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第2章 精霊条約書
魔道竜(第2章、44)
しおりを挟むセルティガは剣を掲げ、疾風迅雷のごとき速さでかけぬける。
「…………」
呪文での援護を、と唱えてみたものの、それにはおよばない。
なぜなら邪蛇は腕組みをし、頬杖をつきながら微動だにもせず、まったくといって意にもかえさない様子。
いや、セルティガの行動そのものに興味をひかれないかのよう。
この余裕ぶりは一体なんなのか。
ティアヌはそれをいまだはかりかねている。
邪蛇の先ほどの口ぶりからして、どうやらティアヌたちの到着をまちわびていた。
その意味するところ、それこそが邪蛇の真の狙いのような気がしてならない。
いや、それだけではないのかもしれない。
邪蛇の本当の狙いは、ティアヌをここへ導くことにある?
いいえ…そんなはずないわ、ありえないじゃない、そう自らを諭す。
「…………」
だってそれじゃまるで―――――。
「うぉぉぉー!」
すべりこむかのような間合いで聖木にたどりついたセルティガは、見るからに頑丈そうなロープへ剣を上下に押し当てる。
「大丈夫か?」
と告げてからセルティガは思わず息をのむ。
その手のプレイが好きな奴には瞼に永久保存したくなるような大人のエロス。大きな胸元がより強調され、目のやり場に困る。
「な…わけないじゃなぁい」
セイラの頬をつたう鮮やかな血糊を一瞥するや、
質の悪い…などと聞こえよがしに邪蛇への悪口まがいも織り交ぜ、声音をおとしがちに「すぐに脱出するぞ、俺につかまれ」とつぶやく。
あの邪蛇に対して罵詈雑言を言ってのけようとする命知らずな愚か者は、おそらくセルティガぐらいのものだろう。
ティアヌにだけでなく、誰に対しても一貫としてつらぬかれるその姿勢はもはや尊敬に値する。
「私のことはいいから……二人で逃げ――――」
「…ざっけんな!今は黙って助けられてろっ」
セイラは驚いてパチくり…と瞬く。
あのおバカ丸出しの魔剣士が言うに事欠いて、なぜか頼もしい。
カッコいいじゃない…などと、セルティガを喜ばせそうなセリフがうっかり口をついて出そうになる。
「…っうか嘘だろう?くっそぅ……切れねぇ」
なかなか思うように切れない。
見た目だけなら綱引きでもできそうな太いだけのロープ。
思わず、何をやっているのよ!と怒号の一つもあびせてやりたくなる。
「なんで切れないんだ??」
それはセルティガだけでなくティアヌやセイラにも焦燥感をあおった。
刻一刻と時は流れた。
もしこんな状況でなければ、丸太を伐採するがごとく刃を上下に動かすさまは、はたから見れば愉快きわまりない。
腰痛モチのようなへっぴり腰ぎみな不自然な体勢。これで攻撃をうけたならひとたまりもない。
イライラとして爪先で時を刻まずにはいられない。
「あらあら、僕ちゃん……私がそんじょそこらのロープを使うと思って? ツメが甘いわね」
顔を洗って出直してこい、と言わんばかり。
な、なるほど。
余裕綽綽のわけは、これか!
ロープに強化呪文をかけてあったのだ。
いかに魔刀といえども簡単には切れないよう細工済みといったわけだ。
邪蛇の呪文を打ち破ることは弱りきったセイラはもちろんのこと、火竜玉しか使えないセルティガは問題外。とうてい不可能。お話しにもならない。
もし打ち破ることができたら、それこそまさに奇跡!
「でも~その女、これといって使い道もないのよね……。
ここまでよく辿り着けました、のご褒美ってことで、特別にアナタたちのもとへかえしてあげるわ」
そう告げるや、スルスルとほどけていくロープ。
「なっ!?」
木からはがされるようにして崩れゆくセイラ。
セルティガはセイラの身体を抱きとめた。
「大丈夫か?」
「ぇ…?うん」
これは一体なにを企んでの行動なのか。
「そんな女海賊、ニエにされるに値しないもの」
使い道がない……とはこの事なのか?
「何を言っているのよ、セイラが女海賊だなんて。いい加減なことを言わないで!」
「いい加減?」
「そうよ!」
すると邪蛇の瞳に妖しい光がともる。
「嘘か真か、その女にたずねればわかること。それに………」
それに…と口にしたその時、邪蛇の言葉をさえぎるかのようにセイラは立ち上がるにはおぼつかない足に力をこめる。
「ティアヌ、それ以上聞かないで――――お願いだから」
セイラは体勢をくずし、危うく転倒しかけその場にうずくまる。
「ほぅら、ね?」
セルティガの腕の中でティアヌを見据えるセイラ。
目と目があえばセイラの気持ちがティアヌの中へ流れ込む。
「セ…イラ?」
セイラの切実なその想いが。
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