魔道竜 ーマドウドラゴンー

冰響カイチ

文字の大きさ
95 / 132
第2章 精霊条約書

魔道竜(第2章、44)

しおりを挟む


セルティガは剣を掲げ、疾風迅雷のごとき速さでかけぬける。



「…………」



呪文での援護を、と唱えてみたものの、それにはおよばない。



なぜなら邪蛇は腕組みをし、頬杖をつきながら微動だにもせず、まったくといって意にもかえさない様子。



いや、セルティガの行動そのものに興味をひかれないかのよう。



この余裕ぶりは一体なんなのか。



ティアヌはそれをいまだはかりかねている。



邪蛇の先ほどの口ぶりからして、どうやらティアヌたちの到着をまちわびていた。


その意味するところ、それこそが邪蛇の真の狙いのような気がしてならない。



いや、それだけではないのかもしれない。



邪蛇の本当の狙いは、ティアヌをここへ導くことにある?



いいえ…そんなはずないわ、ありえないじゃない、そう自らを諭す。



「…………」



だってそれじゃまるで―――――。






「うぉぉぉー!」



すべりこむかのような間合いで聖木にたどりついたセルティガは、見るからに頑丈そうなロープへ剣を上下に押し当てる。



「大丈夫か?」



と告げてからセルティガは思わず息をのむ。


その手のプレイが好きな奴には瞼に永久保存したくなるような大人のエロス。大きな胸元がより強調され、目のやり場に困る。



「な…わけないじゃなぁい」



セイラの頬をつたう鮮やかな血糊を一瞥するや、



質の悪い…などと聞こえよがしに邪蛇への悪口まがいも織り交ぜ、声音をおとしがちに「すぐに脱出するぞ、俺につかまれ」とつぶやく。



あの邪蛇に対して罵詈雑言を言ってのけようとする命知らずな愚か者は、おそらくセルティガぐらいのものだろう。


ティアヌにだけでなく、誰に対しても一貫としてつらぬかれるその姿勢はもはや尊敬に値する。




「私のことはいいから……二人で逃げ――――」



「…ざっけんな!今は黙って助けられてろっ」



セイラは驚いてパチくり…と瞬く。



あのおバカ丸出しの魔剣士が言うに事欠いて、なぜか頼もしい。


カッコいいじゃない…などと、セルティガを喜ばせそうなセリフがうっかり口をついて出そうになる。



「…っうか嘘だろう?くっそぅ……切れねぇ」



なかなか思うように切れない。



見た目だけなら綱引きでもできそうな太いだけのロープ。



思わず、何をやっているのよ!と怒号の一つもあびせてやりたくなる。



「なんで切れないんだ??」



それはセルティガだけでなくティアヌやセイラにも焦燥感をあおった。



刻一刻と時は流れた。


もしこんな状況でなければ、丸太を伐採するがごとく刃を上下に動かすさまは、はたから見れば愉快きわまりない。



腰痛モチのようなへっぴり腰ぎみな不自然な体勢。これで攻撃をうけたならひとたまりもない。



イライラとして爪先で時を刻まずにはいられない。



「あらあら、僕ちゃん……私がそんじょそこらのロープを使うと思って? ツメが甘いわね」



顔を洗って出直してこい、と言わんばかり。



な、なるほど。



余裕綽綽のわけは、これか! 



ロープに強化呪文をかけてあったのだ。



いかに魔刀といえども簡単には切れないよう細工済みといったわけだ。



邪蛇の呪文を打ち破ることは弱りきったセイラはもちろんのこと、火竜玉しか使えないセルティガは問題外。とうてい不可能。お話しにもならない。



もし打ち破ることができたら、それこそまさに奇跡!



「でも~その女、これといって使い道もないのよね……。


ここまでよく辿り着けました、のご褒美ってことで、特別にアナタたちのもとへかえしてあげるわ」



そう告げるや、スルスルとほどけていくロープ。



「なっ!?」



木からはがされるようにして崩れゆくセイラ。



セルティガはセイラの身体を抱きとめた。



「大丈夫か?」



「ぇ…?うん」



これは一体なにを企んでの行動なのか。



「そんな女海賊、ニエにされるに値しないもの」



使い道がない……とはこの事なのか?



「何を言っているのよ、セイラが女海賊だなんて。いい加減なことを言わないで!」



「いい加減?」



「そうよ!」



すると邪蛇の瞳に妖しい光がともる。



「嘘か真か、その女にたずねればわかること。それに………」



それに…と口にしたその時、邪蛇の言葉をさえぎるかのようにセイラは立ち上がるにはおぼつかない足に力をこめる。



「ティアヌ、それ以上聞かないで――――お願いだから」



セイラは体勢をくずし、危うく転倒しかけその場にうずくまる。



「ほぅら、ね?」



セルティガの腕の中でティアヌを見据えるセイラ。



目と目があえばセイラの気持ちがティアヌの中へ流れ込む。



「セ…イラ?」



セイラの切実なその想いが。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...