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第2章 精霊条約書

魔道竜(第2章、7)

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クルクルと左回りに後退する秒針。



その動きにあわせ、ゴキブリのせりだした触手が、見る見るうちに収縮していく。



「よし!」



セルティガは確かな手応えを感じた。



゛…… これならいける! ……゛



セルティガの手にした剣は、岩をも切り裂く魔刀・風斬丸。



漆黒の鎧をまとった敵に狙いを定め、その刀身に赤い妖力の風をまとわりつかせる。



セルティガの集中力が増せば増すほど、妖力は赤々として紅蓮の炎さながらとなり、魔の風となさん。



セルティガは腰をおとし、わずかに双眸をとじ、剣を後ろ手に構える。



カッと見開くと、そのまま漆黒の敵へと一直線に走り出した。



「うぉぉぉぉぉぉーーーーッ」



剣の重み、それは風圧となってセルティガの腕にも負担がしょうじる。



だが、それに負けない風斬丸の主たるに相応しい、たしかな技量がセルティガにはある。



風斬丸と名付けられたその名に恥じない、時空をも切り裂く風の刃。



敵との距離をおよそ百メートル強の間合いまでつめる。



ちょうど頃合だ。



セルティガは真一文字にふりおろす。



魔族に一撃をあびせた。



「殺(や)ったのか?」



すると魔族はピクピクと痙攣させ、ひっくりかえった態勢のまま手足をひくつかせた。



「出たわ! 必殺、死んだフリ攻撃!! 油断は禁物よ」



どんなに衛生面に気をつかっていても出没するゴキブリ。



シェフならではの観点からか、流石と称賛するべきか、ティアヌは冷静にゴキブリの習性についてを分析する。



セルティガはティアヌの一声をうけ、剣を構えなおした。



「お? おぅ!」



しばらくすると、ゴキブリは手足をひくつかせることをやめた。



「死んだのか?」



「ダマされては駄目よ!


ゴキブリは、叩かれたり踏み付けられると死んだフリをしたのち、いつの間にやら復活して遁走をはかるわ。


トドメの一撃をあびせるまで、一瞬たりとも気をぬいては駄目よ!」



敵がたとえゴキブリだとしても、曲がりなりにも魔族。



セルティガはティアヌの助言をききいれ、気をひきしめる。



「よし! わかった」



じりじりと、敵との間合いをつめていく。



ヤツを殺ったのか?



それとも?



疑念をいだきつつ、セルティガはトドメの一撃をあびせるため、適度な位置までつめよる。



動かなくなった魔族めがけ剣をふりおろした。



「…………!?」



しかし、セルティガはそのまま硬直し、剣先もとまった。



まさか!?






    
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