に入って、早く!」
その女性のあまりに暗く落ちくぼんだ目に一瞬言葉をうしなった。
そのどん詰まりにまで追い込まれた女主人の表情には救いの手がさしのべられ藁にもすがりたいといった感情がうかがいしれる。だが神様でも見るようなそのまなざしが非常に痛かった。
「……い…行くわよ」
ドアに吸い込まれるようにして足早に家の中へ。三人が小さな家の中に無事におさまるとティアヌはドアごしにその気配が動くかをつぶさにさぐりをいれる。だがその気配は動くどころか何事も起きる素振りすらみせない。そのままティアヌは静かに扉をしめた。
扉を閉めるとほぼ同時に、一瞬ぞっとするまでに背筋に怖気がはしる。それまでとは違ったするどく尖った殺気に戸惑いをかくせない。
これはタダ者ではない。
ティアヌは横に飛び退き扉の横にある小さな窓からその気配をさぐる。
やはり何かがいる……。
だがその殺気はすぐに消え、すぐ近くの草むらが不自然なまでにガサガサとやけに音をひびかせた。
数人、いや何十人にもおよぶかもしれない足音。
その足音を隠そうともせず新たに現われたそれは木立ちの切れ間の雑草がおいしげったすぐそこまでせまる距離にある。
これは彼女の動向を監視する街の人たちのものか?
そこまでする必要が彼女にはあるのか?
それにしても先ほどの気配と草むらにいる気配とはまったくもってことなる。足音をしのばせるどころか気配などおかまいなしに敵意むきだし。これはズブのど素人のそれだ。まるで私はここにいますよ、とその存在をしらしめているようなものだ。
それより注目すべきは先ほどの気配。あれは玄人(くろうと)によるものだ。その差は歴然としている。あれはその道を生業(なりわい)とするまさに本職の兇手(きょうしゅ)のはなつそれだ。
なるほどね……。
窓からその様子をうかがっていたティアヌは、これまで推測段階だったものが辻褄があわさりすべてを符合させた。彼女は何者かに命そのものを狙われているのだと。それも兇手と邪蛇を崇拝する両者から。
「今お茶をいれるから、そこの椅子にどうぞ」
窓の外の様子をうかがっていたティアヌの不審きわまりない行動に対し、どこかその理由すら彼女には理解しているようなそんな素振りをみせる。
複雑な表情をうかべながら彼女はダイニングテーブルへ手をかざした。
「あの~どうぞお構いなく」
「そんなこと言わないで、お客様を迎えるなんて本当に久しぶりだから。せめてお茶ぐらいご馳走させて」
「ならお言葉に甘えて、一杯だけ」
「とは言ってもね、紅茶しかないの」
すがるおもいで三人を招き入れた女主人。邪蛇を遠ざける方法を知っていると聞いたためか少し彼女の暗い瞳に輝きをとりもどしたように見えた。
女主人が台所に姿を消すや、セルティガはボソッとこぼした。
「この家、恐ろしく寒くないか?」
「しっ!どこもかしこも隙間風だらけなんだから仕方がないでしょう?家の中から青空が見えるぐらいだし。それより…そんな無礼きわまりないこと本人の前で言わないでよね」
「お前の方が無礼きわまりなくないか?」
「そんなことより。彼女と私が話しをしている間は、セルティガ…あなたは口をはさまないこと、いいわね?」
釘をさしておく。
「余計なことを言うなといいたいんだろう?それぐらいのデリカシーなら俺にだってもちあわせている!馬鹿にすんな」
「ならいいのよ」
「ちょっと待て、俺には釘をさしておいてセイラには釘をささないのか?」
「あのね……セイラにはまったく必要ないじゃない、あんたと同レベル視しないの!」
「ティアヌったらぁ~それはどうもありがとぅ。ティアヌにそこまで一目おかれて光栄だわぁ」
「な!?なんだこのありありと見せつけられる差の違いは……」
ヤツはこの調子っでその場の空気を木っ端微塵にくだきにかかるおそれがある。
話しが一段落したところで、女主人は茶器のセットごと華やかなプレートのうえにのせ台所から姿をあらわした。
「旅は長いの?随分と仲がいいのね」
「ぇ?まぁ………」
そんな風にふられると昨日今日の付き合いですとはさすがに言い出しがたい。
女主人は暖炉の上にかけられたポットからティーポットへとお湯をそそぎ、それにカバーをかぶせてしばらく待つこと数分。女主人もテーブルについたことで場の空気は緊張がみなぎった。
お茶をどうぞ、そういって4客のカップに紅茶をそそぎこみ、カタカタと激しく音をたてながらお茶がだされた。
受け皿の上でティーカップが踊って中身があふれんばかりに大波をたてている。彼女の心中そのもの、決して穏やかではないようだ。
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